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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第一章 桜
11/286

11 鞍馬山にて2

人間界とは別の妖怪たちの棲む世界、妖異界。

ひょんなことから異世界で甘味茶屋を営むことになった真宵まよい


剣も魔法もつかえません。

特殊なスキルもありません。

祖母のレシピと仲間の妖怪を頼りに、日々おいしいお茶とお菓子をおだししています。

ぜひ、近くにお寄りの際はご来店ください。

        《カフェまよい》  店主 真宵


本作品はオムニバス形式なので、どこから読んでもかまいませんが、

今回のおはなしは 08 鞍馬山にて を先に読むことをお勧めしています。

(短いのですぐ読めます)

「ここか。ほんとうに迷い家が店になっているんだな。」


鞍馬山の『烏天狗』古道こどうは目の前の《カフェまよい》を見てそうつぶやいた。

古道がこの店を訪れるのははじめてである。

たびたびはなしは聞いていたし、何度か土産にこの店の名物である『おはぎ』をもらったこともある。

この妖怪の棲む世界で唯一、人間の娘が営む店であり、それに協力しているのは『迷い家』や『座敷わらし』など『遠野』の実力者ということで、興味はあったのだが、仕事が忙しかったのと、鞍馬山からかなり距離があるということで、なかなか足を運ぶ機会に恵まれなかった。

最近やっと、鞍馬山のボスである『天狗』が仕事に真面目に取り組むようになったおかげで、部下であり弟子でもある『烏天狗』たちも、交代で休みを取ることができるようになった。

正直、興味はあったとはいえ、わざわざ休みの日に、おはぎやまんじゅうを食うためだけに遠出するなど、以前の古道なら考えもしなかった。

しかし、古道の親しい同僚や後輩たちがこの店に夢中になっているのを、見ていると、一度くらいは行ってみたほうがいいのかもしれない。と考えがかわってきた。


ガラリ。と戸を開け、店の中に入る。

すると、元気のよい女性の声が出迎えた。


「いらっしゃいませ。」

割烹着を着た女性がこちらに近づいてくる。

(これが、うわさの人間か・・。)

妖怪といっしょに妖怪相手の茶屋なんてやっていると聞いたので、ずいぶんかわった人間もいるもんだと思ったものだが、意外と普通だ。


「こんにちは。・・・はじめてのお客様でしょうか?」


「ああ。」


「あらためまして、《カフェまよい》へようこそ。店主の真宵です。どうぞ、お好きな席で座ってお待ちください。すぐメニューをお持ちしますね。」


適当に席に座ると、真宵という娘は品書きをもって戻ってきた。

「どうぞ。こちらがメニューになってます。」

渡されたメニューを見ると、丁寧な手書きの文字で書かれていた。


「あの・・、失礼ですが、もしかして烏天狗のかたですか?」


「ああ、そうだが。」

妖怪同士なら、見ればわかるのはあたりまえだが、初対面の人間にいきなり言われるのは不思議な感じだ。特に、いまは人間の姿に模してる。


「やっぱり、そうでしたか。 最近、烏天狗のお客様が増えているんですよ。」


「ふぅん。」

あえて、とぼけたが、それはだいたい知っていた。

鞍馬山でも、やれだれそれが行ってきただの、やれ次の休みに行く予定だの、話題に事欠かない。

まあ、それに影響されて、今日、来てしまった古道には何もいう資格はないが。


「烏天狗さんたちは、『おはぎセット』をよく注文されてますよ。」


「へえ。おはぎか。。」

それも、よく知っていた。

古道は同僚の顔を思い浮かべる。

どちらかと言えば、ストイックなやつだと思っていたが、ここのおはぎに並々ならぬ執着をもっている。

烏天狗のあいだで、この店がちょっとしたブームになっているのは、あいつの影響が一端であろう。


「・・・。」

メニューに並ぶ品々を見て、古道は思い悩んだ。

実は、メニューを見るまでは、その『おはぎセット』とやらを注文するつもりでいたのだが、いざそのときになると、はじめて聞く品にこころ迷わされていた。

(よく考えてみると、おはぎは持ち帰りができるんだったよな? だったら、店で食べるのは別のものにしたほうがいいのか? 饅頭に羊羹にところてん・・・。いや、でも右近のやつが、店で茶と一緒に食べるおはぎはひとあじ違う、なんて言ってたな・・・。)

