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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第五章 蝉時雨
124/286

124 夏祭り 烏天狗狂騒編

夏祭り特別メニュー


『茹でとうもろこし』

祭りといえば焼きとうもろこしだが、人手の関係で断念。

冷めてもおいしい茹でとうもろこし。

しっかり実の詰まったコーンは食べ応えあり。

食べかすは回収します。ポイ捨て厳禁!


妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

明日からの盆休みにはいる。

その前日の今日、店では夏祭りが開催されていた。



妖怪たちの賑わいもかなりピークに達し、広場で踊っている妖怪も食べ物に集まっている妖怪も休憩所として開放している店内でくつろいでいる妖怪もかなりの数になってきた。

手伝いをかってでてくれている妖怪たちもいるが、やはり、一番忙しいのは従業員たちだ。

右近と真宵は、料理を出すのと使いおわった食器を下げるのとで、厨房と広場を行ったり来たりだし、座敷わらしは休憩所代わりの店内を担当している。大量にでる洗い物を担当しているのは小豆あらいだ。厨房から一歩も出ず、ひたすら洗い物に従事している。



右近と真宵は新しく持ってきた料理を、テーブルに並べる。

今日、提供してきた料理は基本、午前中につくっておいたものだが、これは、先ほど作ったものでまだ熱々だ。


「これは、なんでやんすか?」


そう聞いてきたのは、濃緑色の肌で赤黒いボサボサの髪をした妖怪だ。名を『あかなめ』という。

隣には、お腹のでた肥満気味の中年妖怪『しょうけら』もいる。

ふたりは、一時、のぞきや不法侵入で、真宵の怒りをかい、出入り禁止になっていたが、絶対に母屋には近づかないと誓約して、許してもらった。

ことがことだけに、真宵はいまだに警戒心を解いてはいないが、とりあえず今のところは約束は守られている。


「あ、『あかなめ』さん、こんにちは。『しょうけら』さんも。これは、『じゃがバター』っていうんですよ。」


「『じゃがバター』?」


「じゃがいもっていうお芋を蒸かして、うえにバターをのせただけの料理ですけどおいしいですよ。」


「バター?」


「あれ? バターってこちらの世界にはないんでしたっけ? えっと、牛乳を・・・、えーと、どう説明したらいいんだろ。」


さすがにバターは手作りせず、店で買ってきたものを持ち込んだので、うまく説明できない。

たしか、生クリームを瓶に入れてシャカシャカ振ったり、グルグル回したりすると、固形分が分離してバターになるのは知っているが、どうゆう理屈でなるのかは知らない。そもそも、生クリームをどう説明したらいいかも不明だ。


