六十九話 黄昏と鬼神-5
同質の力がぶつかり合えば、より大きな力が優る。それが世界の理だろう。プルートーとノックスの関係性はただの主従関係とは少し違うのかもしれない。
ノックの剣は、淡く光っている。その光はどことなく月光に似ている。
「……ノックス君」
オレリアがつぶやく。月の牙たちは必至に援護しようとしているけど、二つも三つもランク上の戦いだ。ノックスの意識がそちらにさかれてしまっている以上マイナスにしか働いていない。弱い仲間は足手まといにしかならない。非合理的だ……。
「オレリア、他の奴は下がらせたほうがいい」
「でも、今はノックス君ーーみんなが優勢じゃないですか?」
「あれは、プルートーが遊んでいるんだ。理由まではわからない。もしかしたら、ノックスと間に絆のようなものがあるのかもしれない。ただ、それは他の連中までは及ばない」
小柄な少女ーー治癒術士が金貨をプルートーの頭上に投げ入れる。どういう仕組みか、金貨は無数に増え、降りそそぐ。あっという間にプルートーの動きを封じる。
「責苦は覚悟しておけ、ただでは殺さん。お前の根源である、人の営みを蹂躙しつくしてくれる」
少女は、恐れを必死に抑えている。プルートーは忌々しそうに金貨の山を力ずくで崩しにかかる。
「逃げろ!」
先程の一撃は悪手だった。今まで、プルートーの気まぐれで生きながらえていたのに、その均衡を崩してしまった。
勝利の可能性を考えてしまった月の牙には俺の声は届かない。全員で一斉攻撃をするつもりだ。カズキだけが、状況を冷静に判断している。その上で最悪の選択をしようとしている。
プルートーが手を振るう。その瞬間に金貨が飛びちる。今が、好機と月の牙たちが神に挑む。
プルートーが槍を地面に突き刺した。漆黒の線が地面を突き破って、拡散していく。まるで木が枝を広げていくかのような光景だ。カズキは、瞬速での移動を繰り返しいる。影から影への移動。余力がないものから救出しているためか、未だに黒枝は赤い花を咲かせてはいない。
「オレリア、絶対あれに触れるなよ」
オレリアが今にも、飛び込んでいきそうで怖い。
「……そうですね。私の役目は、栄太さんをお守りすることです。早くここから離れましょう」
下唇を噛み締めながらオレリアがそんなことを言う。心苦しい。でも、俺はオレリアの願いを叶えられそうにない。
『カズキ、お前は妾だけのものだ』
プルートーの声が、頭に重く響く。オレリアが青ざめている。呼吸も荒い。荒れ狂う厄災神の御声はもはや呪詛に他ならない。




