フェンリルの思いで-2
「やっときたか」
リーダー格のコルヌを筆頭に他の兄弟たちも集まっていた。
「今日は、どうしたの?」
「フェンリル、お前は村の常人種のことをどう思う?」
コルヌが重苦しく聞いてきた。
「どうって……。ソールはいい子だよ。優しいし、僕の大切な家族だよ」
「太陽の子以外はどうだ? 俺たちが仕えるのに相応しいだけの格を備えていると思うか?」
「……そんなこと聞かれてもわからないよ。僕は別にソールに仕えているわけじゃないし、それに他の村人とは上手く話せないから」
ソールのお父さんに話しかけてみたことがあるけど、煩いって怒られただけだった。
「我々と意思疎通することもできず。使役術で無理やりに従える。そんな連中に従う意味があるのか」
コルヌの言葉に他の兄弟たちが賛同した。
「俺達の先祖は太陽神に仕えていたんだ。だとすれば、太陽の加護を受けるあの小僧と共に歩むべきだ」
カウダがそんなことを僕に言ってきた。
「もし、それが叶わないなら我々はあの村とは縁を切る」
僕は何も言えず、ソールへの伝言を強引に頼まれて帰路についた。
その後、何日もソールにそのことを言えずにいた。ソールが面倒ごとに巻き込まれるは嫌だったからどうにか自力で解決しようとしたんだけど、僕は何もできずにいた。
毎日のようにカウダに催促されて僕は疲れ果てていた。そんな様子を訝しがったソールは、僕に内緒で神狼の森に出向いてしまった。後でカウダに聞いた話だとソールはお母さんと直接話をつけたらしい。
そして、シャムス族と神狼のあり方を見直すことを約束して生還した。そのことで兄弟たちも一応は納得してくれた。
こうして、選抜試験は予定通り執り行われるようになった。ソールの功績を知る由もない村の大人たちは、部族初の転生者に期待の眼差しを向けていたけど……。
『転生者は世界に穿たれた楔』だって、お母さんが言っていたのを鮮明に覚えている。あれは、選抜試験の時だ。
ソールは受ける必要がないのに試験を受けた。その理由は、転生者に劣っていないことを証明するためだった。
黒髪のあの子は、目立たない少年だった。このことは誰にも言っていないんだけど、ソールよりも前にあの子は僕を助けようとしてくれたんだ。
何回かこっそりご飯をくれた。なんでも、僕はビーグル? とかいう生き物に似ていて懐かしくなるんだって言っていた。
そういえば、栄太も僕のことをお化けビーグルて呼んでいたような気がする。……お化けビーグルって何?
あの時の僕は頭が悪かったから、子供はみんな優しくて、ご飯をくれるんだって思い込んでしまった。だから、一生懸命尻尾を振って、他の子供たちに近づいた。そしたら蹴られて、石をぶつけられた。
結果的にソールに助けられた僕だけど、少なからずあの子に恩義を感じていた。もう一回出会ったらお礼をしようと考えていたんだけど……。
でも、あの子は、ソールや僕たち神狼族とは相容れない存在だったんだ。
選抜試験当日、あの子は年上の受験者を圧倒した。僕とソールが力を合わせても、手も足も尻尾もでなかった。
ソールは悔しがっていたけど、お母さんを含めた神狼族はソールのほうが優れていると評価を下していた。
選抜試験の本質は力をみせつけることではなくて、僕らの力をどれだけ引き出せるかどうかにあったからだ。
だけど、村の大人たちはあの子の強さを褒めたたえていた。部族長は侮蔑の表情をソールと僕に向けていた。
僕たちを必要としない転生者の出現。その出来事がシャムスの神獣使いの存在意義を揺るがして、シャムス族と神狼の関係を悪化させてしまった。
まだ、この頃の僕らはあんな事が起こるなんて夢にも思っていなかったんだ。
破滅の向こう側。今のソールは真っ暗な道を進んでいる。僕はどこまでもついて行くつもりだけど……。
もしかしたら栄太なら、ソールのことを救ってくれるかもしれない。そんな小さな希望を抱いてしまった僕は忠狼失格だろうか。