二十七話 太陽と月の邂逅-5
「おやっさん、これ借りるぞ」
「気持はわかるが、やめておけ。素人がかなう相手じゃない」
眩い光剣は凛に執着しているわけではないようだ。どちらかと言えば、使用者の微かに残った自我が作用しているようだ。
せっかく力を手に入れたんだ。その力を振るいたい。強い奴に打ち勝ちたい。そんな気持ちがひしひしと伝わってくる。
安易に分不相応な力を求めた代償。見たところまだ、二十代前半の若者だ。虚ろな瞳で凛を見つめ、薄気味悪い笑みを浮かべている。力を欲した理由も忘れて、ただ力を振るう傀儡。
哀れだとは思わない。それにどんな大義名分があろうが関係ない。俺はこいつを狩る。それだけのことだ。
借り受けた片手剣は全く手に馴染まない。イライラするな。記憶が徐々に洩れ出してきているが、まだ大部分が靄に包まれている。こんな補助具を使うのはいつ以来だろう。そんなことを考えるが、虫食いだらけの記憶のせいでその前回を思い出せない。
歯痒いな。敵を真似で剣を構える。凛の身体捌きをイメージしながら、一歩を踏み出す。凛のスピードにはだいぶ劣るが二秒程で敵の間合いに到達できた。
死角からの斬撃がアナラビに弾かれた。追撃はなく、凛に視線を定めたままだ。反応速度から、アナラビが完全に主導権を握っているとあたりをつける。最悪、使い手の息の根を止めても動き続けるかもしれない。
自身の出自も忘れてそんなことをすれば、結局のところ消滅は免れないと思うが、崩壊速度が分らない以上、それは愚策だろう。力で押し切るか。それにしても、眩しい。サングラスがほしいな。
ただの光る剣なら目を瞑って戦えばいいだけの話だが……。それはただの副次的な効果に過ぎない。アナラビの本質は破魔にこそある。
闇を打ち祓う聖剣。特質している性能は、『半自動補助』と『常時型防御膜』。前者は機能していないが、後者は正常運転しているようだ。
結局、アナラビ本体を破壊しなければ動きを止められない。
片手剣を上段で構える。
アナラビは俺の行動を敵対行為と認識したらしい。こちらに向かって突進してきた。
「輝き舞え、光明よ!」
アナラビと片手剣がぶっかる寸前で、声を張り上げた。
アナラビの動作が鈍った瞬間に力を弱めて、後方に身を引く。バランスを崩した傀儡目掛けて左足を突き出す。
命中直前で不可視の壁に阻まれる。硬い岩石を蹴り飛ばしたような感覚だ。左足がジンジンと痛む。間髪入れずに、後方に跳ぶ。
間合いから離脱し、10m程距離をとる。
視界がチカチカする。目を凝らして相手の様子を探る。アナラビはカタカタと揺れ動いている。見方によっては震えているようにも見える。
それが、恐怖か歓喜よるものなのか俺には判別できない。