表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第一章 桜
10/286

10 休日のすごし方

人間界とは別の妖怪たちの棲む世界、妖異界。

ひょんなことから異世界で甘味茶屋を営むことになった真宵まよい


剣も魔法もつかえません。

特殊なスキルもありません。

祖母のレシピと仲間の妖怪を頼りに、日々おいしいお茶とお菓子をおだししています。

ぜひ、近くにお寄りの際はご来店ください。

        《カフェまよい》  店主 真宵

朝が来る。

いつもは、仕込みのため夜が明ける前に、起床する真宵まよいであるが、今朝は、窓から差し込む朝日を感じて目が覚めた。

「うーん。よく寝た。」

いつもより、幾分とゆっくりした睡眠に満足を感じながら、身体を起こす。

畳の上に敷かれた布団。古い天井。しかし、窓にはガラスのがはまり、電灯がぶら下がり、テレビや携帯電話充電器など、家電製品がおかれている部屋。

そう。ここは妖異界ではない。

人間界の、日本の、真宵の部屋である。

今日は、土曜日。

今日と明日は、《カフェまよい》は定休日である。

月曜日から金曜日までは妖異界で、土曜日と日曜日は人間界で。

真宵はこの一ヶ月ほど、そんな生活を送っていた。


真宵は、布団をたたみ、身支度を整える。妖異界では、いつも和装であったが、こちらの世界では普通に洋服だ。

台所に行くと、お茶を一杯だけいただいた。

朝ごはんといきたいところだけれど、冷蔵庫にはあまり食材は入っていない。

月曜日から金曜日まで、丸々五日妖異界にいることになるので、腐りやすい玉子やら牛乳やらは、おいておけないのだ。

真宵は、お茶でのどだけ潤すと、家を出た。

中古で買った軽自動車に乗ると、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。



向かった先は、地元の市場だ。

本格的にセリなどを行うようなものでなく、休日の朝だけ開かれる、地元の野菜やら特産品の直販するような朝市だ。

簡単な食べ物を売る屋台なども出ているので、買い物がてら、朝食をとるのにちょうどいい。

車を降り、市場を散策していると、知り合いに声を掛けられた。


「やあ、まよいちゃん。おはよう。」


「あ、おはようございます。」


青年団のシンタロウさんだ。

実家で農家をしながら、町おこしだ、祭りの用意だ、なんだと青年団で企画している。

いわゆる働き者の好青年ってやつですね。

過疎化で若者がどんどん減っているところに、週末だけとはいえ、頻繁に顔を出す真宵をいろいろ気にかけてくれている。

真宵の祖母とも交流があったので、親戚のお兄ちゃんみたいに感じていたりもする。

ちなみに、この町では、真宵は週末だけ亡くなった祖母の家に泊まりに来る、かわりものの娘さん、と思われている。

実際は、同じ家の中で二つの世界を行ったり来たりしているわけだが、それを説明するのはちょっと難しそうである。

シンタロウが出している店は、野菜の即売所で、白菜や葱、ブロッコリーなどがところ狭しと並んでいる。

しかも、安い。

真宵が、《カフェまよい》をはじめる前に住んでいた都市部のスーパーでは考えられない安さだ。

あれ?

その横に、いつもは見られないものを発見する。


「これって、ちまきですか?」

笹の葉につつまれたおにぎりみたいな、三角形の物体が並んでいた。


「ああ、昨日、山に山菜取りに行ってな。たくさん取れたんで、母ちゃんが作ったんだ。中身は山菜のおこわだよ。」


「わあ、おいしそう。」

朝食にちょうどいいかもしれない。

「ひとつ、ください。」


「ありがとよ。真宵ちゃんには特別サービスで無料でいいよ。」

シンタロウが白い歯を見せて笑った。顔が日焼けして真っ黒なので、余計に歯の白さが目立つ。


「だめです。ちゃんと受け取ってくれなきゃ。」

真宵は百円玉をシンタロウに押し付けた。

手作りのちまきが一個百円だなんて、それだけでも破格な値段だ。


「律儀だねえ。まよいちゃんは。」


「お金のことはちゃんとしておかないと、逆に甘えにくくなりますから。」


「そうゆうもんなのかい?」


「そうゆうものです。」

そのかわり、

と、真宵は付け足した。

「お野菜買ったときに、ちょっとだけ、おまけしてください。」


「はっは。こりゃまいった。オッケー。たっぷりサービスするよ。」

シンタロウは愉快そうに笑った。


同じことのように思えるが、売り物を無料でもらうのと、たくさん買い物をしてサービスしてもらうのとでは、雲泥の差があると真宵は思っている。


「それにしても・・。」

シンタロウが真宵に不思議そうに目を向けた。

「まよいちゃん。いつも山ほど野菜を買っていくけど、どうしているんだい? ひとりで食べきれる量じゃないだろう?」


ぎくり、と胸が鳴った。

《カフェまよい》でつかわれる食材の大半は、こちらの世界から持って行っている。

小豆やもち米、白米はいうに及ばず、ランチで使う肉や野菜だけでもかなりの量だ。

しかも、毎週五日分、一日三十人前のランチでつかう食材を土日で仕入れているのだ。目立たないわけがない。

小豆や米類は保存が利くので、米穀屋さんに発注して、届けてもらっているが、野菜なんかは、季節やその週のメニューによってだいぶ変わってくるので、この朝市で自分で仕入れているのだ。


