転生グール、血肉を貪りたい ~生者を食べてレベルアップ!~
――ガーツガーツ、ムーシャムーシャ。
食事と言うのはいつになっても楽しいものだ。
舌を、臓腑を、脳をも歓喜させる感覚を、本能が知っているからなのだろう。
……ただ惜しむらくは、今の俺はその器官のうちの殆どがまともに機能していないことである。
気が付くと、俺はこの物体を貪っていた。
食べることによって、何かを得ることが出来る気がしたのだ。理屈ではなく、衝動で俺は動かされていた。
俺が口をつけていた物体――それは、どう見ても生物の成れの果てで、屠殺された人間の肉であった。
……思い出したことがある。この人物の命を絶ったのは俺だ。
首に深く刻まれた歯型も、肉を食いちぎられて露出した白骨も、頭蓋をかち割って取り出した手の中の脳みそも、すべて俺がやったことだ。
だが、不思議と罪悪感はない。以前ならば、吐き出しててもおかしくないほどにスプラッターな光景であるにも関わらずだ。
あ、そうだ。もひとつ思い出した。俺、死んだんだったわ。
死因とか覚えてないし名前とかも思い出せないけど、確かに人間だった。こことは違う世界に生きるごく普通の人間だったわ。
何で異世界に来たのが分かるのかって? そりゃそうだろ、脳内にレベル表記が浮かび上がる世界なんてどっからどう考えても異世界だ。
それにそうでなきゃ、今の俺みたいな腐った死体の化け物だっていないはずだ。
ちなみに俺の現在のレベルは5、基準が解らないから高いのか低いのかわからない。
ようやく脳みそが働くようになったぐらいだし、多分低レベルなんだろう。
さっき「何かを得ることが出来る気がした」って言ったけど、要するに経験値稼いでたわけだな。喰えば喰うだけ強くなるわけだ。
それに意外と人間の肉はうまい。舌腐ってて味覚無いからわかんないけど。
よし、そうと決まれば喰いまくるか。
普通の人間は楽に殺せるみたいだし、ただで食い放題なんだ。
夜の間はバイキングだぜ! ……あ、夜行性なんですよ、俺。
◆
自我を得てから数ヵ月たった。しかし、俺はまだこの場所にいた。
どうやらこの墓場を離れることが出来ないらしい。離れようと考えても実行に移すことが出来ないのだ。
なぜかは分からない。数か月前まで脳みそ腐ってた低脳ですし。
俺としては腹一杯人間食べたいから、すぐそこの村まで行きたいんだけどなぁ……
そんなわけで、俺の食料は埋蔵品目当てで墓を荒らしに来たクズと、死霊術師とかいう死人の体を弄ぶクズだけであった。つまりクズ肉ばっかだ。
本当は子供とか喰ってみたいんだよ。筋張った大人よりは柔らかそうだし。
ちなみに今のレベルは10だ。
レベルが上がるにつれて段々と人間らしい感覚を取り戻しつつあるのが実感できる。最近舌が復活して味覚が戻ったのだ。
これでコックとか目指せるようになるのでとても嬉しい。喰い専だから目指さないけどね。
俺が誰の物ともわからない墓石に腰かけていると、今日の獲物がやって来たようだ。
お、ラッキー! 噂をすればなんとやら、今日のメニューは赤い髪の幼女ちゃんだ。幼児特有のプリプリとした肉が魅力的だぜ。
それに何だか泣いてるぞぉ。塩味がおいしそうだぞぉ。
「お父さん。お母さん。どうして死んじゃったの……? どうして……ぐすっ……」
……マジ泣きですよこれ。保護者は何をしてるんだ。
まあ、俺の飯になるわけだから関係ないけどね。
そんなことを考えていると、新たな足音が聞こえて来た。
まだ来るのか……? 今日は豪華だな、2人も追加が来るなんて。
「兄貴! ガキがいるぜ!」
「丁度いいや! ついでに奴隷商人に売っ払って明日はステーキにしようぜ!」
「へへへ! 流石兄貴!」
どう見ても保護者じゃないな。割とよく来る墓荒らしとかいうクズだ。クズ肉だ。
「な、なんなの、おじさんたち……」
「おじさんがとぉってもいいところに連れてってあげるからねぇ」
「い、嫌……助けて! お父さん! お母さん!」
君の両親は死んでるはずだったよね?
まあいいや、ここで俺が空気を読まずにエントリー。
「ヴ、ヴォォォォォォッ!」
「いただきます」って言いたいんだけど、生憎と声帯は完全に治ってないんだよね。
「グ、グールだ! 逃げろぉぉぉぉっ!」
「待ってくれよぉ!」
おうおう、頑張って逃げちゃって中々活きの獲物だこと。
だがしかし、人間ハンター歴数ヵ月のこの俺からは逃れられないぜ。
俺は痛覚のない脚を限界以上に酷使して迫り、両の手に一人づつ、計二人のおっさんを捕まえた。
やべえな、また足の骨にひびが入ってしまった。早く食って再生させないと。
ああ、そうだ。なんと俺はお食事をすると体が再生する体質らしい。その代わりすぐに劣化するんだけどね。
「ヴォォォォォォッ!」
再びの「いただきます」だ。ちゃーんとお祈りしないとね。
「ギャアアアアアアアアアアッ!」
――ガーツガーツ、ムーシャムーシャ。
幸せぇぇぇぇっ!
