四十一話 太陽と月の邂逅-20
「今日は、よくぞ集まってくれた。私は、バリーク第三王女ヒラールだ。さっそくだが、本試験の概要を説明したいと思うーー」
ヒラール姫直々に試験内容の説明が始まった。学科試験は行われない。4、5人のグループにわかれて演習が行われる。演習内容はランダムで、直接的な模擬戦や遺跡探索なんてものもあるらしい。
さすがは、国王軍入隊試験だ。強ければ即入隊できるというわけではないのだ。個の力よりも群の力が優先される。異界守とは大違いだ。さすがに、後方支援や事務方は統制がとれていて組織だった動きをしていたけど、前線にでる異界守は基本ワンマンプレーだ。チームワークなんてものはなくて、ユニットを組んだ相手だって平気で見捨てる。上位になればなるほどその傾向が顕著だった。そんなんだから、後手に回るんだ。かく言う俺も集団行動は苦手だ。集団面接やグループワークを用いた入社試験を突破したことは一度もない。
ヒラール姫が演習内容について説明を続けている。遺跡に眠る陽光の剣、砂漠に潜む魔獣の話など。時折、興味深い単語が聞こえてくるが、話が進むにつれて気もそぞろになって行く。朝礼における校長の話が苦行だとぼやいていたクラスメイトの気持ちがようやく分かった。一般人の先達から話を聞く機会がなかった俺にしてみれば、校長の話は新鮮に聞こえたものだ。ヒラール姫の説明は、一般兵士枠の説明で俺とは直接関係ないわけで……。早く精鋭部隊ーー月の牙について説明してほしい。
自然と視線が宙を彷徨う。それにしても色々な奴がいるんだな。ソールの姿は見えないけど、フェンリルが一緒なら嫌でも目立つはずだけどな。ううん? あれは、最善列で見覚えのあるツインテールが揺れている。大柄の男たちに挟まれた女子高生。かなり場違いだ。まあ、あの服装は異界守の正装だから間違ってはいないけど。さすがは女子高生、お洒落に着こなしてらっしゃる。下はズボンじゃなくてスカート、レギンスで素肌を隠している。……何故、凛はあの装束を身に着けているんだ? あれは害魔を討伐時に着るものだ。いやな予感がする。
「ーー説明は以上だ。疑問があれば遠慮なく聞いてもらいたい。以後の個別質問は一切受け付けない」
結局、月の牙への入隊条件は述べられていない。例年、最優秀の者が入隊しているらしいから、外部には情報を流さないのかもしれない。あくまでも、スカウトの形をとる。そのほうが意に沿わない者を事前に弾くことはできるけど……。この場での質疑以外には答えないらしいし、ここは意を決して手を挙げたほうがいいだろうか。もしかしたら、既に試験は始まっているのかもしれないしな。
「はい」
迷いがでてしまい、声が掠れてしまった。だけど、真っすぐ挙手することには成功した。さすがに周りの連中は俺の蛮行に気づいている。
「質問いいですか」
凛とした声が静寂を突き破った。先を越された。二番手以降は評価されないかもしれない。
「精霊越しに話すのも変だし、直接そちらに出向きますね」
「おい、凛!」
複数の視線が俺に突き刺さる。そんな些末なことはどうでもいい。列から抜け、人をかき分けながら最前列の凛の元へ向かう。
「あれれ、お兄ちゃん。奇遇だね。半日ぶりだ」
「正確には、10時間と37分ぶりだけどな」
「シスコンこわっ! 私は久しぶりに恐怖を感じるよ」
「世の兄には妹時計っていうものが標準装備されているんだ。もちろん姉時計もな」
「お兄ちゃんて、中々に狂っているねーー」
凛に目配せして、話を続ける。ヒラール姫は無表情でこちらの様子を窺っている。従者の黒髪は表面上は平素を装っているが、戦闘準備は整っているな。それに、無視できない気配が複数。
どれも中々の圧だ。一番やばいのは明確な殺気をはなっているあいつか。黒髪に気を払いつつ、様子を窺う。