「牛酪と言えばわかるはずだ。」


困っている真宵に右近が助言した。


「牛酪?こちらの世界にもバターがあるんですか?」


「ああ。主に薬用としてあつかわれるんで、料理につかうことはほとんどないがな。」


「へえ。」


バターというといかにも西洋的で、この世界にはなさそうな気がしていたが、いがいとそうでもないらしい。

逆に、普段、あまりにもあたりまえに食べているので当然、こちらの世界にもあるだろうと思っていたじゃがいもは、普及していないらしい。


「ああ、牛酪でやんすか。いいにおいでやんす。」


「あっしにも、ひとつくだせえ。」


あかなめとしょうけらは、『じゃがバター』をもらうと、うれしそうに歩いていった。




「じゃがバターどうですかー?熱々ですよー。ホクホクですよー。」


真宵の声とバターの溶けるほんのり甘い香りに誘われてか、どんどん集まってきた。


「ほう。牛酪をかけた芋とはめずらしいのう。ひとついただけるか?」


「はい。どうぞ。熱いうちに食べたほうがおいしいとおもいますよ。」


真宵は熱々の蒸かしたてのジャガイモにたっぷりバターをのせる。

ジャガイモの熱で乳白色のバターがとろけ、半透明になる。

初めて見る妖怪たちにはどう映っているかはわからないが、真宵にとってはそれだけでお腹が空きそうな光景だ。


真宵のとなりで同じように『じゃがバター』を配っていた右近は、真宵が相手をしていた客の姿を見てギョっとなる。


「マ、マヨイどの。すまないが、少し離れる。」


「ええ。それはかまいませんけど、どうかしました?」


真宵の質問に答えず、右近はさきほどの客の腕をひっつかむと、引きずるように連れて行く。


「な、なにをするんですか? 乱暴はやめてください。ねえ、ちょっと。」


初老の男性の姿の妖怪は、引きずられながらも、絶対に『じゃがバター』を落としてなるものかと、必死に皿を死守する。



ひとの少ない広場の隅まで、連れてこられると、そこで初めて右近が振り向いた。


「な、ん、で、あ、な、た、が、来、て、る、ん、で、す、か?!」


鬼のような形相で、初老の妖怪をにらみつけた。


「な、なんですか?いきなり? お祭りなんで招待されたんですよ。いやあ、いろんな妖怪が来て賑わってますね。」


「バレてるんだから、しらばっくれないでください! 師匠!」


「む。なんでバレたんじゃ!? 前とは違う姿に変化しとるのに!」


初老の男性妖怪は『鞍馬山』の主、『天狗』であった。

天狗は以前にも餅つき大会のときに、姿を変えてもぐりこんでいた。


「まったく。前にも言ったでしょう? 他の妖怪にバレる前にさっさと御山に帰ってください。」


「な、なんでワシだけ帰らねばならんのじゃ! 烏天狗は皆、来ておるではないか! まったく、ワシをのけものにするとは、けしからん!」


「あいつらは、いちおう招待されてるんです。店の客ですからね。アナタ、招待されてないでしょう?」


「ふ、ふん!知っておるぞ! 古道のところに招待状が届いたんじゃろう? あれには「鞍馬山 御一同さま」と書かれてあったぞ。じゃから、ワシも招待されたといっても間違いではない!」


天狗はわざとらしく胸を張る。


「その招待状には「鞍馬山の烏天狗 御一同様」と書かれてませんでしたか? 勝手に都合よく改変しないでください。」


「む。なぜそれを。」


「だいたいなんで、アナタがそれを知っているんです? どうせ、また『千里眼』で覗き見したんでしょう?」


「むむ。」


「そうゆうことに使わないで、仕事してくださいと言ってるでしょう! 古道がぼやいてますよ。余計なことばかりして、仕事がはかどらないって。」


「な、なにおおお。おぬしは仕事をほっぽって、山を降りたくせに、ひとのことが言えた義理かあ?!」


「俺は、ここで仕事してるんです! サボってるだけの師匠といっしょにしないでください!」


いまだ、師匠と弟子ではあるものの、仕事の上司部下ではなくなったぶん、遠慮がない。

右近と天狗はバチバチと視線で火花を散らす。


「師匠は性格や行動はさておき、肩書きだけは妖異界では名の知れた妖怪なんですよ。自覚してください。」


「なんじゃとお。名前の知れた妖怪なら、ワシ以外にも来ておるじゃろうが! あの『久万郷』の大狸はゾロゾロ子分を連れてきておるし、なんで海座頭がこんな山間までノコノコやって来とるんじゃ?あやつは海から出歩かん妖怪だったはずじゃろう?!」


「『隠神刑部』どのも『海座頭』もれっきとした招待されたお客です。以前、店にもいらしてくれましたしね。こっそり、変装して潜り込んでる師匠といっしょにしないでください。」


「むう。」


右近は、眉間にしわを寄せ、黙り込む天狗をチラリと見る。


「・・・・さっさと食べたほうがいいですよ。『じゃがバター』は冷めると味が落ちるそうですから。」


「なに!? なぜ、それをはやく言わぬ。」


天狗は急いで、箸でじゃがいもを割るとまだ温かい芋を頬張る。


「ほぉーー。なんじゃ?この芋、ホクホクのホロホロじゃぞ。」


「じゃがいもという芋です。妖異界では見ませんが、人間界では一般的に使われているそうですよ。前に鞍馬山でつくったカレーにもはいってたはずですが、食べなかったんですか?」


「む。・・おお!そういえば、はいっておったのう。しかし、こんなにホクホクのホロホロじゃあ、なかったような気がするがのう。」


「カレーの芋は煮込んでますけど、こちらは蒸してますからね。焼いたり茹でたりしてもいいみたいですけど。しかし、蒸して牛酪をのせただけで、こんなにうまくなるなんて、不思議ですね。」


