三十五話 太陽と月の邂逅-14
あれ? 俺は何をしていたんだっけ。ーーそうだ凛を幼稚園に迎えにきたんだ。俺は歩きで行くつもりだったのに、姉ちゃんが無理やり俺を自慢の愛車ーー赤色のオープンカーに押し込んだ。
「凛がイジメにあったら姉ちゃんのせいだからな」
片手でハンドルを操作している姉ちゃんに文句を言ってみる。たぶん、無駄だろうけど。
「純粋無垢なお子様はそんな陰湿なことしないわよ。せいぜい玩具を取り合うくらいよ」
「そうなんだ……。同年代が集まるとまず格付けが行われるもんじゃないのか」
「もしかして、学校で何かしでかした?」
「転校生とか言われたから、拳で俺の生き様を語ってやった。何故だか、その後空気のように扱われている」
「栄太の学生生活も前途多難ね」
「学校に通うわけがわからないね。俺より強い奴なんていないわけだし、あいつらじゃ、凛にだって勝てやしない」
「ははっ、お姉ちゃんは栄太の将来が不安でしかたないわ」
「あと一年もしない内に一桁に入ってやるよ」
「……その話はまたあとでしましょう。ほら、そろそろ着くわよ」
幼稚園の正門に保護者が集まっている。もう、お迎えの時間なのだ。一分だって凛に寂しい思いはさせたくない。姉ちゃんを駐車場に残して、正門をくぐった。
「……おにいさま」
凛がしっかりした足取りで俺に駆け寄ってくる。まわりの子供と比べるとだいぶ落ち着いた雰囲気を醸し出している。さすがは姉ちゃんの妹だ。
「凛、お帰り」
「ただいまー」
凛と手を繋いで、帰路に就こうとすると、幼稚園教諭が話しかけてきた。
「凛ちゃんのお兄さんーー栄太君だったかな。一人で迎えにきたの?」
二十代前半、まだ若い女教諭。どうやら俺に不満があるようだ。
「姉と一緒に来ました」
「そっか。栄太君はたしか中学生だよね。学校はどうしたの?」
面倒くさい。俺が籍を置いている中学校は出席日数が少なくても卒業できる。害魔と一戦を交えた後で、茶番に付き合うほど俺はバカじゃない。
無視しよう。
「こら、栄太! 挨拶はきちんとしなさいって言っているでしょう。すいません、この子人見知りで。きっと、しおり先生が美人だから緊張してしまっているんですよ」
「おい、姉ちゃん。いくら何でもその妄言は看過できないぞ」
「おねえさまー」
凛が姉ちゃんに抱っこをせがむ。
「はいはい。ちょっと待ってね。しおり先生、今日は栄太には家業を手伝ってもらっていたんです。だから、この子が不登校てことではないので誤解がないようお願いします」
「そうですか。すいません。差し出がましいことを言ってしまって」
「しおりせんせい、またあした」
凛がバイバイと手を振った。
「またね、凛ちゃん」
駐車場に向かう間、複数の視線を感じた。金髪碧眼の美女に、凛とした美幼女。おまけに目付きの悪い中坊。この組み合わせが一般人には奇異に映るらしい。