おっさんだと思って侮ってたけど、なかなかうまい人間だな。
程よい血生臭さに食欲を掻き立てられ、スイスイと口が動く。ジューシーな脂が胃を潤わせ、満足させる。
とてもクズ肉とは思えないうまさである。いや、クズ肉呼ばわりはもうやめようか。彼らだって立派な肉なんだから。
「あ、兄貴……! ギャアアアアアアアアアアッ!」
お、こっちも中々。
でもおっさん肉の味なんてそんな変わんねえな。いい加減飽きてきたわ。
「あ、あああ……」
さて、脳みそ喰ったら腰ぬかしてる幼女ちゃんの方もいただきますか。
首ねじって、もぎ取って――はいパッカーン! 上手に取れましたー!
いやあ、やっぱ脳みそはうめえよ……これだけは飽きが来ない。
「嫌ぁぁぁっ! 助けて、お父さん、お母さん――!」
ははっ、そんなこと言ったって――
「――誰かぁぁぁぁぁっ!」
……急激に食欲が失せたな。何故だ? さっきまであんなに楽しみにしてたのに……
二人を食べたせいでレベルが上がったせいなのだろうか。
それよりも、一人で墓場にいることの寂しさが、俺の心を冷え込ませていることに気が付いたのだ。
知らないうちに俺は、彼女に話しかけていた。声帯の状態など考えずにだ。
「ヴ……ヴォ……オデ……オマエ……グワバイ……」
「……え?」
喋れた! 通じた! きっと通じている! 「俺、お前、喰わない」だ!
このまま話しかけろ、俺!
「ヴォレ……グズダケ……グー」
さっきよりうまく発音できたはずだ! 通じろ!
「グズだけ食う……? やっぱり食べるの?」
「ヂガ……」
「血が……? 血を飲むの!?」
「ヂャウ……ヂャウンヤ……」
あまりの伝わらなさに思わず関西弁になる俺。必死すぎるだろ。
でもこんな感覚久し振りだ。人と話すだけのことがこんなにも楽しいなんて!
どうやらそう思っているのは俺だけじゃないらしい。目の前の幼女も、気が付けば笑っていた。死体がすぐそばにあるというのにだ。
「……アハハハハハハ! 面白いグールさんだね!」
「ヴォォォォォォ」
笑ってくれたのであれば嬉しい。俺としても頑張った甲斐があったというものだ。
「私、ミーア! あなたは?」
ミーアちゃんは楽しそうに問いかける。グロテスクな見た目をしているはずの俺を友達として扱ってくれるみたいだ。
……とてもいい子だ。名乗れる名前を持ち合わせていないのが心苦しい。
「グゥゥゥゥル」
「やっぱりグールさんなんだね! で、名前は?」
俺の名前なんて「グール」でいいんだって。
そんな反論を頑張ってしようとしたその時、朝日が昇り始めるのを直感した。早く寝ないと。
「マダ……ネ」
「まだ駄目なの?」
通じないのなら仕方がない。俺は手を振って、いつも寝床にしている茂みへと駆け込んだ。
「ふふっ、またね。グールさん」
「ヴォォォォォォ」
こうして、俺にとっての初めての友達が出来た。
ミーアちゃんはまだ小さい子供だけれど、俺のような気持ち悪い奴にだって優しくしてくれるいい子だ。
◆
彼女との運命的な出会いの翌日。
その日の夜にもミーアちゃんはやって来た。
その前に来た死霊術師はサクッと殺して茂みに隠しておいた。熟成させてから後でじっくり頂こう。
「こんばんは、グールさん」
「コンヴァンワァ……」
練習した甲斐もあってか、大分発音はうまくなったと思う。
少なくとも意図せぬ濁音はかなり減った。
「ねえねえ、覚えてる? あたしミーア。昨日会ったでしょ?」
流石に昨日の今日で忘れたりはしないよ。でも脳が腐ったら忘れるかも。
つーかこれどう見ても珍獣扱いだな。いい気はしないが、まあいいだろう。
「ミーア、オボエテル」
「すごーい! 覚えてるんだ!」
覚えてるってば。
それにしてもべたべたしてくるな、この子。
「柔らかーい。プニプニしてるー。くさーい」
「サワラナイホウガ、イイ」
「何で? あ、汚いんだー?」
やめろ。その言葉は俺に効く。
無邪気な子供の言葉とは言え、そうストレートに言われると少し堪える。
「今度石鹸持ってきてあげる!」
あるんだ、石鹸。でも俺的にはシャンプーとリンスが欲しい。
……あ、でも髪生えてなかったわ。頭皮が腐ってる。
「洗髪石鹸は必要ないよね?」
「イラナイ……」
あるのかシャンプー。
でも洗ったら頭皮が危ないから断る。崩れ落ちたら大惨事だ。
「昨日どうして私がここにいたか知ってるー?」
知らないよ。つーか、いきなり話変えてきたな。
まあ、墓に来る用事なんて1つしかないよね。夜によく来るクズども以外では。
「ハカマイリ?」
「せいかーい!」
わーい、うれしー。(棒読み)
景品は脳みその詰め合わせがいいです。
「お父さんもお母さんもね……死んじゃったの……それでね、私……」
もしかして、これやべー雰囲気じゃね? 今の口に出してないよね?
