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桃園結義異聞  作者: 胡姫
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徳然、劉備を訪ねる 2

「あら、と、徳然さん。今日はどのようなご用かしら?」

かなりばつが悪い。小香はなんでもない風を装おうと上ずった声を上げたが、全然ごまかせていない。

徳然はさわやかな笑みを小香にも向けた。

「ええ、たいした用ではないのですが、行商人から都の面白そうな書物を手に入れたので。よかったら現徳と一緒に見ようと思って。」

徳然は誰に対しても、年下の劉備に対しても美しい敬語を使う。品行方正というより杓子定規だと劉備はひそかに思っているが、長幼の序を重んじる年長者の受けはすこぶる良い。

「えっ都の。マジで。」

珍しいものが大好きな劉備の目が輝いた。

劉備の家を訪ねる時、徳然はいつも何かしら劉備の喜びそうな手土産をたずさえてくる。幼いころは男の子の好みそうな玩具や菓子、長じてからは好奇心をくすぐるような珍しい書物や品物など。

堅苦しい親戚付き合いからは全力で逃げ回っている劉備だが、この四歳年長の従兄にだけは懐いていた。というより完全に餌付けされていた。

「ええ、お菓子も持ってきましたよ。よかったら二人で、」

「あー悪い徳然、俺今から出かけるから置いといてくれ。あとで読んで返す。」

「えっ。」

「玄ちゃんまだ?俺、先に行っていい?」

簡雍、待ち切れずに劉備の袖を引っ張った。当然ながら彼は書物にも徳然にも興味はない。年長者への遠慮もない。

行く行く、と劉備の興味は完全にそれてしまった。

「待ってください、実はあなたに大事な話が、」

徳然があわてて遮ったが、「じゃ、またなー」と今度こそ劉備は、簡雍とともに一目散に駈け出して行ってしまった。


あとには小香と、お土産を抱えたまま悄然と立ち尽くす徳然が残された。

「ごめんなさいね。最近はいつもこんな感じで。」

小香もさすがに悪いと思って徳然に謝った。

実際劉備は、幼いころはともかく、最近は徳然が来ても友達を優先することが多くなっていた。そんな時、徳然は口には出さないがかなり落ち込んだ様子を見せる。

「玄徳はあんなに急いでどこへ行ったんです?」

「さあ、聞かなかったけど、張さんちの阿飛(張飛)が待ってるとか言ってたわね。」

「忠義店の張飛ですか。あの肉屋の。」

徳然は口の中で吐き捨てるようにつぶやいた。

劉備の第一の弟分、張飛。

大の劉備ファンを公言してはばからないこの少年、実家は肉屋で、結構手広く商売している。

張飛はとにかく評判が悪い。まだ十二、三歳のガキのくせに、人殺し以外の悪さはほぼやりつくしたと噂され、既に涿県きっての乱暴者として有名であった。

だがその事実を差し引いても、徳然の張飛嫌いは相当なものであった。簡雍も気に入らないが、張飛はもっと嫌いだと顔にはっきり書いてある。

だから次の言葉は、小香の予想を完全に覆すものだった。

「では私も忠義店へ行ってみます。小香おばさま、またのちほど。」

「え、徳然さん?」

次の瞬間、徳然はさっと長身をひるがえし、劉備たちの消えた方角へと消えていった。

小香は意外な思いで徳然のすらりとした後姿を見送った。徳然が劉備の友達を嫌っていることは、傍目からもはっきり分かるほどであった。これまでただの一度も、徳然が劉備の友達と行動を共にしたことはなかったのだ。

「そういえば、玄徳に話があるとか言っていたわね。そのことかしら?」

忠義店は楼桑村から10㎞ほど離れているが、若い男の足ならそう遠くはない。

ま、どこかで合流できるでしょ、と小香は深く考えないことにして、洗濯の続きにとりかかることにした。

徳然の持参した都の貴重な本は、庭先に無造作に置かれたままであった。


結論から言うと、徳然は劉備には会えなかった。

忠義店に張飛の姿はなく、もちろん劉備と簡雍の影もなく、三人は道中のどこかで落ち合って張飛の家には行かなかったものらしい。

そのことを小香は徳然でも劉備でもなく、徳然の父の劉元起から聞いた。劉備の伯父にあたる人物である。

というのも、劉元起がその日の夕刻に訪ねてきたのである。


劉備といえば三国志一の人たらし。子供のころは多分天然。徳然さんも気が気じゃないだろうな。振り回されちゃってください。

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