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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第四章 青嵐
100/286

100 幕間劇 鞍馬山にて7 師匠と弟子と

87 誰がための新作なりや?


の後のおはなしです。


『鞍馬山』

《カフェまよい》から、山を三つほど超えた場所にある霊山である。

妖怪の棲む妖異界では特別な山で、その頂上には大妖怪『天狗』が居を構え、その弟子である『烏天狗』たちが暮らしている。

妖異界の自警団のような役割を担っており、『烏天狗』たちは、その機動力と神通力で各地を飛び回り、調査や巡回、トラブルの対処にあたっている。



奥の院。

鞍馬寺の奥にある、『天狗』の座するその部屋に、ひとりの烏天狗が足を運んでいた。


「失礼します。御側衆古道、入ります。」


古道は部屋に入ると、天狗の前まで進み出てしゃがむ。


「おお。待っておったぞ。土産は買ってきたであろうな。」


天狗は大きな体を前のめりに古道を見下ろす。

いつも、古道が《カフェまよい》に行ったときには、土産に『おはぎ』を買ってこさせていた。


「はい。こちらに。」


古道は持ってきた包みを開ける。

しかし、そこにはいつもの折り詰めではなく、竹の皮に包まれたものがふたつはいっていた。


「む? なんじゃ? おはぎではないのか?」

天狗が不満そうに言った。

弟子の烏天狗が買ってくる《カフェまよい》『おはぎ』はなによりも楽しみにしていたのに。


「今日は『おはぎ』でなく、『おにぎり』を買ってきました。」


「な、なんじゃと? なんでじゃ? おにぎりなど別にこの鞍馬寺でも食えるではないか。」


天狗も烏天狗も食事くらいする。

当然、ここ鞍馬寺でも当番制で烏天狗が食事をつくっている。

米や麦や粟や芋などが主食だ。

当然、米の飯やおにぎりなど珍しくもなんともない。


「まあ、そう言わず、食ってくださいよ。」

古道は『おにぎり』の包みを天狗の前に差し出した。


「なんでじゃ!? わしは『おはぎ』を買って来いと命じたはずじゃぞ!」

天狗は怒鳴りつけた。

いまかいまかと期待していただけに失望も怒りも大きい。


しかし、古道は涼しい顔で続けた。


「この『おにぎり』、右近がはじめて作った料理だそうですよ。」


「む。」

天狗の怒気がピタリとやんだ。


「どうゆうことじゃ?」


「ええと。正確に言えば、右近がはじめてお客に出していいと許可された料理、ですよ。」


「あやつが、あそこで働き始めてけっこう経つじゃろう? それで、やっと、おにぎりか?」


「ええ。仕事もできるし、神通力の才能もありましたけど、料理の才能はなかったみたいですねえ。」


「ふん。なにをやっとるんじゃ、あいつは。」


「まあ、それでも楽しそうに働いてますよ。才能はなくても性にはあってるんじゃないですか?」


「才能ないなら、やっても無駄じゃろうが。」


「ふふ。まあ、そのうち芽が出るかもしれませんし、妖怪はそんなに生き急ぐ必要もありませんしね。長い目で見ればいいんじゃないですか? それに、右近のやつが言うにはおにぎりってのもなかなか奥の深い料理なんだそうですよ。」


「ふん。」


「それで、師匠としては弟子の成長を知りたいんじゃないかと思って買ってきたんです。」


「山を出て行った弟子じゃろうが!」


「それでも、弟子は弟子でしょう? それとも破門なさったんですか?」


「ふん。破門する前に出て行ったんじゃ!」

プイッと横を向く。


(まったく、意地っ張りなんだから。)

こういうところは、右近とそっくりだ。

仕事をサボりまくりの天狗。真面目すぎて融通のきかない右近。性格は真逆なのに、こういうところはそっくりである。


「いらないんなら、別にいいですよ。腹の減ってる烏天狗なんか寺にいっぱいいるんですから。」


「いらんとは言うておらん!」


「めんどくさいですね、大将は。さあ、食べましょうよ。右近の成長具合を確かめようと、大将の分と俺の分、二人分買ってきたんですよ。」

古道は竹の皮の包みを開けた。

三角のおにぎりが三つ並んでいる。


「へえ。けっこう様になってるじゃないですか。」


「ふん。問題は味じゃろうが。」


ふたりはめいめい自分のおにぎりを手に取ると、かぶりついた。


「お。『昆布おにぎり』だな。」


甘辛く佃煮にした昆布が白飯とあいまって、うまい。

白飯そのものもうまいが、適度な塩加減と口にいれるとホロっと崩れる握りぐあいも絶妙だ。


(これは、たしかに右近の言うとおりかもな。)


鞍馬寺の台所で古道がおにぎりをつくってもこの味にはならない。

材料自体の味のよさもあるのだろうが、それだけではない。たぶん、右近の言う奥の深いなにかなのだろう。

そう言えば、三つのおにぎりのなかで『昆布』は右近が握ったと言っていたような気がする。


「なかなか、右近のやつもやるじゃないですか。ねえ、大将?」


そう言って、古道が見上げると、天狗はすでにふたつのおにぎりを腹におさめ、最後のを食べ終わる寸前だった。


「・・・・ん? そうだな。まだまだ未熟者だがまあ、成長していることは認めてやろう。」


天狗は全部のおにぎりを食べ終わると、なにやらじっと古道のほうを見つめる。

古道の持つおにぎりのほうを。


「・・・なに見てるんですか? 大将はもう食ったでしょう。」


「・・・あれでは足りん。古道。おぬしのおにぎり、ひとつよこせ。」


「なに言ってるんです! いやですよ。」


「おぬしは店でランチとかいうのを食ってきたんじゃろうが。さっさとよこせ!」


「お昼の話でしょう? 今何時だと思ってるんですか? 食い意地張るのもいいかげんにしてください。」


「ええい! おぬし、それでもわしの弟子か!? 弟子なら師匠の言うことをきかんか!」


「弟子の食べ物をぶんどる師匠がどこにいるんですか!」




右近が鞍馬山を降りて、はや二ヶ月。


鞍馬山の師弟関係はあいかわらずのようだった。




読んでいただいた方、ありがとうございます。

鞍馬山のおはなしです。


いつのまにやら100話です。

全部読んでいただけたなら、とっても幸せでございます。

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