泣いちゃうよこれ。でも俺のせいじゃないよこれ。どうすりゃいいのよこれ。
「どうして、どうして死んじゃったのっ! どうして置いてくのっ! ううっ……うっ……」
こういう時人間ってどうすれば落ち着くんだっけ……?
撫でるとか? いや、それだと動物扱いしてるみたいだよな……
まあいいや、撫でてみよ。前世では『ナデポ』なんて言葉があった気がするし。意味忘れたけど。
「グールさん……」
「ダイジョウヴ。ミーア、ダイジョウヴ」
何が大丈夫なのかはわからない。というか傍目に見れば全然大丈夫じゃない。それでも俺は、ミーアちゃんを撫で続けた。
撫でられている彼女は一向に泣き止まない。綺麗な頭には腐り落ちた俺の手の肉が付着していた。それは洗髪石鹸で洗えばいいんだろうけど。
そうしている内に人間の温かさを俺は思い出していた。掌からは、確実にミーアちゃんの体温を感じている。
そして同時に、親の温もりを失ったこの子に俺がしてやれることなど、冷血なグールであるうちは絶対に無いのだと悟った。
俺は自分が死体であることを申し訳なく思いながら、できる限り優しくし続けた。こんなことに意味は無いのかもしれない。
それでもミーアちゃんは、笑い始めていた――
頑張って笑顔を取り戻そうとするミーアちゃんを見て、俺は『人間』になりたくなった。
感情に押し流されそうになりながらも立ち向かうその姿に、俺は心打たれたのだろう。それにその方がきっと彼女も喜んでくれる。
これからも多くの『人間』を喰らって、早く『人間』になろうと、この瞬間に心の中で俺は誓ったのだった。
◇
気が付けば10年も経っていた。
この10年、俺はミーアと沢山の話をした。そして今日も――
「またね、グールさん!」
「ああ、気をつけて帰れよ!」
手を振り、ミーアが帰ってゆく。
俺はそれを眺めながら、笑顔を返した。かつてのように(腐敗的な意味で)崩れた笑顔ではなく、立派なイケメンのスマイルだ。
外見上に気味の悪い部分はもう無いと言っても過言ではない。気を抜くと部分的に肉が腐り落ちてしまうことはあるけど、見かけの上では完全に人間である。
尚、イケメンは自称ではない。ミーアが持ってきた手鏡で顔を見せてもらったことがある。艶やかな黒髪ロンゲの中性的な顔立ちのイケメンだった。
……え、何? 結局自称だって? うるせえ、イケメンがイケメンだと言えばイケメンなんだよ。
それにしても大きくなったよなあ。ミーアも今となっては立派な大人だ。
夜中に家を抜け出して墓まで来ていたころは保護者にも迷惑をかけていたのだろうが、その心配ももう無くなるらしい。
わざわざこうして俺のところまで来てくれるのはありがたいことなのだが、大丈夫なのだろうか。周りの視線とか。……まあ、大丈夫なんだろ。
ミーアを見送ると俺は座り込み、墓場を囲う柵にもたれかかる。鮮やかな夕焼けの色に彩られ、イケメンたる俺は輝いていた。
そう、俺は墓場から出られるようになったし、朝だろうが昼だろうが起きていられるようになったのだ。レベルアップ様様である。
ただ活動時間が長くなったせいで少し寝不足なんだけどね。夜にならないと喰っていい人間が現れないから夜更かしが多いんだ。
そんな格好よく黄昏る俺の前に、一人の男が近づいてきた。
見覚えはない。つーかミーア以外の村人の顔なんて覚えてねえ。
だが格好から察するに、コイツは村の自警団員だろう。不審者を追っ払うのが主な仕事だが、俺みたいな魔物から村を守る害獣駆除のプロでもある。
俺は害獣じゃないけど。
「よう、グールさんよお。今大丈夫かい?」
「……ああ」
俺は今では村の人間に認知されていた。俺がグールという名前のイケメンお兄さんではなく、グールという種類の魔物であることは誰もが知っている。
何故見逃されているかはわからない。俺がかなり人間に近い外見になって来たからなのか、夜中に墓を荒らすクズどもを成敗しているからなのか、それとも村娘であるミーアと心の友と言って差し支えない関係だからか――
とにかく何か理由があって見逃されているのだろう。俺も村人に危害は加えた覚えはないし。
「相変わらず無口な奴だな」
てめえに使ってやる舌はねえ。口を動かせばそれだけ消耗して腐敗が速まるんだ、もったいなさすぎる。
俺がまともに話してやるのはミーアだけだ。同様の理由で、動いてやるのもミーアのためだけだ。
「人間味のない奴だな……所詮はグールということか。なんか臭せーし」
うるせえ。鼻摘まんでないで早く本題に移れ。
「……ミーアちゃんは今年で16歳になった。これは立派に結婚できる歳だ。お前にはわからないかもしれないがな」
そうだったんだ。知らなかった。ぶっ殺すぞ。
「あの子の話し相手になってくれたのだけは感謝しよう。だが、村の殆どの者はお前をよく思っていない」
「……何故だ?」
衝撃の事実に俺は思わず反応を返してしまう。
……いや、そんな衝撃的でもないし予想通りではあるが、はっきりと言われるとちょっと悲しい。
「……あの子の母親は戦争で死んだ。ここに眠る者たちの殆どは戦没者だ」
それ、俺関係ないよね?
