おっこちた
「アジサイ!」
「え?」
俺の声に危機迫るものを感じてくれたのかアジサイの腕の力が緩む、が――もう遅い。
既に体のバランスは崩れて後は重量に引っ張られて山の斜面を転がり落ちるだけだ。
当然後ろに引っ張られるように首を絞められたのだから後ろに倒れようとしている。
「……チッ」
小さく舌打ち。
このまま倒れたらアジサイを下敷きにしてしまう。
俺は俺としてそれはやってはいけない。
となれば動け!
首にまわっていたアジサイの腕を掴みおもいっきり引っ張る。
小さな悲鳴が聞こえたが今は無視。すまん、アジサイ。
そのまま一気にアジサイの身体を前に持ってきて抱え込んだ。
そして、
俺とアジサイは重力に引っ張られ後ろに倒れ、山の斜面にそってゴロゴロと下に転がっていく。
木にぶつかったりなんだりで大変痛い。頭、腕、背中、脚、身体の至る所をぶつけたが、腕の中のアジサイには傷一つ付けまいとしっかり抱きしめた。
そんな時間はあっとゆうまに過ぎ去った。
すぐに、大きな木の幹に背中をおもいっきり打ち付け止まった。
息が詰まるほどの衝撃。
「…………うぅ」
あまりの激痛に呻いた。
俺の人生での痛かった思い出ベスト3に入る痛さだった。
一位は中学校の時、幼なじみでずっと好きだったこのはちゃんに告白してフラれたときの心の痛み。二位はキョウナとガチで殴り合ったときの物理的な痛み。
そして、三位がさっきのアジサイに『気持ち悪い』と言われたときの心の痛み。
俺の心はガラス細工のように繊細なのですよ。
って、あれ?
今の痛みが入ってなくね?
まぁ、いいか……。
あぁ、なんだ、アジサイがなにか言ってるようだがよく聞こえないな……。
うぅ、意識が……。
これぐらいで気絶するのか俺は……
キョウナに怒られる……




