五十二話 黒の勇者-8
「ええっ、その……そういった経験もありませんが、知識はありますので……」
「そうか。じゃ、遠慮なく行かせてもらう」
合意も得たことだし、そっとか彼女の腰に手を伸ばす。俺だって犬耳少女とは初体験だ。
「ふぇっ!? 栄太さん、そこはダメです!」
「ごめん我慢できない」
「そんな……だったらもう少しだけ優しくして下さい」
優しくか。俺も勉強不足だな。犬萌の道は長く険しいらしい。
「主様!!!」
声と同時に脇腹に衝撃が走る。
「……アワイ、ガブ」
ガブが空中で旋回して、また俺に激突しようとしている。ガブは大きくなっていて中型犬くらいの体格だ。
どうやら嬉しさ故の行動みたいだけど、ぶつかられるほうはたまったものじゃない。オレリアが怪我をしたら大変だ。オレリアを庇うように後ろに下がらせる。
「主様、これはどういった状況でございましょうか」
アワイの表情がみるみる内に険しくなっている。じと目が物凄く恐い。
「……顔を赤らめた犬耳少女。挙動不審な主様……」
「デア様、誤解です。私と栄太さんの間に疚しいことなんて一つもーー」
「ガブはどう思いますか?」
ガブはきょとんとしている。一刻も早く俺に体当たりをしたいようでバサバサと羽を動かして滞空している。
「そうですか。ガブもそう思いますか。主様は滾らせた性欲を少女にぶつけてしまった」
「そんなわけないだろう! オレリアからも説明してくれーーて、えっ?」
オレリアが俯いて、顔を赤くしている。そんな態度をしたらますます誤解が解けなくなる。
「主様、ちゃんと責任をお取り下さいませ。その子はシュルーク様の娘みたいなものですから。対応を間違えば大問題に発展します」
「……グスン、誰も僕を信じてくれない。どうせこんなお咎めを受けるならもっと堪能しておけばよかった」
涙がでそうだ。部屋の隅で体育座りをしていじけたていたい。それを見かねたガブがゆっくりこちらに飛んでくる。
精神を安定させるためには代替え品が必要だ。