思いがけず思考の迷路に迷い込んだ古道に、真宵がさらに選択肢を増やすことを付け加える。


「あ、お腹が空いているようでしたら、今日はまだランチもありますよ。」


「らんち?」

聞きなれない言葉に、興味をそそられる。鞍馬山のうわさでも聞いたことのないワードだ。


「お昼ごはんのことです。数量限定でだしているんです。いつもなら、この時間には、もう売り切れてることが多いんですけど。今日は、あと一食だけ残っていて。」


「らんちか・・。」

新たな選択肢に、古道は思い悩んだ。

しかし、「数量限定」「売り切れ」「最後のひとつ」などこころ動かされる文句をさりげなく会話に忍び込ませるとは・・。

(この娘。いがいとしたたかな商売人か。)

古道がジロリと真宵を見つめる。

「?」

真宵のほうには、そんな意図も思惑もなかったのだが。


「よし!じゃあ、そのランチとやらをひとついただこう。」

古道は決心して、注文する。


「ありがとうございます。今日のランチは『肉じゃが』ですが、よかったですか?」


「にくじゃが?」


「はい、牛肉とジャガイモを煮たものです。」


「ああ、牛肉も芋も好物だ。」

ジャガイモというのはよく知らないが、芋というからには山芋や里芋とさしてかわらないだろう。


「かしこまりました。すぐおもちしますので、少々お待ちください。」

真宵は厨房へと入っていった。


(さて、この判断が吉と出るか凶とでるか。)

あまいものを食いにきたはずだったのだが、おもわぬ方向転換をすることになった。

(まあ、口にあわなければ、残せばよいか。)

古道は椅子にゆったりともたれながら、注文の品がくるのを待つことにした。



「おまたせしました。」

予想よりはやく、注文の品は届けたれた。

「今日のランチの『肉じゃが定食』です。お味噌汁は大根と油揚げです。」

トレイに白飯、肉じゃが、味噌汁、それに卵焼きに漬物とお茶がのっている。

「それと、こちらは七味とうがらしです。お好みで肉じゃがにおかけください。」

真宵はテーブルの上に、赤い粉の入った小さな瓶を置いた。


「これをふりかけて食べるのか?」


「えと、うちの肉じゃがは少し甘めの味付けになっているんです。甘いのが好きな方はそのままのほうが美味しいですけど、甘いおかずが苦手なかたは少し七味をかけるとピリッとして味が締まるとおもいますよ。」

笑顔で説明する。

「あ、でも、その七味はとても辛いので、少しだけかけてください。」

そして、真宵は、ごゆっくり、と言い残し厨房へ戻っていった。 


(これが、肉じゃがか・・・。)

古道はあらためて、トレイのうえの料理を見る。

芋の煮っ転がしに似ていたがジャガイモという芋は山芋や里芋とちがって、黄金色をしていた。

そこに牛肉、にんじん、さやごとの緑色の豆。見た目は彩りよくとてもうまそうだ。

(しかし、肉じゃがというわりには肉は少なめなんだな。)

量で言えば、ジャガイモの割合が多く、肉は芋の三分の一程度しかはいっていない。

うがった見方をすれば、安い芋でかさ増ししているようにも見える。

(まあ、とりあえず食ってみるか。)

箸で黄金色の芋をひとつ摘んで口に運ぶ。

(ムゥ。)

うまい。

ホクホクしてやわらかく火の通った芋に、醤油ベースの煮汁がしっかりとしみこんでいる。

たしかに店主のいうとおり、甘めの味付けだが醤油の塩気とあわさって独特の甘塩っぽさが芋そのものの甘さをひきたてている。

(この芋、はじめて食ったが、うまいな。)

いつも食べている山芋や里芋は、ねっとりとした食感と野性味のある味が特徴だ。あれはあれでうまいのだが、このジャガイモという芋はぜんぜん癖がなく、口の中でホクホクホロホロと崩れる。また別の魅力がある。

しかし、芋そのものもうまいのだろうが、それだけではないような気がする。

次に牛肉を口に入れた瞬間、その答えがわかった。

(そうか、肉か!)

