五十七話 黒の勇者-13
実力行使にでてもいいけど、それでは根本的な解決にならない。であるならば、正しい接し方を教えてやろうでないか。
ガブは、未だにデーブルの下に転がっている。死角になって存在自体気づかれていないようだ。おい、ガブと心の中で念じてみる。俺達くらい絆が強ければ言葉なんて不要だ。
ガブがむくりと起き上がる。ようやく腹ごなしが終わったみたいだ。キョトンとした表情で俺の顔を凝視している。
「一つ不信だな。さっきからよそ見をしている」
やべぇ、感づかれた。
「いや、アワイがやってきて事態を収拾してくれないかと思ってさ」
それらしい嘘が自然と口をついた。嘘が特になっているような気がする。それははたして成長といえるのだろうか。
「デアか。やっぱり、お前はただ運がいいだけの転生者なんだな。ただ、これは俺とその所有物の話だ。例え姫様だってこの件については関与できない」
「はぁ~っ。さっきから何だよフェンは誰の所有物でもないだろう。ソールの家族それ以外の何物でもない。あれか他人のものがほしくなっちゃうお子様なのか」
「一つ、半殺しだ」
「お前なんかに負けねぇよ、三下。完全にお前やられ役だろう」
売り言葉に買い言葉。客観的に分析すれば大人気ないのは俺のほうだろう。血気盛んな年下と同じ土俵に立つなんて社会人失格だ。もっと、力が全てではない、もっとスマートな解決方法いくらでもあるだろう。
完全に相手は頭に血が昇っている。すぐにでも殴りかかってこないのは俺のことを警戒しているんだろう。最低限の理性は残す。まあ、兵士としては及打点か。
俺達の間でフェンが困った様子で右往左往している。えっと、ガブ君はと……。え? ガブ物陰に隠れながら隠密行動している。俺からは丸見えだけど、あちらからは見えていないらしい。さすがは、蜥蜴の中で育っただけのことはある。無音での爬虫類じみた動きで徐々に間合いをつめている。でもさ、ガブ君それ俺の作戦と違うんだけれど……。
ガブが突然俺の前に現れる。そして、嬉しそうに俺にじゃれてくる。
『拘束具なんかなくたって、種族の壁を乗り越えて仲良くできるんだ。こんな愛くるしいガブが物だって、ばかいちゃいけないよ』
『……俺が間違っていました。ただ、俺はソールが羨ましかったんです。あんなモフモフしがいがあるオビーグルと家族だから……』
超平和的な解決方法だろう。そんなことで改心しなことくらわかっているけどさ。可能性はゼロじゃない。
ガブはメルヘン頭の無職な俺よりもだいぶリアリストだったみたいだ。
「いてぇーーー!!」
金髪が吠えた。ガブは突き立てた牙を早々に引き抜く。ズボンの上からだしそんなに重症ではないと思うけど、完全にこれ敵対行動とみなされるだろう。まあ、このピリついた空気の中では叱れないけども。作戦変更だ。もっと、原始的な方法で行こうじゃないか。
「早く血清を打たないと、全身火だるまだぞ。ガブは歯磨きが嫌いだからな。お口が雑菌だらけなんだよ」
実際、ガブの体温は高いので雑菌が繁殖はしていなだろうし、何よりガブは俺なんかよりよっぽど綺麗好きだ。
「ギィー、ギィー」
「そんな怒るなよ」
ガブはご機嫌ななめのようだ。バサバサと羽ばたいてフェンの近くに着地する。
「ギィ~、ギィー、▽×〇!¥:*+ギギーーーーー」
「フム、フム。エイタ、ガブガコンゴノミノフリカタヲカンガエタイテイッテイル」
怒りが収まらないのか。ガブの口からチョロチョロと火が漏れている。