132 幕間劇 宴に呼ばれぬもの
夏祭り特別メニュー?
『塩大福』(特大)
お祭りに、理由があって招待できない妖怪たちのために作ったお詫びの品。
『塩大福』は『饅頭セット』の品としてたまに作られているが、これはその特大サイズ。
塩味が中の餡子の甘さを引き立てるため飽きがこない味。
特大サイズだが、意外とペロリと食べれてしまう。
妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。
明日からの盆休みにはいる。
その前日の今日、店では夏祭りが開催されていた。
《カフェまよい》で祭りが開催されている頃、ひとりの女性が山間の道を歩いていた。
シトシトと小雨が降る中、少しぬかるんだ土道を、不思議と苦にせず、小さな傘をさして、女は目的の場所へと向かっていた。
「こんにちは。やっぱりいたわね。」
山の斜面を一望できるひらけた場所までつくと、女は唇の端を上げて笑みをつくる。
「あれ? 『雨女』じゃないか? どうしたんだ?珍しいね。」
山の斜面は見事な棚田になっており、緑色の稲が雨に濡れていた。
そして、その中にひとつ、人間と同じ大きさのカカシがひとつ立っていた。
「ちょっと、こっちにこない?『案山子神』。」
雨女が声を掛けると、案山子神はバネで跳ねたようにジャンプすると、雨女の隣に突き刺さる。
「あ。ごめん。泥ハネしなかった?」
「だいじょうぶよ。でも、ここじゃちょっと話しづらいわね。どこか座って話せる場所まで来てもらっていい?」
「もちろん!」
案山子神は足代わりの竹を軸に、くるっと回転する。
すると、竹と藁でつくられたカカシが、ひとの姿に変化する。
変化といっても、まるっきり別のもの変わったわけでなく、着ていた木綿の着物もそのまま。顔もへのへのもへじの名残なのか、まんまるまなこの団子鼻のへの字口だ。なんとも愛嬌のある顔である。
「あそこは濡れてないから、座っても大丈夫だよ。」
案山子神が指差したのは、大きな楠の樹の下で、友人の『泥田坊』とよく休憩につかっている場所だ。
ベンチ代わりに大きな丸太を置いてある。
楠の枝葉が茂っているため、屋根代わりになり、雨にも濡れない。
「どうしたんだい? 雨女が自分から訪ねてくるなんて珍しいね。稲は喜んでるみたいだけど。」
雨女は雨を呼ぶ妖怪だ。
泥田坊とふたりで、この棚田の管理をしている案山子神とは、それなりに親交がある。
日照りが続いて、田が干からびそうなときには、よくお願いして来てもらうのだ。
自分から来ることもないではないが、そうそうあることでもない。
「ふふ。たぶん、あなたも留守番してると思ってね。」
「留守番? ああ、もしかして、泥田坊が言ってたお祭りのこと?」
案山子神は一緒に田んぼをやっている、長年の友人の顔を思い出した。
今日は泥田坊がよく行っている甘味茶屋でお祭りをやるらしく、うれしそうに出かけて行った。
「雨女は行かなかったのかい?」
「ええ。野外でやるお祭りみたいだからね。私が行ったら台無しでしょう?」
「そっかー。」
雨女は雨を呼ぶ妖怪だ。
日照りや乾季には人気者になるが、こういった祭りや催し物では、やっかいもの扱いされることも多い。
今に始まったことでもないので、本人は気にしていないようだ。
「ふふ。それでね。昨日、まよいさんが、わざわざお詫びの品を送ってくれたのよ。それも、手紙まで書いてくれて。」
「手紙?」
「ええ。本当は私もお呼びしたいんだけど、野外でするお祭りなのでごめんなさいって。・・・そんなに気にしなくていいのにね。雨で迷惑掛けるのはこっちのほうなんだし。」
雨女ははかなげに笑った。
「へーえ。律儀なひとだね。たしか、人間の女の子だっけ?」
「ええ。」