薄切りの牛肉にも、しっかり煮汁がしみて、うまい。そして、それだけではなく、肉のうまみがしっかりと煮汁にしみだしているのがわかった。

肉の脂と肉汁が煮汁とあわさって、ジャガイモをさらにうまくしているのか。

(肉をケチっているのではなく、芋をさらにうまくするための牛肉なのか。これはさきほどの評価を改めねばならぬな。)

古道は白飯と肉じゃがを交互に食す。

(人参も甘くてうまいな。この豆は皮ごと食べるのか? うん。皮も柔らかいな。豆というより野菜みたいに感じる。)

夢中で食べ進めるなか、ふと、テーブルに置かれた七味トウガラシの瓶に目をやる。

「たしか、この辛い粉をかけると、味がかわるとかなんとか・・。」

古道は、真宵の言葉をおもいだす。

(だが、肉じゃがはこのままで、じゅうぶんにうまい。 下手に味を変えてしまっては、失敗する可能性もあるぞ。)

皿に半分ほど残った肉じゃがを見つめながら思う。

(味が締まる、とかいっていた気がする。・・・締まるとはどうゆうことだ?うまくなるということではないのか? いや、しかし、甘い料理が苦手なものはかけろと言っていた気もする。この甘しょっぱい味が好きな俺には無用ではないのか?)

古道は、悩んだ末、七味トウガラシの瓶を手に取った。

(ええい。この程度のことに臆してどうする!)

肉じゃがの上に七味をパラパラとふりかけた。

鞍馬山の夕焼けのような茜色の粉が、肉じゃがを彩る。

七味のたっぷりかかった芋をひとつ口に入れる。

すると、舌の上を針で刺すような刺激が古道を襲う。

(ぐっ。か、からい。)

おもわず、湯飲みを手に取り、茶で流し込む。

(や、やはり、肉じゃがに七味とうがらしなるものは不要であったな。)

まだ、痺れるような舌に古道は顔をしかめた。

あまくておいしい肉じゃがに七味をかけてしまったことを後悔しながらも、だんだん、痺れがひいてくるとともに、不思議な感覚がおそってきた。

(な、なんというか、あとをひく味だな。)

さきほどは、うまいと思わなかった味だったが、不思議ともう一度口に入れたくなる衝動に駆られた。

今度は、七味が少しだけかかった部分を口に入れる。

(む、・・・さっきより、芋の味や肉のうまみがしっかり感じられる気がする。それに・・、この味、白飯が無性に欲しくなるな。)

古道は、白米をかきこんだ。


なるほど。古道は納得した。

ここの白飯は、鞍馬山で食べられているものより、ふっくらして粘りがあり、そして甘い。上等な白米だ。

だから、甘い味付けの肉じゃがは、そのまま食べると最高に美味いが、白飯のおかずとして食うなら、もう少ししっかりした味付けのほうが合う。

味が締まるというのは、こうゆうことを言っていたのだ。

古道は、七味で味を調整しながら、肉じゃがを食し、白飯をかきこむ。

うまい。

あれよという間に、肉じゃが定食のすべてをたいらげた。

(なるほどなあ。 右近や鞍馬山のやつらが夢中になるのもわからんでもない。)

腹の中におさまった肉じゃがの味を思い出しながら、感心する。

いや、まてよ。

ふと、考える。

これほど、うまいランチなるものが、鞍馬山ではまったく話題にのぼっていなかった。

もしかして、鞍馬山の皆は、だれも食ったことがないのではなかろうか?

いつもは、このぐらいの時間に売り切れているといっていたし、鞍馬山からここまで遠い。強い神通力の持ち主なら本気を出せば、小一時間で来れるかもしれないが、飯のためにそこまでやるのは、右近くらいのものだろう。

(その右近は、おはぎひとすじだしな。)