「なんじゃ?お前ももう食ったのか?」


「ええ。さっき味見を兼ねて厨房でいただきました。簡単な料理なのにかなり美味かったんで驚きましたよ。」


「客より先に食っとるのか!」


「俺たちは今日は、忙しくて休憩する間もないんですよ! 隙を見て食べないと、ゆっくり座って食事なんてできないんです!だいたい、師匠は客じゃないでしょう!勝手に潜り込んでるくせに!」


「むう。」


「とにかく、食べるものを食べたら、さっさと帰ってください。騒ぎでも起こされたら、たまったもんじゃないんですから。」


天狗は『じゃがバター』を頬張りながら、不満そうに口を尖らせた。






同じ頃、おなじ広場の別の場所で、ふたりの烏天狗が『じゃがバター』を食していた。


「うわぁ。おいしい。これ、お芋なのにすごい美味しいですよねー。古道さん。」


「ああ。じゃがいもってやつだな。上にかかっているのは牛酪か。はじめての組み合わせだが、美味い。」


古道と清覧である。

べつに、ふたりは仲良くいっしょに祭りを楽しんでいたわけではなく、真宵があたらしい料理を配っていたから、興味をそそられ、もらいに行ったら、バッタリ会ってしまっただけである。


「じゃがいもっていうんですか。上にのってるのがバターって言ってましたね。それで、『じゃがバター』かー。」


「ああ。《カフェまよい》ではよく使ってる食材みたいだな。前にカレーをつくったときにもいれていたし、『肉じゃが』とかいう煮込み料理にもはいってた。」


「へえ。詳しいですね。古道さん。」


「俺はランチばっかり食ってるからな。」


烏天狗はそういう種族なのか、たまたまなのかはわからないが、甘党のものが多い。

《カフェまよい》に来店するのもおはぎや饅頭など甘味目当てのものがほとんどだ。

そのなかで例外的に古道はランチ専門である。


「ああ、もうなくなっちゃった。もうちょっと食べたかったなー。」


清覧は空になった皿を未練がましく見つめた。


「じゃがいもをまるごと一個食べればじゅうぶんだろう?」


古道も最後の一口を放り込む。


「えー。足りないですよぉ。そりゃあ、古道さんは監視役で一日いられるから、いいでしょうけど、僕らは夕方には帰らないといけないんですから。」


今回の祭り、烏天狗は三交代で参加している。

清覧は第二陣で来ており、第三陣が到着する頃には鞍馬山に帰る予定だ。


「あ、そうだ。ねえ、古道さん、『燻製たまご』って知ってます? 最初のグループできた知り合いの烏天狗が、空ですれ違ったときに言ってたんです。『燻製たまご』だけは絶対食えよ。って。」


「ああ、煙羅煙羅がつくってたヤツだろう? 黄身がトロっとしてて、味がギュッとつまってて、燻製の香りがふわっと口にひろがって最高だったぞ。」


「ええーっ。ずるーい。」


「なにがずるいんだよ。食いたければ、煙羅煙羅のところに行けばいいだろう? 燻製は時間がかかるから、すぐには食べられんだろうが、待っていれば食わせてもらえるはずだぞ。」


「行きましたよ!でも、今、燻製してるのは魚で、たまごはやってないって。」


「ああ、そう言えば、食材はいろいろ変えるって言ってたかな。」


「じゃあ、もう、食べられないって事ですか? そんなのひどい!」


「俺に言うなよ。マヨイさんか右近にでも聞いてくればいいだろう?」


「そっか。右近さんに聞けばわかるかも! 古道さん、右近さんのとこに行きましょう。」


そう言って、清覧は古道の腕をつかんだ。


「おい。なんで、俺まで・・・。」


しかし、清覧は聞く耳を持たず、古道を引っ張ったまま、どんどん先へと歩き出した。






さらに同じ頃、『片車輪』に送ってもらい、祭り会場に到着した二人組がいた。


「ここが、《カフェまよい》なのねー?」


可愛らしい薄桃色の着物をきた十代後半くらいの女の子の妖怪は目を輝かせた。

まるで、長年の憧れの場所にでも来たように、キョロキョロ周りを見ては、声をあげる。


「ちょっと、あんまり、はしゃがないでよ。だいたい、あんたは正式に招待されたわけじゃないんだから。」


隣には、苦虫を噛み潰したような顔の女性の姿があった。


「わかってるわよぉ。・・・ねぇ。それより、綾羽の想いびとの右近さんを紹介してよ。それと、恋敵の人間の女の子! ああーーー。やっと逢えるのね。」


薄物色の着物の妖怪、嘗女なめおんなは神に感謝するが如く天を仰いだ。


事の起こりは数日前、絶賛家出中の綾羽のところに招待状が届いたことだった。

届いた先は綾羽が居候している友人の嘗女のところだ。

一度も行ったことはないが、普段から、《カフェまよい》に興味津々だった嘗女は、綾羽に連れて行ってくれとせがんだ。

最初は拒んだものの、普段から居候させてもらい、世話になっている手前、あまり無碍にもできず、結局、連れて行くことになった。


(まったく! 気の利かない店よね。他にわからないように、こっそり、本人に届けるくらいのこと、すればいいのに!)


