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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第七章 神無月
160/286

160 自給自足の第一歩

《カフェまよい》スケジュール(基本)

AM 5:00 起床

AM 5:30 小豆あらい出勤 仕事開始

AM 7:00 朝食 極々簡単なもの。基本、真宵がつくっている。

AM 7:30 仕事再開

AM 10:00 昼食 基本、その日の『ランチ』の試食を兼ねる。

AM 11:00 開店 




妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

定休日は土日。

店主である真宵は、金曜日の夜、寝ている間に人間界へと戻り、週末の余暇を過ごす。

そして、月曜の朝、目覚めると妖異界に来ており、また仕事を始めるという次第である。

それが、この半年以上繰り返された《カフェまよい》の生活サイクルだった。

そして、そのサイクルが神無月にはいったことで崩れ、現在、《カフェまよい》は前代未聞の危機に陥っていた。




「どうしよう。どう考えても一ヶ月なんてもたないわ。」


《カフェまよい》で提供される料理や菓子の材料のほとんどは、人間界から持ち込まれている。

腐らないものはある程度、大量に持ち込んでストックしていたりもするが、多くの食材は真宵が週末に人間界へと戻ったときに買って、持ち込んでいるのだ。


「小豆と砂糖はだいじょうぶなのよね。もち米にうるち米、あと、小麦粉や白玉粉なんかは、まあ、うまくやりくりすればいけそうだし・・・。」


とりあえず計算してみたところ、看板商品である『おはぎ』は問題ない。『饅頭』もあるていど作る種類を限定してやればなんとかなると思われる。『羊羹』や『ところてん』もしかり。

小豆を大量にストックしてあったのは幸運だった。

問題はやはり、『ランチ』でつかう肉、魚、野菜。生鮮食材だ。

これらは、毎週、その週に使う分だけ真宵が持ち込んでいた。ストックはほぼゼロといっていい。

さらに足りないものがひとつあった。

米だ。

先月、米屋をのぞいた時、新米がでたばかりで、少々値段がお高めだった。

まだ、ストックも結構あった時期だったので、もう少し待てば値段が下がるかも、と淡い期待で後回しにしたのが仇となった。

ランチだけでなく、『おにぎり』でもつかうので、けっこうな量をつかう。いまある米では、もっても今週いっぱいだろう。



「店なぞ、ひと月くらい休んでもかまわぬじゃろう?」

そう言ったのは、座敷わらしだ。


「だめよ。楽しみにしてくれてるお客さんだっているのに。」


それに、店を休んでは、真宵はひと月もの間、なにをするでなく、ただ、ぼーっと家のなかで過ごすことになる。

テレビもネットもない世界で、それはあまりにも退屈だ。


「とりあえず、『ランチ』と『おにぎりセット』をとりやめてはどうだ? 残念がる客もいるだろうが、菓子だけでも食べに来る客は大勢いるだろう?」


「そうねぇ・・・。それしかないかしら。」


右近の提案に、真宵はうなだれた。

もともと甘味茶屋なのだから、それでもいいのかもしれないが、開店以来ずっとやってきた『ランチ』をやめてしまうのは、それを目当てに通ってきてくれる客もいるので、なんとも残念だ。



「あの・・。少しよろしいか?」


狸妖怪の金長が口を開く。


「肉も野菜も、こちらの世界で調達するのでは問題があるのだろうか? 種類も限定されるし、真宵殿が持ってくるものと比べれば、品質も劣るかもしれないが、工夫すればなんとかなるのではないだろうか?」


金長の言葉にハッとなる。

言われてみれば、そのとおりだ。

いままでだって、『山童』や『狒狒』たちから山の幸を買いとったり、『てなが』たちから魚を買い取ったりしていた。

あくまで、補助的なものであったが、頼めばもっとたくさん持ってきてくれるかもしれない。


「そうよね。たったひと月だもの。みんなにお願いすればなんとかなるかもしれないわ。ちょうど実りの秋だし、山でも海でも獲れるものは多いはずだもの。」


「なるほど。そうゆう手もあるのか。」

右近も感心する。


「調味料なんかは、揃ってるんだもの。できないはずないわ。・・・とすると、あと問題は・・・・米よね。」


「米なら、こちらの世界でも手に入る。皆、普通に食べているからな。」


「そうですよね。あとはどうやって手に入れるか・・・、あっ!!泥田坊さん! たしか、泥田坊さんが自分でお米つくってるって言ってました。」


「ああ、泥田坊はもともと田を守る妖怪だからな。いまも案山子神と一緒に田んぼをやっているはずだ。」


「なんとかお願いしたら、融通してもらえるかしら?」


「それは、だいじょうぶなんじゃないのか。けっこうな広さで作っているから、自分たちで食べる分だけってことはないだろうし。ちょうど、収穫も終わっている時期だろうし。」


