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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第四章 青嵐
101/286

101 幕間劇 風炉ふらり

94 ぶんぶくお茶屋

の後日談です。



妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

妖異界には電気製品がないため、その厨房には妖怪たちの協力で様々な施設や道具が設置されている。

元鬼火である『かまど鬼』が棲まう、薪のいらない釜戸、石窯。

『つらら鬼』の力で氷が解けにくい冷蔵庫。

おなじく『つらら鬼』に加え、『冬将軍』が放つ冷気で氷が作れる冷凍庫。

元川守である水神『沢女』が憑くことで減ることのない水瓶と、それを利用した簡易水道。

この《カフェまよい》の建物自体も『迷い家』という妖怪そのものである。

その厨房に、先日新たな道具が設置された。





「うーん。やっぱりいいわよねえ。」


店主である真宵は厨房に設置された風炉ふろとその上に置かれた真っ黒な鉄瓶を見ながら、感嘆の声をもらした。

風炉とは茶道で、茶釜を火に掛けて湯をわかすための炉である。

もともと《カフェまよい》の厨房には二つの釜戸と、一つのドーム状の石釜が設置されていたが、メニューが増えてきたことで、二つの釜戸は飯炊きや調理に使う頻度が増え、石窯のほうはいわゆるピザ釜のようなかたちのものなので、お湯を沸かすのにはあまりむいていない形状であるため、先日あらたに設置されたのだ。

そのきっかけとなったのが、上にのっているくろがねの重厚な美しさの鉄瓶である。

先日、分福ぶんぷくという狸妖怪から贈呈された。

分福狸は、なんでも『茶の湯の分福』などと呼ばれる妖異界では名の知られた茶人であるらしい。

よい茶はよい水をよい道具で沸かしてこそ。

というのが、かの分福の主張で、人間界からもってきたステンレス製のやかんで煎れていた《カフェまよい》の茶をとても残念がり、無償でこの立派な鉄瓶を贈呈してくれた。


「あたしも、好きよー。この風炉とかいうの。ちょっとせまいけど、居心地いいわー。」


そう言ったのは、『かまど鬼』のひとり、『ふらり火』である。

ふらり火は風炉の中、鉄瓶の下でふらふらとゆらめいていた。

ふらり火は普段はドーム状の石窯を担当し、その中に棲んでいる。

石窯はいわゆるオーブンのようなもので、輻射熱で高温がでるので、焼きものをつくるととてもおいしくできあがる。

反面、和食メニューが多い《カフェまよい》では釜戸ほどは出番がない。

特に、ランチが終わったあとは閉店まで仕事がないということもあったりする。

しかし、『ふらり火』が釜戸を担当している『ほいほい火』『しゃんしゃん火』に比べ仕事量が少ないかと言えば、そんなことはなく、店が終わった後、皆がはいる風呂を沸かすのはほぼ、ふらり火の担当になっているし、燻製をつくるときにかりだされるのもふらり火だ。

そのふらり火にあらたに仕事が加わった。

風炉で鉄瓶の湯を沸かす。

もちろん、石窯での仕事がある場合はそちらを優先することになるが、それ以外の時間は風炉に場所を移して仕事をすることとなった。


「この音がまた、いいのよねぇーーー。」


鉄瓶のお湯が沸いてくると、湯気が熱い鉄瓶に触れ、シュンシュンといい音をたてる。また、温度が高くなるとチンチンといった「鳴り釜」というきれいな金属音のような音が鳴り出す。

ステンレスのやかんではまず味わえない。


「そうよねーー。そばで聞いてると、心地いいわー。」

ふらり火も同意した。



風炉と鉄瓶の前でうっとりと佇む真宵の後姿を見て、烏天狗の右近が首をかしげる。


「なあ、小豆あらい。マヨイどのはいったいなにをしているんだ?」

仕事仲間の小豆あらいに尋ねた。


「お湯の沸く音をきいてるみたいだゾ。」


「??? お湯の沸く音を聞いてるとなにかいいことがあるのか? ほうっておけば勝手に沸くだろう?」


「オレは知らないゾ!」


「右近。おぬしはほんとに風情とか情緒とかに欠けとるのう。」


そう言ったのは、通りかかった座敷わらしだ。


(情緒?風情? 情緒や風情がお湯を沸かすのに必要なのか?)


ますます理解に苦しむ右近であった。

 



読んでいただいた方、ありがとうございます。

幕間劇でございます。

風炉に鉄瓶、もしくは茶釜。ちょっと憧れです。

そんなに頻繁に抹茶なんか飲まないんですけどね。


次回幕間劇で幕間劇もおわり、5章の予定です。

よろしくおねがいします。

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