「村の自警団員だった父親の方は、夜中に墓への見回りによく出ていた。この村が隣国の被害にあったことを聞きつけた墓荒らしが、頻繁に出没するようになったからだ」
へえ、通りでよく来ると思った。
「だが父親はある日の朝、家に戻らなかった。そして身元不明の無残な遺体が、母親の墓の前にあった。……僅かに肉のこびりついた人骨だけが棄てられていたんだ」
…………そういうことか。
「誰がやったのかについては置いておこう。意味のないことだからな」
言われなくても、もう誰がやったかなんて一目瞭然だ。脳みそ腐りかけの俺にだってわかる。
そして何を言いたいのかも――
「俺の先輩の娘を元気づけてくれたのは助かった。引き取られた孤児院で窮屈な思いをしていたようだが、俺にはどうしようもなかったからな」
そうだったのか。俺のところへ頻繁に遊びに来ていたのは、そういうことだったのか。
彼女もまた、俺と同じく孤独な境遇にあったということなのだろう。友達のくせにそんなことも俺は知らなかったなんて……
「だがミーアちゃんももう大人だ、お前などいなくても生きていける。だから……」
「ここから出て行けと?」
「そうだ。レベル30はあるであろうお前に、せいぜいがレベル5の俺たちが敵うはずもない。だから頼む、あの子のためを思うなら早く消えてくれ……!」
自警団野郎はただの魔物である俺に向かって、真摯に頭を下げてきた。
「……考えておこう」
そういわれてしまっては、俺も頷くしかない。
俺のためにミーアが村から爪弾きにされてしまうのでは、あまりにも辛すぎる。
だが、それでも俺には最後にやっておきたいことがあったのだ。
ここまでレベルを上げてきたのは、彼女のためなのだから――
◆
その日の夜。俺はノコノコと墓場にやって来た盗賊を仕留めた。
貫手で胸を一突きだ。心臓を貫いて瞬殺だった。慣れたものである。
そして死体を持ち上げ、腕をかじる――
「おえぇぇぇぇぇぇっ!」
俺は吐き出した。地面にぶちまけられた吐瀉物の中には、生の肉片が混ざっている。
実はここ数年、まともに人間など食べていない。
いくつか理由はあるが、最大の原因の一つがこれ、嗜好の変化だ。
かつて好んで食べていた脳みそなどは、直視することすらできなくなってしまっていた。
――なぜ俺はこんなものを食べているのだろう。
ある日、ふとそう思ったのが不味かった。それから俺はどんどん味覚的な意味で人間嫌いになっていき、隣人愛的な意味で人間が好きになっていった。
自分が何を食べていたのか考えてしまったときなんかもう最悪だ。大好きなミーアを食べているような錯覚に襲われれば、憤死寸前まで狂い散らかしたこともある。
だが今回は数十回の繰り返しの上に、俺はようやく僅かな肉を飲み込むことに成功したのだ。
「喰った……喰ったぞ……」
人肉を口にできたことを喜んでいると、能天気に響くレベルアップのファンファーレ。
こんなシステムを考えたやつはぶち殺したくなるが、これで俺はまた人間に近づいたのだ。
だが――
「……あ、あ、ああああああああ!」
俺は叫んだ。レベルアップしたことで、人間寄りに傾いた感性が俺の行為を咎めたのだ。
喰えなくなったもう一つの理由。それは、激しく脈打つ俺の心臓が、荒ぶる吐息が、絶え間なく流されている涙が、これ以上ないほどに物語っている。
そう、俺は人間を殺めることに罪悪感を抱き始めていた。気分によっては逃がしてやることさえあった。だが一撃で殺せば大した問題もない分、『まだ』マシな方だったのだ。
――しかし、もう違う。自らの行いを後悔することを覚えてしまえば、これから生きてゆくのすら辛くなってしまう。
地獄の始まりだと言い換えてもいいかもしれない。
人間を食べるにつれ、人間に近づくにつれ、人間を殺めることができなくなってしまうとは何とも皮肉なことだろうか。
これではゴールになど、絶対に辿り着くことは出来ない。反発し合う磁石をくっつけるがごとく、限りなく不可能に近いことなのだ。
「うおぉぉぉぉぉ……!」
人間のために人間を喰らって人間になろうなど、俺は間違っていたのだろうか。
……きっと間違っていたのだろう。更なる後悔が、俺をのたうち回らせていた。
◇