店主も烏天狗は、おはぎばかり注文すると言っていたし、ひとりもいないとは言えないまでも、ランチのうまさを知ってる烏天狗は数少ないであろう。

「フフフ。」

古道は不思議な優越感を感じていた。


「マヨイどの。ちょっとよいか?」

古道は店主を呼んだ。


「はい?あ、お味はいかがでしたか?」

割烹着姿の店主が応えた。


「ああ、満足だ。 ところで、ランチというのはどれくらいの時間にくれば、食べられるものなのだ?」

古道が問う。


「ええと、だいたい十二時過ぎぐらいまでは、だいじょうぶだとおもいますけど。」

真宵は、考えながら答えた。

売り切れるのはだいたい十二時半過ぎたくらいのことが多い。・・・ただし、『ふたくち女』がランチ目当てで来店したときはその限りではないが。


「十二時というと中天か。わかった。また来させてもらう。」


「ありがとうございます。お待ちしています。」

真宵は笑顔で礼をした。


「ああ、、それともうひとつ・・・・。」



鞍馬山の山頂。『天狗』の大将と『烏天狗』が集う鞍馬寺の一室で、右近は書類仕事に没頭していた。

上司であり師匠でもある天狗が、多少真面目に仕事をするようになったおかげで、以前よりは楽になったとはいえ、依然多忙なのには変わりなかった。

なにしろ、妖異界すべての治安管理を請け負っているのが鞍馬山である。

そんな右近に、近寄る人影があった。

今日は休みのはずの同僚、古道である。


「よお。右近。ちゃんと仕事しているか?」

ちょっとからかうような口調で話しかける。


「・・・なんで、おまえがいるんだ? 今日は休みのはずだろう?」

右近がぶっちょう顔で応える。

「そんなに暇なら、手伝っていけ。ただ働きで雇ってやる。」


「なんだよ、ただ働きで雇うって。」


右近は書類になにやらサインしながら言う。

「手伝わないのなら、さっさと帰れ。邪魔にしかならない。」


冷たく言い放つ右近に、古道は秘密兵器をとりだす。

「そうか、そうか。なら帰ろうかな。これを持って。」

意味ありげに、手で持っている包みをちらつかせる。

右近は、見覚えのあるその包みに、激しく反応する。

「おい!その包み。まさか《カフェまよい》に行っていたのか?」


「さーあ、どうかな?」


右近はすっとぼける古道から、無理やり包みをひったくる。


「おい。お礼くらい言えよ。」


「ふん。まあ、土産を買ってくるとは、おまえにしては気が利いている。褒めてやる。」


「そうゆうときは、ありがとう。とか、感謝する。とかゆうものなんだよ。」

まったく。

普段は無愛想なくらい冷静なのに、《カフェまよい》のおはぎのこととなると目の色が変わる。

古道は同僚の姿を見ながらため息をついた。


「おい。なんだこれは?」

右近は、包みの中のおはぎを凝視したまま、問うてきた。


「なにって、おはぎだろう? 今日はつぶあんと胡麻だそうだ。」


「そんなこと見ればわかる。 この隙間はなんだと聞いているんだ。」

包みの中に入っていた折り詰めは、右近がよく知っているちょうどおはぎが六個はいる大きさのものである。しかし、そこにはおはぎは四つしか入っておらず、不自然な空間があった。

「おまえ!土産をつまみ食いしたな!」


図星を指された古道がおののく。

「い、いいだろう、別に。 俺が買ったおはぎなんだから!」


しかし、右近は厳しく糾弾した。

「いいわけないだろう! おはぎが食べたければ、店で食べてくればよかっただろう? ただでさえ、六個までしか持ち帰れないおはぎを、なんでお前が食ってるんだ。」

テイクアウトはおはぎなら六個まで。それが常連が決めた《カフェまよい》の不文律である。

ちなみにこの数は、店内で食べた分は含まれない。


「店では、ランチ食って満足したはずだったんだよ。でも、帰ってる途中で、ちょっと小腹が空いたんで食いたくなったんだよ! いいだろ、残りの四個はお前にやるって言ってるんだから!」


鞍馬山でも期待の星といわれる優秀な烏天狗ふたりの、低レベルな争いだった。


そこに、新たにひとりの烏天狗が参入する。

ふたりよりもかなり若い。主に伝達や雑用の仕事を請け負っている清覧せいらんという烏天狗だ。


「右近さーん。こちらの書類にサインお願いしまーす。」


清覧は書類を持ってふたりの間に割ってはいる。

なにやら言い合っているのはわかっていたが、ここで遠慮して、話が終わるのを待っていると、どんどん自分の仕事が積みあがっていく。多少強引でも、ねじこんでさっさとサインをもらったほうが得策だ。

これは清覧がこの仕事で学んだことである。


「あれ?古道さん、たしか今日は休みだったんじゃ・・。」

言い合いしていたのが、意外な人物だとわかる。そして、机の上にのっているものを発見してしまう。

「あっ。それ、《カフェまよい》のおはぎじゃないですか! 僕にもわけてください!」

清覧がおはぎの折り詰めに手を伸ばす。


しかし、それは右近が許さなかった。

「だめだ! ただでさえ、四つしかないのに。」


「いいじゃないですか! 四つもあるんだから! ひとつくらいわけてくださいよ。」


「いいだろう、一個くらい分けてやれよ。」

古道があきれて言った。


しかし、右近は言い返す。

「もともと、お前がつまみ食いするから、数が減ってるんだろう! お前が言えた義理か?」


「え?古道さんもう食べたんですか? あ、ほんとだ二個も減ってる。 じゃあ、古道さんが二個、右近さんが二個。それで、僕が二個貰えば、みんな平等じゃないですか。ね?そうしましょう。」


