二十一話 入隊試験-13
「嘘、嘘、嘘だろう。そんなの無理に決まっているだろ!」
声を荒げてしまった。せっかくヒラール姫に貰った軍資金を携えてバザールに繰り出そうと考えていたのに……。気分が一気にふさぎ込む。 アワイがいなければ俺はただの無職に過ぎない。入隊試験なんてパスできるわけがない。
「お気を確かにお持ち下さいませ、主様」
「アワイさん、僕はもう無理だよ」
ぼんやりと外の景色を眺める。あてがわれた客室からはバリークの街並みが一望できる。少し前まで異国情緒溢れる街並みに心を躍らせていたのに、今では引きこもっていたい気分で一杯だ。
「私がいなくても主様なら合格が可能でございますよ」
「アワイさん、僕は就職試験というものに合格したことがないんだ。人は僕のことを無職と呼ぶ」
「大丈夫でございまよ。ガブが同行するのですから、万が一にも不合格の烙印を押されることはありません」
寝台の上で丸くなって、スヤスヤと寝息を立てているガブに視線を移す。ガブは食事の時以外眠っている。とても役に立つとは思えないけどな。
「他の入隊志望者の中に竜種を駈る者はいないと断言できます。しかも、その中でも希少である火竜。どれだけしくじっても入隊は可能でございましょう」
少しだけ希望が湧いてきたな。そうだ。募集枠が若干名とかではあるまい。希望者の半数以上が合格とかかもしれない。それならさすがに大丈夫だろう。
「よし、頑張ろう。アワイ、応援してくれ。俺は内定を勝ち取ってみせる!」
「その勢でございます、主様。それでは少しでも生存率を上げるための作戦会議をいたしましょう」
うん、生存率?
「何か聞き間違えかもしれないけど、不穏な単語が聞こえたんだけれど……」
「気のせいでございますよ。さぁ、準備を始めましょう」
アワイが微笑む。寒気がする。ガブを湯たんぽ代わりに狸寝入りをしたい気分だ。
「たしかに、アワイの言うことには一理あるかもな。どんな簡単な試験でも慢心するのは良くないな」
「簡単な試験とは?」
「……これから僕が挑む試験のことだけど。だって、さっき、アワイさんはガブがいれば入隊はかたいって……」
「それは一兵卒として入隊することについてでございます。主様に課せられた試練は、国王軍に入隊することではございません」
「意味不明だよ、アワイさん。だって、ヒラール姫は入隊試験を受けろって僕に言ったんだよ」
「シュルーク様に匹敵する程の格を証明してみせろとも言っていたはずにございます」
「……」
そんなニュアンスのことを言っていたような気もするな。
「その言葉が意味するのは、ヒラール姫直属の精鋭部隊に入隊してみせろということにございます」
「精鋭部隊って狭き門じゃないのか?」
「そうでございますね。故に、事前の対策が必要なのでございます」
一気にテンションが落ちてきた。