俺は失意のままに、定位置と化した柵にもたれかかっていた。
もう、死にたいとすら思っていたのだ。
雲のない快晴の空は、俺の心を苛むために生まれたものであるとさえ感じられていた。
だからミーアに話しかけられても、生返事を返すのみであった。
「ねえ、グールさん。聞いてるの?」
「……ああ、聞いてるよ」
――などとは答えたが、実はほとんど頭の中に入っていない。
「じゃあ、何の話してたか言える?」
「村の自警団は嫌な奴ばかりだって話だったか?」
「かすりもしてないよ!」
そりゃそうだ。聞いてなかったし。
俺がそんな態度をとっていると、プンスカと怒り始めたミーア。可愛い。
今以上に彼女を怒らせ、悲しませるのだとしても、俺はこの話を切り出さねばならなかったのだろう。
「ミーア、よく聞いてくれ」
「え、何? グールさんの方から話があるなんて珍しいね」
「……ああ、大事な話だ」
俺が彼女に言っておくべきことは二つある。
だが片方は俺には話す勇気が持てなかったし、そのうちあの自警団野郎が話すだろうから、卑怯ではあるが言わないことにした。どうせ過去のことだ。
つまりもう片方の話――すぐ未来のことを俺はミーアに話し、実行することに決めたのだ。
「――俺はここを出ていくことに決めたよ」
「……え…………?」
理解できない――いや、したくないような顔をしているミーア。
別れを惜しんでくれるのは嬉しいが、そうはいかない。
「自警団の奴に言われてな。迷惑なんだと」
「……置いてくの?」
……は? 何を?
そう口に出しそうになってしまったが、少し考えればその意味は分かる。
「グールさんも私を置いていくの!? お父さんとお母さんのように!」
「……」
「私が嫌いなのっ!?」
そう泣きながら詰め寄られても、撤回するわけにはいかない。
自警団野郎の言っていたことには一理あって、俺がこのまま村に居続けるのは誰にとっても不幸にしかなり得ないのだ。
「……もう、口も利きたくないんだっ!」
「…………」
ミーアは逃げるように帰ってゆく。そうしておくのが正解だろう。
「口も利きたくない」というのは、実はその通りなのだ。
俺はもう、ミーアとなるべく話したくなかったのだ。
レベルの上がってしまった俺は、中途半端に『愛』を覚えてしまった。
実の子供のようにさえ思っていた彼女に、劣情を催してしまっているのだ。
理性を先に得ていなければどうなっていたかはわからないし、想像したくもない。
「……俺は最低だ」
思わず漏らした言葉が、虚しく響く。
思い返してみれば、泣いているミーアを見るのは10年ぶりだ。意外なことに、2回目に会ったとき以来なのである。
もう、二度と見ることは無いと思っていたのに――
まさか、俺が泣かせてしまうとは。
結局人間になることもできなかった。
そしてあの子の父親は――
「……本当に最低な生き物だよ、俺は」
それしか呟けなかった。
◆
村から火が上がっている。
何だか騒がしいので、最初は村ぐるみでキャンプファイヤーでもしているのかと思ったが、そうでもないらしい。
鎧を着た兵士たちが墓場の方に来れば、もう想像はできる。
「ギャアアアッ!」
命からがらここまで逃げ延びたのであろう村人が、無慈悲に槍に刺されてしまう。
肩に刺さっていた矢以上の物が胸を貫けば、生きてはいないだろう。
「何だコイツ! まだ逃げようとしてやがるぜ! ギャハハハハ!」
「無様無様!」
村人を殺した兵士たちは、絶命した村人を足蹴にし、嘲る。
俺は何となくその光景を可哀そうには思ったし、むかっ腹も立ったのだが、特には何もしなかった。
ただ、黙って見ていただけである。
「お、何だコイツ」
「死んでんのか?」
どうやら俺に気が付いたらしい。
「……ああ、お構いなく」
こう言っておけば無視してくれるだろ。多分。
問答無用で俺を殺してくれるのであれば別にそれでもいいし。
正直もう余計なことは考えたくない。
「はぁ? 何だコイツ?」
「もう殺しとこうぜ。これからこの村の女でお楽しみタイムだってのに、男がいるんじゃ邪魔くさくて仕方ねえぜ」
「そうだな。どうせ最後は全員処理するんだし、今のうちにやっておくか」
「お楽しみタイム」? 「全員処理する」?