綾羽は内心、そう思いながらも、まわりを見渡す。

できれば、なにか理由をつけて、嘗女を帰してしまいたい。最悪でも、右近にだけは会わせたくない。


「あ。」


綾羽は広場の向こうに、見知った顔を発見する。

《カフェまよい》の店主であり、この世界で唯一の人間である真宵という女性だ。


(できれば、あのひとにも会わせたくないけど、仕方ないわね。右近に会わせるよりはマシだわ。)


「ねえ。めーな。まよいってひとに紹介するから、来て。」


「え?まよいって、人間の女の子よね。このお店やってるひとで、綾羽の想いびとの右近さんとちょっとあやしい関係で、綾羽の恋敵の! うんうん、ぜひ紹介して!」

嘗女はキラキラと目を輝かせる。


「べ、べつに、右近とはそんなんじゃないし、あのふたりも別にそうゆうんじゃないわよ・・・たぶん。へんなこと言わないでよね!」


嘗女はとにかく恋愛脳なところがある。

なにかにつけて、愛だの恋だの嫉妬だの三角関係だのと決め付けて、かってに妄想を広げてしまう。

たしかに綾羽も、右近と真宵の関係を疑っていた時期もあったのだが、いまはその可能性は低いとおもっている。

なにしろ、仕事場も同じで、一つ屋根の下で住んでいるのだ。

本当にそうゆう関係なら、もう少しなにかしら態度にでるはずだ。

可能性がゼロとまでは言わないが、いつもの態度が演技なら、ふたりともたいした役者である。


「さあ、行くわよ。」


綾羽は嘗女の手を引っ張った。





「あら、綾羽さん、こんにちは。」


『じゃがバター』を全部配り終え、皿や箸を片付けている真宵は、近づいてきた二人組みに気がついた。

ひとりは、女烏天狗の綾羽。よく店に来てくれる常連さんだ。

もうひとりは可愛らしい女の子だが、店では見たことがない。


「招待ありがとう。それで、その、この娘がね・・・・。」


「はじめまして。あたし、嘗女っていいます。綾羽の友達です。あたし、いつもこのお店のおはぎとかお饅頭とか和菓子とかお土産にもらってて、ずっと来てみたかったんです。あなた、まよいさんですよね? おうわさはいつも聞いてます。あたし、あなたにもずっと逢いたかったんです!ああーー、素敵なひと。ほんとはもっとお色気ムンムンで、せくしぃな女性を想像してたんですけど、実物はこんなかわいらしい女性だったんですね!ああ、優しそうで笑顔も素敵!仲良くしてくださいね!」


嘗女は綾羽が紹介するのを途中でぶったぎり、いっきにまくし立てた。


「ちょ、ちょっとめーな。いきなり、そんなにしゃべっらないでよ。あたしが紹介してるんだから!」


「はぁーい。」

嘗め女は渋々黙った。


「コホン。ごめんね。この娘、嘗女っていうあたしの友達なんだけど、招待状見たら、どうしても行きたいって、きかなくって。・・・でも、ダメよね? 今日は店のお客さんを呼んでのお祭りだものね。うん。だから、ちょっとだけ見学したら、すぐに送り帰すから。」


すると、真宵はブンブンと首を振った。


「いえ。かまいませんよ。お友達なんでしょう?お祭りなんですから、一緒に楽しんでいってください。今日は、たくさん妖怪さんたち来てくれてますから、ひとりふたり増えてもぜんぜんかまいません。大歓迎ですよ。」

真宵は微笑む。


それを聞いて、嘗女は飛び跳ねて喜んだ。


「ほらーー!! いいって言ってくれたじゃない。まよいさんってやっぱり素敵なひとねー。」


綾羽は顔をひきつらせた。


(歓迎されちゃあ、困るのよ! もう、まったく察しの悪い人間ね!)