「だから、なんで分けないといけないんだ!これは俺への土産だろう!」


もめにもめるさなか、さらに乱入するものがあらわれた。

「こら!きさまら、なにをもめておる!」

右近たちの前に、巨大な天狗の面があらわれる。

実体ではない。この寺の主、天狗が神通力で送ってきた幻影だ。


「だ、大天狗様。」

まだ、下っ端で直接会う機会の少ない清覧は、天狗の突然の登場に慄いた。


「まったく、もって修行が足りん!たかが食い物のことで騒ぎおって!」

天狗は三人をにらみつける。


しかし、清覧はともかく、のこりのふたりは天狗の本性を知っている。

「なに、偉そうに言っているんですか? どうせ、このおはぎを掠め取ろうと画策しているんでしょう? だめですよ。これは、師匠のぶんはありません!」

右近は辛らつに答えた。


「な、なにをーーー。師匠を差し置いて皆で食うつもりか? 許さんぞ、そんなことは。」


「皆で食べるなんて言っていないでしょう! これは、私のものなんです!」


「そうですよ。右近さん、ここはみんなで分けましょうよ。全部ひとりじめなんてダメですよ。」

清覧が食い下がる。


「ウム。そのとおりじゃ。そこの若いの。お前はなかなかみどころがある。」

天狗の面がウンウンと縦にうなずく。


しかし、そこで引く右近ではない。

「なにが、独り占めですか? すでに、古道のやつが二個もつまみ食いしてるんですよ! これ以上、減らされてたまりますかあ!」


「む!本当か?古道!」


いきなり刃先が向いて古道は動転する。

「え、ちょちょっと。そ、それは俺が買ってきたのだから、俺がどうしようと勝手でしょう? なんで俺が責められているんですか?」


「む、買ってきたのは古道か? なら、決める権利は古道にあるな! 古道!お前はそのおはぎをどうするつもりなのじゃ?!」


「そうですよ!古道さん。古道さんが決めてください。みんなで分けたほうがいいですよね?ね?」


いきなり潮目が変わって、右近が鼻白む。

「ちょっとまった! そんな勝手はさせんぞ。 古道!俺がいままで、何回、おまえにおはぎを分けてやったと思っているんだ!」


「え、そりゃ・・・、四回くらいは・・。」


「五回だ、バカモノ! 数にして八個。いままで、さんざん食わせてやったのに、今になって、忘れたとは言わさんぞ!」


「数えてたのかよ・・・。」

古道は呆れた。


「な、なんだと!右近、きさま、わしには四回しか持ってきたことがないくせに、古道にはそんなに食わしておったのか!?」


「あなたは一度、六個全部、私からぶんどっていったでしょうが! 都合よく回数でカウントしないでください! 数で言えば、もう十二個もあげているんですよ! ちょっとは遠慮してください。」


「ムムム。」


「ずっるーい。みなさんそんなに食べてるんですか? 僕なんて、休みの日くらいしか食べにいけないんですよ! みなさんほど速く飛べないんですから!」


「だったら、もっと修行しろ!」


「だいたい、師匠であるワシが頼んでおるのに、なんじゃその態度は!」


「なにが師匠ですか! いいかげん『千里眼』で部下の動向をチェックするのはやめてくださいといっているでしょう!」


「右近さんが二個、大天狗様が一個、僕が一個。ね?そうしましょうよ。」


「なぜ、ワシが右近よりも少ないんじゃ!納得イカン!」


「だから!分けないって言ってるでしょうが!」


「だいたい、古道さんがつまみ食いするから・・・。」


「ワシによこすのがスジじゃろう・・・。」


「だ!か!ら!・・」




不毛な争いは、まだ終わりそうになかった。






読んでいただいた方、ありがとうございます。

08 鞍馬山にて に つづいて 『烏天狗』メインのおはなしです。


余談ですが、肉じゃがに七味なんて邪道だ!! と思われる方もいつと思いますが、ご容赦ください。

ただの作者の好みです。 

作者は、甘いかぼちゃの煮つけとか、甘めのあんかけとかをご飯のオカズにするのが苦手なんです。

塩気がほしくなるというか。単品でならおいしくいただけるのですが、白いご飯にあわせるとどうも・・。

にんじんとさやえんどうが入っているのも、賛否両論あるとおもいますが家の味です。糸こんにゃくは、描写が長くなりそうなので省きました。

みなさんのうちの肉じゃがはどんな味でしょうか? 


鞍馬山のおはなしは、できたらまた書きたいとおもっております。

感想、誤字脱字等の指摘など、コメントいただければ幸いです。

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