何を言っているんだこいつらは。どんな神経してたらそんなことが出来る?
そもそも、「村の女」ってなんだ? 「全員」ってどこからどこまでだ?
考えれば考えるほど、俺の心臓が痛くなる。
そして、その結論に至ると――
「犯すといったのか……? 殺すといったのか……?」
「あ? 何だコイツ。いきなり立ち上がりやがって」
「さっさと刺しとけよ。めんどくせえ」
俺は黙ってはいられなかった。叫ばずにはいられなかった。
「俺のミーアを傷つけると言ったのかっ! 泣かせると……この俺の前でほざきやがったのかぁっ!」
「ギエッ!」
奴らが反応する前に、俺の右の貫手が片方の男の胸を襲う。
そして、鋼鉄のプレートアーマーを容易く貫き、心臓を破った。
溢れ出す血が、俺の手を赤く染め上げる。
「あ、あ……何だコイツゥ! ウワァァァァッ!」
一瞬の間に相棒を殺された兵士が、慌てふためく。
しかし、俺は逃がさない。すかさず抜き取った手から繰り出す手刀で、そいつの首を狩る。
噴水のように血しぶきが上がる。
「ヴェッ――!」
そうして宙に跳ね飛ばされた首をキャッチすると、断面に俺は噛り付いた。
――やはり不味い。耐えられなくなった俺は、その辺にそれを捨てた。
「――ミーア! どこだ、ミーアッ!」
俺は村に向かって駆けだした。
ミーアのいる孤児院の場所など、俺は知らない。村に入ることさえ、今までしてこなかったのだ。
ミーア以外の人間を蔑ろにしたツケが来たのだと、今更ながらに思い知る。
「ババアはいらねえんだよ!」
「ひ、ひぃぃぃっ!」
俺が村の中を走り回っていると、子供の一人でもいそうなおばさんが尻もちをついていた。
兵士に槍を突き立てられ、怯えている。見渡してみると、その槍の餌食になったであろう村人たちが、そこかしこに転がっている。
丁度いい。教えてもらおう。
「おい!」
「あ? ――ぐっ!」
俺の声に反応して兵士が振り返ったその瞬間、貫手で胸を突いてやった。
そして死体を振り払って腕を抜き取ると、怯えたままのババアが俺を睨んでいた。
「う、後ろ……!」
「……えっ?」
その言葉の意味が理解できた瞬間だった。
――俺の胸から、槍が生える。
「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁっ!」
痛い! 滅茶苦茶痛い!
言い表せないほど痛い! 苦しい!
「ガアアアアッ!」
「なっ!?」
俺は振り返り、背中から刺してきやがったクソ野郎の首筋に噛みついた。
クソ野郎は必死に抵抗するが、俺が離すわけがない。
レベル35の力で、無理矢理にでも食らいつく。文字通り。
「ギャアアアアッ!」
「グガアアアアアッ!」
お互いに苦痛に喘ぎながら、暴れる。
俺は奴の肉を喰らうために、奴は俺から逃れるために。
しかし、猛獣同士の戦いにも見える激戦を制したのは俺だ。百獣の王は俺なのだ。
そして俺は死にゆく奴の目の前で肉を貪って見せる。
意味は無い。本能的に取った行動だろう。
胸から槍を抜き、奴の不味い肉を思う存分貪ると、俺の傷は修復してゆく。
「孤児院ハドコダ……! ミーアハ……!」
「ひっ! あ、あっち! 向こう!」
俺はババアの杜撰な案内を受けると、指し示されたほうへ向かって走る。
急ぎだ。もう足の損傷を気にしているほどの余裕はない。骨が軋むほどの力で、俺は駆ける。
「何だあれは! 止めろ!」
村を襲うクズどもが俺を止めるべく立ちふさがり、槍を構える。
槍の何本かは俺に命中するが、そんなのはお構いなしに俺は奴らの首をはねて行った。
全身から大量の血を吹き出しながらも、俺は走り続ける。
「ミィィィィィアッ!」
孤児院らしき大きめの建物が、俺の視界に移る。
煉瓦の塀越しに見えるその木造の建物には、既に火の手が回っていた。
このままではミーアが危ない――!
「――助けて、お父さん! お母さん――!」
聞き覚えのある声と言葉が聞こえた。
まずい、ミーアが危険な目に合っている!
俺の体は既にボロボロだが、動かない訳はない!