案山子神は《カフェまよい》に行った事はない。当然、真宵の顔もひととなりも知らなかった。
「ふふ。それで、お詫びにって送ってくれたのが、これなんだけど・・・。」
雨女は持ってきた包みを、膝の上でそっと開ける。
「うわあ。」
案山子神が声を上げた。
泥田坊には《カフェまよい》から何度もお土産を持って帰ってきてもらっているのだが、折り詰めのなかには初めて見るものが入っていた。
なにより驚いたのは、その大きさだ。折り詰めの中には、子供の掌ほどもある大きな大福がはいっていた。
「『塩大福』ですって。おいしそうでしょう?」
「うん!すごい。でも、『塩大福』って、こんなに大きいの?」
大福は初めてだが、おはぎや饅頭は何度も土産にもらったことがある。
饅頭の大きさは種類によって違うが、どれもこの大福の半分の大きさもない。
「ふふ。お店で出してるものより、だいぶ大きいみたいね。私も塩大福は初めてだけど、こんなおおきなお餅やお饅頭は、あの店ではだしてないはずよ。たぶん、特別につくってくれたんでしょうね。」
「へぇーー。」
「はい。ひとつどうぞ。」
雨女が折り詰めを案山子神に差し出す。
「え?いいの?」
「もちろん。そのために来たのよ。ひとりで食べるのは味気ないし。ふたつとも食べるのはちょっと大きいしね。」
案山子神は喜んで塩大福をひとつ手に取る。
「たぶん、知り合いはみんな、お祭りに行ってるだろうし。でも、あなたなら、今日も留守番してるとおもってね。」
ふふふ、と雨女が笑う。
「そうなんだよー。つまんないよね、案山子神って。」
カカシの付喪神である案山子神は、田畑に作物がある間は、そこを離れられない。
カカシが昼も夜も田畑に立ち、作物を守るように、案山子神も昼夜問わず、田畑を守るのが宿命だ。本人の意思ではどうにもならない。
なので、案山子神は《カフェまよい》に行ったことがない。行きたくても行けないのだ。
当然、今日も祭りには招待されていないし、真宵から大福も届いていない。
「ふふ。でも、秋に稲が収穫し終わったら行けるんじゃない?」
「うん!そうなんだ! 田んぼを休ませてる時期は、多少は出歩けるからね。今から楽しみにしてるんだ。」
「そう。じゃあ、それまではがんばって、お仕事しないとね。」
「まあね。田んぼがなくなっちゃったら、案山子神もお払い箱だし。仕事があるのは、ありがたいことさ!」
案山子神はカカシの付喪神。
用済みになって打ち捨てられたカカシや、大事に使われて年月が経ったカカシが妖怪化したものである。
仕事がなくなり、用済みになった道具に悲しさはよく解っている。
「うん!おいしい!」
塩が効いてキリっとしまった餅と中の絶品つぶあんが絶妙な味わいを生み出していた。
案山子神はずっしり重い塩大福に、夢中でかぶりつく。
「ふふ。のどに詰まらせないようにね。・・・はい。お茶。これはあの店のじゃなくて、私が煎れてきたものだけど。」
そう言って、竹筒の水筒を渡した。
「ありがとう!雨女。」
「どういたしまして。」
雨女も大きな大福にかぶりつく。
「・・・ほんとね。とってもおいしいわ。」
ふたりはお互いの顔見て笑顔になる。
ふたりの前にはおおきな棚田が広がっている。
棚田には青々とした稲がスクスクと育っていた。
そろそろ出穂の時期だ。
穂に白いポツポツとした花が咲き、じきに実がつき、稲穂が頭を垂れるだろう。
今日、雨女が連れてきた雨は、稲をまた育てるだろう。
この時期の稲は、一日ごとに、その姿を変えていく。
「おいしいお米ができるといいわね。」
雨女の言葉に案山子神は顔を綻ばせた。
読んでいただいた方、ありがとうございます。
幕間劇でございます。
夏祭り編がやっとおわりましたが、その裏であったおはなしを何話か書く予定です。
よろしくお願いします。




