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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第一章 桜
14/286

14 酒蒸しのんべえ

人間界とは別の妖怪たちの棲む世界、妖異界。

ひょんなことから異世界で甘味茶屋を営むことになった真宵まよい


剣も魔法もつかえません。

特殊なスキルもありません。

祖母のレシピと仲間の妖怪を頼りに、日々おいしいお茶とお菓子をおだししています。

ぜひ、近くにお寄りの際はご来店ください。

        《カフェまよい》  店主 真宵

妖異界でただひとつ、人間の娘が営む甘味茶屋 《カフェまよい》。

そこで、メインとなっているふたつのメニュー『おはぎセット』『まんじゅうセット』。

どちらも、毎日、日替わりで内容が変わっている。

『おはぎセット』ならつぶあんとこしあん、きな粉と青海苔と胡麻から二種とお茶がセットで提供される。

『まんじゅうセット』はその日のオススメまんじゅうとお茶がセットになる。

麩まんじゅう、薄皮まんじゅう、ヨモギまんじゅう、黒糖まんじゅう。 店主の真宵が季節やその日の気分で選んで作っている。

その饅頭のなかで、一品だけ、一部のお客に異様な支持を集めている品がある。



「いらっしゃいませー。」


店主の真宵はいつものように、お客を出迎えた。


「こんにちは。マヨイさん。」


「おう。また、寄らせてもらったぜ。」


男女ふたりの客が来店した。


「ご来店ありがとうございます。どうぞ、お好きなお席にお座りください。」


笑顔で接客しながらも、真宵の心には疑問が渦巻いていた。

(なぜ・・・、なぜわかるの?)

『おはぎセット』の内容も『まんじゅうセット』のまんじゅうも、前日の夜、仕込むときに考えるので、当日まで誰も知らないはずだし、広告も宣伝もしてないので、来店するまでわかるはずはないのに・・。


真宵は、席についたふたりのお客に、話しかける。

いつもなら、メニューを持ってくる流れだが、おそらくこのふたりには必要ない。


「こんにちは。今日はいかがいたしましょうか?」


二人の客は、即答する。


「「『酒蒸し饅頭』をセットで!」」


「か、かしこまりました。」


厨房に戻り、注文の品を用意する。

(いったい、どうやって今日が酒蒸し饅頭の日だってわかったのかしら?)

ふたりの客が来店するのは、週に一度か十日に一度くらい。狙いすましたように酒蒸しまんじゅうを仕込んだ日にやってくる。

どうやって知っているのかは謎だ。


「おまたせしました。『おまんじゅうセット』ふたつです。」

テーブルに饅頭を置くと、ふたりは目の色を変えた。・・・本当に。


「おう。まってました。」

「ああー。いいにおい。」


喜んでいる二人の瞳は金色に変わり、虹彩が猫目石のように縦に細長くなっていた。

ふたりの客は『うわばみ』と『濡れ女』。

ふたりとも蛇妖、蛇の妖怪だ。

『うわばみ』は三十歳くらいのワイルド系の男性で、瞳以外は、ほとんど人間とおなじ、ただ、首と手の甲に鱗が覗いている。

『濡れ女』のほうはもう少し年上の妙齢の女性。上半身は人間だが、着物の裾から出ているのは足ではなく、大蛇の尻尾だ。

真宵は田舎の祖母の家によく遊びに来ていたので、蛇やら蜥蜴に拒否反応はない。

まあ、ペットに飼うなら断然猫派だが、怖がったり、気持ち悪がったりするようなことはないのだ。


うわばみは、待ちきれないとばかりに、まんじゅうにかぶりついた。

濡れ女のほうは、においを存分に楽しみ、恍惚の表情をしている。


「うまー。」

「す・て・き・・・。」


ふたりの愛で方に違いはあるものの、酒蒸し饅頭に満足しているのは確かなようだ。


「なあ、なんで毎日つくってくれないんだ?このうまいまんじゅう。」

「ほんとうよ。そうしたら、毎日くるのに。」

ふたりは、真宵に詰め寄った。


「ええ。まあ。それは、いろいろとありまして。」

愛想笑いでごまかす。

もちろん、ほかの饅頭との兼ね合いとか、仕込み時間とかいろいろあるのだけど、実は、饅頭の中で酒蒸し饅頭は赤字覚悟のサービス商品だったりするのだ。


そもそも、この酒蒸し饅頭のレシピは真宵の祖母が残してくれたものだ。

酒蒸し饅頭は、酒粕をつかったり、米麹をつかったりといくつか作りかたがあるが、祖母の作り方は、酒粕と本物の日本酒をつかうものだ。しかも、祖母の田舎にあるちいさな酒蔵で作られる日本酒と酒粕をつかってある。

ちいさいが歴史ある酒蔵だ。全国的な知名度はないもののコアなファンがついているようである。そこまで高級路線ではないものの、大手メーカーの大量生産品と比べればそれなりの値段はする。酒粕もおなじである。

もちろん、高いといってもそこまで大量につかうわけではないので、家庭で家族のためにつくるのなら、さほど気にするようなものではないのだが、店で販売用に作るとなると、けっこうなコスト差がでてくる。