なぜならば――この体にはあの子の父親だっている!
「――グールさぁぁぁぁぁん!」
ショルダータックルが塀を壊す。俺の右肩が粉々に砕ける。
そしてそのすぐ傍で兵士に拘束されているミーアを認めると、俺は崩れた煉瓦の一片を左手で拾い上げ、投げる。
煉瓦がミーアを捕えていた兵士の頭に命中し、兜越しに頭を砕いて彼方へと飛ぶ。俺の左肘が脱臼し、肩までもが外れてしまう。
「グールさんっ!」
「グ、グールだ!」
「どうしてこんなところに!」
すかさず俺は接近し、あと3人いるうちの1人の首筋に噛みつく。
「ギャアアアアアアアアアアッ!」
そして一気に、顎の力だけで剥がせるだけの肉を剥がし、咀嚼する。
右肩が修復し、骨が直るのと共に激痛が引く。
「どけ! 俺がやる!」
「隊長――!」
偉そうな鎧に身を包んだ髭面が前面に出ると、懐から短杖を取り出した。
「グールには火魔法が有効です! お願いします!」
「うむ、まかせておけ」
何をするのか宣言してくれるのはありがたいのだが、火魔法は不味い。
グールの体は人間とは違い、ライターほどの火でも何故かよく燃えるのだ。昔、強めの死霊術師に浴びせられたことがある。
人間ならば火葬された後でも残るはずの骨までもが、薪のようによく燃えるのだ。
そして、見たところ奴のレベルは高い。
俺と同等かまではわからないが、少なくともその辺の兵士とは桁が違うだろう。
そんな奴の火魔法を浴びてしまえば、俺の命は危うい。
――いや、丁度いい機会なのかもな。
「喰らえ! 『火魔法』!」
宣言通り、ヒゲが火魔法を放つ。
構えられた短杖の先端にある宝石から、火炎放射器のように火が伸びる。
そして――
「ヴァァァァァァッ!」
その業火を一身に浴びた俺は、身を焼く苦痛に喘いだ。
「やりました、隊長!」
「うむ、レベル40のこの俺にかかればこんなものだ」
俺より格上だったのか、こいつ……
「そ、そんな……グールさん!」
今にも泣き出しそうなミーアが、俺の名を呼ぶ。
しかし、心配には及ばない。
「――た、隊長! あ、あれ……!」
「何っ!」
俺はまだ動けないことはない。
いくら燃えていようが筋肉はまだ生きているし、グールは最悪骨だけでも動けるのだ。
しかし、骨までもが燃えてしまえば、終わってしまう。
それまでに片はつけなければいけない。俺は、燃え上がる心で、燃え上がる体を進ませた。
「くそっ! 『火魔法』!」
現在進行形で燃えている俺に、新たな火種を追加したところで全く意味は無い。
だというのに、ヒゲは焦ったのか火魔法を連発する。
当然俺は止まらない。止まるわけにはいかないのだ。止まるんじゃねえぞ。
「来るな! 来るなっ! あ、あ、ああああああああああぁっ!」
俺はついにヒゲ野郎に組み付き、押し倒し、その顔に歯を立てた。
バリバリと面の皮を剥ぎ、捨てる。ブチブチと肉を千切り、飲み込む。
頑張って抵抗するヒゲだったが、マウントをとった俺に適うはずもなく、その顔がグロテスクに変貌してゆく。
そうして痛みに苦しむヒゲがやがて抵抗をやめると、俺は一思いに首に噛りついてやった。
奴が剣を取り出したら危なかったが、幸いにも奴は火魔法に固執してくれた。
もう一人残っていたやつは怯えて腰を抜かしている。もう、俺の勝利だ。
「う、うわぁぁぁぁっ! 隊長がやられたぁっ! 撤退! 撤退だぁぁぁぁっ!」
生き残った兵士が、叫びながら逃げてゆく。
それを奴の仲間が聞いたのだろうか、あちらこちらから靴音が響く。
……もう、大丈夫なんだろうか。
俺は安堵したわけではないが、立ち上がることもできずにへたり込む。
ヒゲが死んだので火は消えたが、もう俺の体はボロボロだ。ボロ雑巾なんてレベルではなく、擦り切れまくって布としての機能も残さない代物だ。
染み一つなかった肌は焼け爛れ、密かに自慢だった髪も焼け落ち、イケメンフェイスは無残にも焼け焦げているだろう。
自分を客観視することが出来ないのでわからないが、きっとミーアと初めて会った時と同じような醜い姿だ。
「……グールさん。ねえ、起きてよ……ねえ……」
――だというのに、ミーアは怯えもせずに俺に心配そうな眼差しを向けてくる。
この子の性根はきっといつになっても変わらないのだろうという確信が、俺の心に宿る。
だからこそ、俺は切り出さなければならない。
「……なに、それ」
寝返って仰向けになった俺は、下敷きにしていた死体の腰から剣を抜き取り、ミーアに向ける。
――しかし向けるのは切っ先ではなく、柄だ。