「ねえ?まよいさん。この店に右近さんていう烏天狗が働いてるってきいたんだけど・・・。」

嘗女が尋ねる。


「右近さんですか? さっきまで、ここにいたんですけど、なんだかお知り合いの妖怪さんが来ていたらしくて、どっか、行っちゃったんですよね。すぐ戻ると思いますよ。」


「ふん。仕事ほっぽって遊びに行くなんて、右近も偉くなったものね。」

綾羽が毒づいた。


「ふふ。だいじょうぶですよ。今日は他の妖怪さんにも手伝ってもらっていますし。右近さんも多少はお祭りを楽しんでもらわないと。」


すると、いきなり嘗女が綾羽と真宵のふたりの手を握る。


「ねえ。みんなで右近さんを探しにいきましょ!」


「え?ちょっとめーな!」


「わ、わたしもですか? 私はまだ、仕事が・・。」


しかし、嘗女は聞く耳をもたず、ふたりを引っ張っていった。






右近と初老の妖怪に化けた天狗。

古道と清覧。

真宵と綾羽と嘗女。

この三組が、お互いの姿を確認しあったのは、ほぼ同時だった。

お互いが駆け寄り、意図したわけではないが、七人が広場の一角で集合する。


「マヨイどの。仕事を押し付けたままで、すまない。」


「あれー?綾羽さまじゃないですか。来てたんですね。」


「あら?こちらが右近さん? 綾羽の婚約者の?」


「あ、綾羽ではないか! 心配したぞ。なんで、鞍馬山に帰ってこんのじゃ?」


「だれよ?このおっさん。右近の知り合い?」


皆が一斉にしゃべりだす。

誰が誰に言っているのかもわからず、混乱する。


「・・・俺は、綾羽の婚約者ではない。」


「右近さん、『燻製たまご』が食べたいんですけど、もう作らないんですか? 僕、どうしても食べてみたいんですけど。」


「・・・もしかして、パパなの?! なんで、こんなとこにいるの?! まさか、また『千里眼』で監視してたんじゃないでしょうね?」


「え?このひとが、綾羽の婚約者じゃないの? じゃあ、この神経質そうな烏天狗さんがそう? それとも、こっちの能天気なチャラチャラしたほう?」


「パパ?パパって、まさか、天狗の大将ですか? なんで、こんなとこにいるんです? 変化までして!」


「パパ? 綾羽、あなたまさか、そのおじさんと変な関係なんじゃないでしょうね?! いくら、右近さんとうまくいってないからって、そんなのダメよ!」


「誰が、変な関係なのよ! へんな誤解しないでよ、めーな。」


しっちゃかめっちゃかな人間関係におののいた真宵は、そっと提案する。


「あ、あの。みなさん、ちょっと落ち着いて、お茶でも飲みながらゆっくり話されては・・・。」


しかし、誰も聞き入れず、ますますヒートアップしていく。




「えー、大天狗さまなんですか? なんで、そんな変装なんかしてるんですか?」


「ちょっとパパ! 今度『千里眼』で覗き見したら、親子の縁を切るって言ってあったでしょう?!」


「ご、誤解じゃ。ここで逢ったのは偶然じゃ! そうじゃろう?右近。説明せい!」


「大将!なんで、ここにいるんです。面倒だから、アナタには今日のことは、内緒にしてあったはずですよ。」


「結局、どれが右近さんなの? 気難しそうなひと? 神経質そうなひと? 天然系っぽいひと? まさか、お金もってそうなこのおじさんが右近さんじゃないわよね?」


「ああ、もう!ややこしいから、めーなは黙ってて!」


「右近さん!『燻製たまご』!」


「綾羽、とりあえず、御山に帰るんじゃ。」


「そうです、とりあえず騒ぎになる前に師匠も綾羽も帰ってください!」


「なんで、あたしまで帰らなくちゃならないのよ!」


「あ、あのー、みなさん、もう少し冷静に・・・・。」


そうして、烏天狗たちの集団は祭りとは関係なく、盛り上がっていくのだった。





読んでいただいた方ありがとうございます。

烏天狗いっぱいだしました編です。

他のよりちょっとだけ長くなりました。

夏祭り編、あと何話か残ってますが、あとは短いおはなしばかりです。

よろしくおつきあいください^^。

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