三十四話 太陽と月の邂逅-13
「あのさ、凛ーー」
「……お兄ちゃんはそんな声が高くないし。それにもっと落ちつきはらった大人だもん。同じ黒髪で、顔が少し似ているけど、絶対他人の空似!」
ああ、やっと実感が湧いてきた。俺はちゃんと守れたんだ。そう考えたら緊張の糸が切れてしまったみたいだ。膝がガクガクと震え始めた。
頭がズキズキと痛む。やっぱり、負荷がかかり過ぎたみたいだ。凛に心配はかけられない。早く一人になってぶっ倒れよう。
「偽物だって構わないさ。凛ーー神代さんが無事だったんなら俺はそれでいい」
「ちょっと、大丈夫。もしかして、どこか怪我している?」
凛が心配そうに俺をのぞき込んでくる。初めてかもしれない、記憶を失くしてしまったのを恨めしく思うのは……。俺の中の凛は幼いままだ。ここまで成長する間に様々なことを経験してきたはずだ。俺はその過程を忘却している。本当に、兄貴失格だな。
「何で、そんなになってまで私を助けてくれたの?」
「困っている妹……女子高生がいたら助けるのは社会人の義務だろう」
「何それ。だってお兄ちゃんは私のこと遠ざけていたじゃない。影ながら見守るとかそんなのただの一人善がりなんだからね!」
凛が急に口調を強めた。あれ? 今、お兄ちゃんって言ったか。
「今までの言動は忘れてよね。お兄ちゃんってわからなかったんだからノーカンだよノーカン」
「凛って、気持ちが昂ると語尾が可愛くなるよにゃ」
「むぅー。あれはただのキャラずけですー。とにかく忘れろにゃ!」
凛がポカポカと俺を叩いてくる。ああ、もっと話していたい。だけど、そろそろ限界だ。
「で、どうしてお兄ちゃんは若返っているの? 就職活動に失敗し過ぎたから、高校からやりなおすぜみたいな感じ? 妹として苦言をていするけど、それはただの愚行だよ。一般社会の評価なんて些末なことだよ。兄としては及第点だったよ。優しいし、強いし。まって、今は私のほうが年上なんだから。あんなことや、こんなことが合法でできちゃうわけ。ヤバい、ヤバすぎる。取り合えず、壁ドンしてよ、壁ドンーー」
凛が嬉しそうに話を続けている。最後まで聞いていたいけど……。
「ーーお兄ちゃん、お兄ちゃん!」
柔らかい。凛が俺を抱きとめてくれたみたいだ。兄の威厳はどこえやら。凛の声が遠く聞こえる。指一本すら動かせない。でも、達成感に包まれて意識を手放すのは悪くないな。