「え、ええと。ほら、今年って、不作で野菜の値段がすっごい高いじゃないですか? 都会だと。」


「あ、ああ。今年は、台風とか天候不順とかつづいたからな。」


「それで、友達とか知り合いとかに、頼まれてて。。それに、年頃の女の子の間で、毎朝、野菜のスムージーとか飲むのが流行ってて、それで、たっくさん、野菜つかうんです・・・。」

かなり、あやしい言い訳をする。

「そ、それに、シンタロウさんのとこの野菜、スーパーで買うより、ずぅーっと新鮮でおいしいって、友達みんな言ってるんですよ!」


「へー。そりゃ、うれいしいな。よし! 今日はおもいっきりサービスしとくよ。なにもって行く?」


「ありがとうございます。でも、ほかにも見てまわりたいから、後で寄りますね。」

真宵は、軽く挨拶をするとシンタロウの店を後にした。


(はぁーー。なんとか誤魔化せたかな。)

別に嘘は言っていない。

都市部で野菜の値段が高騰しているのも本当だし、女の子の間でスムージーが流行っているのも本当だ。

シンタロウさんのところの野菜がスーパーで買うより安くて新鮮なのも本当だし、おいしい。

ただ、真宵の友達が言っているのではなく、お店に来る妖怪が言っているのだが・・・。

自分によくしてくれるひとに、いろいろ内緒にするのは、心苦しいのだが、なんでも正直に話せばよいってものでもないだろう。

信じてもらえるかわからないし、今の関係が変わってしまうのもできれば避けたい。

(ちょっと、事情が特殊だしなー。)

アナタハ、ヨウカイヲ、シンジマスカ?

へんな新興宗教の勧誘と間違われそう。


真宵は、気を取り直すと、先ほど買ったちまきの皮をむいた。

笹の葉のなかから、出汁醤油に色ついた山菜おこわが顔を出す。

「おいしそう。」

たまらず一口かぶりつく。

いい塩加減ともちもちしたうるち米の食感が絶妙だった。わらびやらぜんまいやら山菜が盛りだくさんに入っていて、素朴な味ながら、なかなか豪勢な朝ごはんだ。

これで百円なんて安すぎる!

(しまった。もう一個、買っておくんだった。)

まだ、いろいろまわりたかったので、控えめにしておいたが裏目に出た。

帰りに、野菜買いに寄ったとき、まだ残ってたら絶対買おう。

真宵は心に誓った。

(ちまきかぁ。茶屋でもだせないかな?)

この町は山に囲まれてるせいで、山菜は豊富だ。市場にも売ってるだろうし、時間があれば自分でも取れる。具は他の野菜にかえてもいいし。

笹の葉に巻くのがちょっと手間だけど、まとめて蒸せるので一度にたくさん作れる。そのままテイクアウトもできるし、お昼ごはんにも間食にもなる。

(問題は味付けかなぁ。)

炊き込みご飯くらいならつくったことはあるが、ちまきやおこわは、祖母の手伝いをちょっとしたことがある程度で、レシピまでは覚えてない。

(シンタロウさんのお母さんにお願いしたら、教えてもらえるかしら?)

ひと様のご家庭の味で、商売するのはちょっと気が引けるが、別世界でする商売なら許されるだろうか?

正直に話す訳にもいかないし、悩むところだ。

(暖かくなってきたし、もうすぐ桜の季節だなぁ。桜餅の作り方、練習しとかなきゃ。)

東北の田舎町なので、少し遅めの春だが、それでも、確実に時は刻まれる。

梅が枝餅にうぐいす餡、苺も季節だし、苺大福もつくってみたい。

桜がおわれば、すぐに柏餅の季節だ。

やりたいことはたくさんある。

素人同然の真宵にはとても全部は無理かもしれないが、できることにはチャレンジしたい。

(まずは、今週のランチの献立ね。)

土日の間にメニューを決めて、食材を確保しておかなければならない。

真宵は、市場に並んだ食材の数々を見ながら想像力を働かせる。

一度に三十人前仕込めて、簡単に温めたり、火を通すだけで完成する料理。

(やっぱり、和食がいいわよねぇ。 たまに洋食もだしてみようかしら? 苦手なひと・・妖怪さんもいるかしら? 和と洋ふたつ選べるようにするとか? でも手間がなあ・・・。)


朝市の賑わう人ごみをすり抜けながら、真宵は異世界の自分の店に思いをはせる。

真宵の休日は、はじまったばかりだ。





今回は、真宵さんの休日のおはなしです。

たまには妖怪さんのでない話もいいかなとおもい書きました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