深く刃の食い込む俺の手からは、最早一滴の血もこぼれない。
「オデヲ……コロゼ」
俺はミーアに告げる。
それは死を望む懇願ではない。未来を求める渇望だ。
彼女は悲しき過去を清算し、俺は忌々しい未来を絶たれる。
これはお互いに必要なプロセスなのだ。
「……何言ってるのかわかんないよ……」
仕方なしに俺はヒゲの肉を食い、声帯を回復させる。
そしてもっとはっきりとした声で、再び告げる。
「俺を殺すんだ、ミーア」
「何が言いたいのか全然わかんないよっ!」
泣き出したミーアを見た俺は、なぜかそれまで話したくないと思っていたことを話し始めていた。
彼女にだけは、俺が生きている間は知られたくないと思っていたことを――
「……お前のパパを殺したのは――俺だ」
「――え?」
泣き顔を覆っていた手を退かし、俺の目を見るミーア。
「ミーア、お前は俺を許しちゃいけないんだ。この世界の誰もが俺を認めても、お前だけは――」
「違うよ! そんなわけない! グールさんは嘘をついてるっ!」
残念なことだが、きっと嘘はついていない。
俺が自我を得たのは、ミーアの母親の墓の前でのことなのだ。
そしてその時に食べた男も、墓の前にいた――
おそらくはそれがミーアの父であったのだろう。
ならば、俺がしてしまったことは取り返しのつかないことなのだ。例え意味のないことだと分かっていても、贖罪の一つはしなくてはならない。
そして、彼女のほかにも俺のことを許してはならない者がいるはずだ。
丁度良いタイミングで、その人物の足音がやって来る――
「――随分と酷なことをさせるんだな、グールさんよ」
「仕方ねえだろ。これが一番筋が通るんだからな」
「ふん、人間でもない癖に」
俺の目の前に姿を現したのは、例の自警団野郎である。
額からは血を流し、怪我を負ったのか肩を押さえつけている。夜の闇の中でもわかるほどに汗を流し、息は切れている。
激戦の中を潜り抜けて、わざわざここまでやって来ていたようであった。
「お、おじさん! 助けて! グールさんが変なの!」
「ああ、任せておけ」
奴は乱暴に俺の手の剣を奪う。
「……何か言い残すことは?」
「無いな。それにしても、随分と人間らしく扱ってくれるじゃあないか」
「馬鹿言え。問答無用で進めたら俺が悪者になる」
汚れ役を引き受けてる時点でお前は立派な悪役だよ。
だがそれ以上の悪である俺は、これにて退場だ。そう思えば、奴がミーアに恨まれるのなど、可愛いものなのかもしれない。
まあ、それはもうどうでもいいか――
そして、自警団野郎は俺の心臓の位置に剣を突き立て――
「ちょっと、おじさん……何やってるの? やめて! やめてよ!」
ミーアの制止も聞かずに、心臓を突き刺した。
「――グールさぁぁぁぁぁんっ!」
◇
今となってはどうでもよいことだが、あの日攻めてきたのは隣国の兵士らしい。
聞けば、この国はまた戦争を始めたんだそうだ。争いで血を流すのは、いつだって民なのである。
村の人間は俺の墓を作ってくれた。他にも犠牲者はいるのに、ありがたいことだ。
俺の墓標だけ、その辺に落ちてる大きめの石ころなのには目をつぶってやる。ありがたく思え。
――さて、俺のその後なのだが、今は土の中でおねんねしている。
死んだんじゃないのかって? 俺もそう思ったよ。だってあいつ容赦なく滅多刺しにして、その上四肢と首を切り取るんだもん。
だが結論を言えば俺は生きている。五体不満足だが、頭だけ無事ならどうにかなるらしい。グールってすげえ。
そんなわけで、気絶しているうちに死んだと思われた俺は丁重に葬られ、土葬されている。
でも顔の前を通りかかったミミズとかモグラとか喰って生きながらえてる。餓死はやだ。
そう、土葬してくれたのはいいんだけど、棺桶用意してくれなかったんだよね。完全にペット感覚だよこれ。
まあ、いいさ。この村を……ミーアを見守ることにしたんだ。
これで赦してもらえるかはわからないが、何もしないよりはいい。
ああ、そうそう。あのヒゲ隊長の肉を食ったらレベルアップしてね、幽体離脱できるようになった。
これでも地中に居ながらも外の景色を見れるって寸法ですよ。決してやましいことには使わないよ。
――ミーアはあとどれだけ生きるのだろうか。
なるべく長く生きてくれることが、俺の望みであり、彼女の親の願いでもあったはずだ。
だから、最低でも曾孫の顔までは見たいものだ。それまでは、死んでも死に切れん。
書いてから気が付きましたが、これグールっていうよりゾンビですよね。