安い酒と酒粕に変更するのはやりたくない。やはり、味がかわってしまうだろうし、祖母のレシピを気に入ってくれているお客を落胆させるのは嫌だ。

酒蒸し饅頭のときだけ値段をあげるというやり方もあるのだが、『まんじゅうセット』の値段がその日によって変動するというのもいかがなものか、と考えてしまう。

複数の種類の饅頭を用意するというのも、現在の《カフェまよい》の規模と人手では無理である。

結局、解決策はみつからず、このての要望には応えられずにいるのだ。


「でも、ほんとうは、お酒を出してくれるのが、一番いいのだけどねぇ。」

濡れ女がせつないため息をついた。


「ほんとうだよ。なあ、そろそろ本気で考えちゃくれないか?」

うわばみが詰め寄る。


そう。このふたりが、本当にほしがっているのは饅頭ではなく酒のほうなのだ。

アルコール分はとんでいるはずなのだが、酒蒸し饅頭にたっぷりつかわれている日本酒の香りを、こよなく愛している。


「それに関しちゃ、あたしも賛成だねぇ。」

隣の席から声がかかる。

そこには、みるも艶やかな三人の女性が座っていた。


女郎蜘蛛じょろうぐも』『毛倡妓けじょろう』『骨女ほねおんな』。

花街はなまちに棲む三美女妖怪だ。

妖艶さでいえば『雪女』も負けていないのだが、『雪女』が意図せず男性を虜にしてしまう天然系美女なら、『女郎蜘蛛』たちは男性を虜にするために己を磨き上げ、言葉や仕草まで計算して魅了するプロフェッショナルな美女たちだ。

だれが一番かと問われれば、ひとの好みだと答えるしかないだろう。それほどの美女揃いだ。

実は、この三人もうわばみと濡れ女と同じ。酒好きが高じて、酒蒸し饅頭を求めて来店しているひとたちなのだ。


「まよいちゃん。ほんとにお願いよ。ちょいと、メニューに冷や酒をひとつ書き加えてくれるだけでいいからさ。」


「そりゃあ、甘いものも嫌いじゃないけど、やっぱりおいしいお酒にくらべちゃうとねぇ。」


「お酒が飲めるのなら、毎日でもかよいつめるのだけど。」

三人の美女が口々にお酒への愛や要望を語り始める。


「ほら、みんなやっぱりお酒を飲みたがってるのよぉ」


「そうだよなぁ。一度でいいから、この饅頭につかってる酒を、くいっといっぱいひっかけてみてぇよな。」

蛇妖怪コンビもがぜん勢いついた。


そこに、とんでもない爆弾を骨女が落とした。


「ほんと、もう一度、あのお酒のみたいのよぉ。」


「え?」

「え?」

「え?」

「え?」

「ちょっと骨女さん!」


あっ、と骨女が口元をおさえる。

しかし、ほかの四人は逃しはしなかった。


「ちょっと、骨女! あなた、ここでお酒飲んだことがあるの?」

「アナタ、そんなことひとことも言ってなかったじゃない。」

「おい!どうゆうことだ。ここで酒が飲めるのか?」

「アタシ、何度も頼んだのに、飲ませてもらったことないわよ。」


四人が骨女に詰め寄った。

さらに、矛先は真宵のほうにも向く。

「ちょっと、まよいちゃん。骨女の言ったことは本当なの?」

「ずるいわ。骨女だけ。」


(骨女さん。ぜったいに内緒って言ったのに!)


実は、骨女にだけは一度、お酒を出したことがある。

ちょうど閉店前で、ほかにお客さんがいなかったのと、酒蒸し饅頭を初めて出した日だったので、「この饅頭につかってるお酒をちょっとだけ味見したい」という骨女の要望をついつい応えてしまったのだ。あくまで、味見程度のコップにちょこっとだけ。

あとで、酒好きのお客さんから要望が殺到したために、骨女にはしっかり口止めしておいたはずなのだが。


「ごめんねぇ。まよいちゃん。」

骨女がしおらしく謝罪する。


(骨女さん・・・。それ、白状しちゃったも同然です。)


「やっぱり、飲んでたのね。まよいちゃん!いったいどうゆこと?!」

「酒だせるんなら、俺らにもだしてくれよ!」

「そうよぉ。なんで、骨女だけなのよ。ずるいわ。」

「あぁ。もう。お酒、お酒ちょうだい!」


もう、収拾がつかないくらい、皆が口々に騒ぎ始める。

それどころか、騒ぎを聞きつけたほかの妖怪まで反応しはじめた。


「なんだ? 酒があるのか?」

「え?この店、酒も置いてるの?」

「おい。酒があるなら、こっちにも頼む。」

「オサケー。オサケー。」


完全にお店が騒乱状態だ。


「ねぇ、まよいちゃん。骨女に飲ませてやったんだから、あたしたちにもいいわよね。」

「そうだぜ、もうみんなで飲んじまおうぜ。どうせなら宴会しよう!」

「いいわね。みんなでなかよく飲みましょう! もちろん御代は払うから安心して。」

「そうよ。御礼はたっぷりするわ。だからオ・サ・ケ。」


しかし、ここで折れてしまえば、なしくずし的にお店が甘味茶屋から居酒屋に職種変えを余儀なくされるのは目に見えていた。負けるわけにはいかない。


「だ、だめです! ここは、甘味茶屋です! 居酒屋でも角打ち酒屋でもありませーん!!」














読んでいただいた方、ありがとうございます。

今回の妖怪は「うわばみ」「濡れ女」

それに「女郎蜘蛛」「毛倡妓」「骨女」です。


日本酒を好まれる方が、酒饅頭に惹かれるのかどうかはわかりませんが、自分は酒饅頭のあの匂いが大好きです。(日本酒は、あまり飲みませんが。)

お酒関係のおはなしはまた書ければいいなとおもっております。




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