八十五話 一時の再会-2
ドン、ドン、ドン。
うるさい。勧誘なら他所でやってくれ。
バン、バン、バン。
しつこい。
「わーったよ」
しぶしぶ玄関口に向かう。
ボギャフ!!!
くぐもった爆発音、壊れたドアノブが足元に転がってきた。
「嘘だろ」
ああっ、大家さんに殺されるかもしれない。野宿なんて貧弱な俺には無理だ。
「――――さっさと開けなさいよ」
薄い扉が蹴破られた。突然のことに身構えてしまう。
「……あの僕は無職なので、金目のものは何も……」
「何それ? それが栄太君のなりたかった姿なの?」
長い黒髪、整った顔立ち。不格好な髪留めも、彼女が身に着けると高級品い見えるから不思議だ。
「……て、今、名前で呼んだか?」
「心配しなくても大丈夫よ。ここには私しかいないから」
寂しそうな顔だ。護衛が傍にいないから不安なのかもしれない。まぁ、馬鹿強い執事とか物騒な武装メイド長がこの場にいれば、俺はフルボッコにされていたけれど……。
「どうして来たんだよ。こんな所、お嬢様のくる所じゃないだろう?」
「私が第一ヒロインだからに決まっているじゃない」
相変わらずだな。唯我独尊というか、傍若無人というか。でも、不思議と人には嫌われないんだよな。
「第一ヒロインって何だよ」
定義が難しい。漫画やラノベの中では一巻目にでてくるヒロインのことだよな。人生における一巻ってどこの時点なんだよ。
「難しく考える必要なんてないわ。主人公つまりは栄太君が一番好きな人のことよ」
「別に、好きじゃねぇし」
そもそも俺と彼女は、住む世界が違う。俺はただの使用人くずれだし、今はただの無職だし。
「私は、好きよ」
「えっ?」
顔が少しだけ赤らんでいる。普段は絶対に見せない類の表情だ。いつもの隙のない姿もいいけれど、少し無防備な感じも中々に可愛い。
沈黙が流れる。でも、今の俺達には何らの繋がりもないんだ。元雇い主のお嬢様と元使用人の無職。
「……それにしても殺風景な部屋ね。丸まったティッシュペーパーとかエロ本とかが散乱していると思っていたのだけれど」
他人に内面を覗かれるのは気分が悪いものだ。でも、彼女にだけは知ってもらいたいという気持ちが拮抗している。二律背反。
「一人暮らしの男の部屋を家探しするなんて、相変わらず常識が通用しない奴だな」
「常識って何?」
彼女がすうっと目を細めた。