二十三話 太陽と月の邂逅-1
活気で溢れるバザールの喧噪が遠くに聞こえる。人気のない裏路地で俺とガブは意見交換に興じている。
人はいずれ死ぬ。そんなことはわかりきっている。それが今か、先になるのかそれだけの違いだ。
自分だけが、特別に死に嫌われているなんてことはあり得ない。そのことが当たり前だと思えるくらいには歳を重ねている。
でも、失った記憶の期間を差し引けば、まだ、自分が特別だって思ったておかしくはないんじゃないか。
そうだ。俺は異世界求職者。きっと、まだ接触もしてこない超絶美しい女神に愛されているに違いない。できれば、入隊試験が始まる前にチュートリアルが始まってほしい。
そうすればご都合主義で生き抜けるはずだ。
「ガブ君、僕の生存確率は如何ほどだと思う?」
「…………」
ガブが怠そうに二対の羽をパタパタと動かした。
「二割か。五回に一回は生き残れるか。ははっ、それだと、ほぼ死ぬよね」
思わず笑ってしまう。
二割の勝率で戦に挑める奴って、すごいよな。不死身の吸血鬼とか、死んだら時間が巻きもどるとか。蘇生すら可能にする凄腕回復職の仲間がいるとかだったら話は別だけど……。
普通、死んだらそこで終わりだ。でも、アニメや漫画の中にはそんな特別な背景がないにも関わらず、死闘に飛び込む主人公もいるよな。
『僕はただの、凡人だけど、大好きな君を守るためなら世界とだって戦える!』
深夜アニメで就活の傷心を癒しているとそんなセリフが耳に飛び込んできたことがある。あれはたしか、世界系のロボットものだったかな。
その時の俺は、感動して心を熱くして、原作の小説もを即購入したくらいだ。
だけど、実際に非日常に足を踏み入れた今となっては『君は凡人じゃない』そう説教してやりたい気分だ。
誰かのために命を投げ出せるなんてすげぇ才能だよ。それ一つあれば主人公になれる。そう言えば、あのアニメ続編が放送されるんだったな……。
「よし、そろそろ腹を括ろう」
間の抜けた欠伸でガブが返事をする。ガブと俺の温度差は明白だ。
とりあえず、ヒラール姫から貰った軍資金で装備を整えよう。目利きに自信はないけど、とんでもない武器と巡り合えるかもしれない。
意志を保有した武器とか。昔の英雄が愛用していた魔剣とかが、叩き売りされているかもしれない。地面に突き刺さった誰にも抜けない聖剣を俺が引き抜けるかもしれない。
追われている少女を助けて、人型巨大兵器とかに搭乗できるかもしれない。俺の担当の女神は人見知りで、陰から見守るスタンスなのかもしれない。
これだけ英気を養えば、何とかなるだろう。
「ガブ、行くぞ!」
「…………ZZZ」
「しょうがない奴だな」
ガブを持ち上げて脇にかかえる。いざ、バザールへ!