「そうよね。でも、よそに売っちゃうかもしれないし、早めにお願いしないと。右近さん、その泥田坊さんの田んぼの場所わかるんですよね?」


「ちょっと待て!」

見ると、座敷わらしが険しい顔で睨んでいた。


「マヨイ、まさかそなた、いまから泥田坊のところに行こうなどと考えているのではあるまいな?」


「え、だって、はやくお願いしないと、お米は今週中にもなくなっちゃうし、泥田坊さんにだって都合があるだろうから、必ず売ってもらえるかなんてわからないし、はやめに話をもっていかないと・・・。」


「必要ない!」

座敷わらしが断じた。


「用があるなら、手紙でも書いて届けさせればよい。マヨイ。おぬしの最近の行動は目に余る。鞍馬山に出かけたり、野外で祭りを催したり、テラス席を設けたり、警戒心がないにも程がある。ここは、人間の世界ではない! 妖怪の世界で人間がうろつくことの危険性を少しは肝に銘じよ!」


「・・・・。」


真宵は不満そうに、押し黙る。

座敷わらしの言っていることが、間違いだとは思わないが、真宵とて、まったく無警戒だというわけではない。

野外で仕事をしているときも、店のまわりからは離れないようにしているし、鞍馬山に行ったときも、右近に同行してもらったし、決して離れないよう注意していた。帰宅もかならず日が沈む前にしている。


「座敷わらし。泥田坊のところは『遠野』の一角だろう? 別に危険な場所でもないし、ひとりで行くわけではないのだから、そこまで警戒する必要はないのではないか? 警護が必要なら、俺も同行するし、足りないのなら金長どのにも一緒に来てもらえばいい。」

右近が言った。


「・・・某には、『遠野』のご事情はよくわかりませんが、某で役に立つのなら、いくらでも協力させていただきますが?」


金長も真宵に協力する所存を表明する。

そうなると、分が悪いのは座敷わらしのほうだった。

眉間にしわを寄せて、顔をしかめる。


「ちゃんと気をつけるし、ちょっと行って話だけしてすぐ帰ってくるわ。だから、いいでしょう? せっかく楽しみにしてきてくれるお客さんがいるんですもの。できることはやっておきたいの。ね?」


「・・・・勝手にせい。せめて、『輪入道』あたりを呼んで運んでもらえ。マヨイひとりならまだしも、金長とマヨイのふたりは右近ひとりでは運べぬじゃろう。狸は空は飛べぬからな。」


「ええ。残念ながら。」

申し訳なさそうに金長がうなだれる。


「わかったわ。さっそく、輪入道さんを呼びましょう。あと、山童くんやてながさんに手紙を書かなきゃね。事情を説明して、できるだけたくさん食材を持ってきてもらいましょう。『海座頭』さんにも、一筆書いておいたほうがいいわね。いつもよりたくさん魚を獲ってもらうわけだし。」


「ふん。あんな石頭に断ることはないわ。」

座敷わらしが言い捨てる。

どうやら、あの御仁とはそりが合わないらしい。


「メニューも工夫しなきゃいけないし、この週末でできるだけのことはやっておかなきゃね。月曜になったら、店の営業で外出なんてできないだろうし。」


「俺ができることはなんでも手伝う。遠慮せずに言ってくれ。」


「無論、某も微力ながら協力させていただく。」


「ふん、勝手にせい。わしは関せずじゃ。・・・・まあ、オシラのところに手紙くらいは届けてやる。あやつはこのへんの山の主じゃ。多少の力にはなってくれるじゃろう。」


「ありがとう!みんな、ほんとはお休みのはずなのにごめんね。じゃあ、さっそく用意するわ。」


真宵は自室へと戻って行った。

急いで支度を整える。


行き先は『泥田坊』の棚田。


真宵にとってはこの世界で二度目の『おでかけ』である。





読んでいただいた方ありがとうございます。

神無月 続きでございます。

こんな感じで、今月は、食材の現地調達に奔走する予定です。


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