三十八話 太陽と月の邂逅-17
「ここにくるまで色々とあってさ」
「本当にお兄ちゃんは弱体化したね。お姉ちゃんは、あの人に感謝しているみたいだけど。私は、嫌いだったよ、あの人のこと」
「あの人?」
「やっぱり覚えていないんだ。あの人は自分の正義を振りかざしてお兄ちゃんを劣化させた。で、用済みになったら切り捨てた。野良犬になったお兄ちゃんは行き場をなくしてニート化、そのせいで私達の戦力は著しく低下して今に至るわけだよ」
俺は顔も思いだせない誰かに利用されていたってことか。無職だったのも彼女せい……それは、違うよな。単に俺に社会に適応する能力がなかっただけのことだ。どうしてだろう。俺は彼女のことを悪く思えない。
「まあ、ちょうど良い機会かもね。今のお兄ちゃんの実力は全盛期の足元にも及ばない。少しずつでも感を取り戻していかないと、任務が遂行できない。あんな三下の魔剣に苦戦するようじゃ話にならないよ」
「アナラビは結構強かったと思うけどな。現に、凛だって苦戦していたじゃないか」
「ああっ、あれは相性の問題だよ。いくら堕たとはいえ、元は光の眷属だからね」
俺達にも属性なんてものがあるのだろうか。アワイは水で、ガブは火。俺は何だろう。無属性かな。
「そうだ、凛。気になってたんだけど、どうしてアナラビと戦っていたんだ?」
「気づいたら異世界にいて、さすがの私も混乱したよ。お兄ちゃんもお姉ちゃんも近くにいないし、心細くて何かすがるものが欲しかった。丸腰って不安だからね。そしたら、魔剣をくれるイベントが発生したわけです。これは私のためのイベントだって確信したね。ぱぱっと、剣を引き抜いて、勇者になってやろう、そう思って列に並んだわけです。そして、前のモブたちが脱落していくのを生暖かい視線で見送りました。あと一人、その時です。私の前のモブが剣を引き抜いたのは……。何この番狂わせ、文句を言いたい気持ちを必死に抑えていると、力に飲まれたモブが私に襲いかかってきました。こんな感じかな」
さすがは俺の妹だ。行動パターンが同じだ。俺もアナラビを手に入れようとしていたわけだしな。
「これからお兄ちゃんは何をする気なの?」
「バリーク国王軍の入隊試験を受ける。しかも、精鋭部隊に入らなければならない。方法がまた暴力的で、最強の兵士と戦って勝たなければいけないんだ。全く胃に穴が空きそうだよ」
「精鋭部隊って、ヒラール姫直属の月の牙のことでしょう。しかも、そこの最強は黒の勇者って呼ばれている転生者だったはずだよ。今のお兄ちゃんじゃ苦戦するかもね」
「へ~えっ、黒の勇者ってカッコいいな。サインでももらおうかな。ははっ、完全に俺が敵役だよね」
何か笑える。そんな高い壁を攻略できる気がしない。
「きっと、女神とかからチートな能力を授かっているだろうしね。下手したら瞬殺されるよ、劣化お兄ちゃん。でも、これくらい切羽詰まっていたほうが荒療治にはなるかもね。さてと、そろそろ私は行くね」
「どこに行くんだ? せっかく会えたのに」
通信端末なんて無いんだ。一度離れたら、再会は難しいかもしれない。
「一緒に動くより、別行動したほうがいいよ。大丈夫、あの人と違って私はお兄ちゃんを見捨てたりしないから。そうだ一つだけ忠告しておくよ。あんまり害魔に肩入れしないほうが良いよ。使い捨ての道具くらいに考えるのが妥当だよ」
「害魔って、アワイやガブのことを言っているのか?」
心がざわつく。アワイやガブのことを否定されたような気がして、心がチクりと痛む。深く考えると凛に対して負の感情を抱いてしまいそうで怖い。
「昔のお兄ちゃんなら、そんなこと絶対に言わなかった。私は何があっても味方だからーー」
そう言い残して、凛は部屋を出て行った。
幼く無垢だった凛しか思い出せない俺は、今の凛に違和感を覚える。それは俺の不甲斐なさの表れでもあるのだけれど……。




