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無職が始める異世界争乱記  作者: 六輝ガラン
争乱1 巨悪竜の砂漠、インシジャーム
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百五十一話 魔砂漠の決戦-27

 特大の精神攻撃。自我がブレにブレる。

 俺は、精神感応系攻撃に対する耐性が低いのだと改めて認識させられる。

 あんなリアルな幻想に囚われ続けたら、自己を保てる自信かない。


 巨悪竜は弱体化している――纏っていた重みが一枚、また、一枚と剥がれていく。

 巻き戻し、時間遡行。凛血石の本質は、回復ではなくて時間回帰だった……。


 答えは、否だ。凛は、俺や姉ちゃんの死を拒絶している。それが、回復という効果で現れる。

 ――その本質は、想いに起因する事象の改変。


 きっと、ヒラール姫の強い想いが……。ソールは、静止している。

 今まで、上層し続けていたものが、突然、打ち止めになった。その反動に戸惑っているのかもしれない。

 だが、ソールは未だに太陽神の力を色濃く残している。


 神化進行が抑制された。結果的に、失敗か成功か微妙な所だ。


 「神代栄太」

 ぽつりと自分の名前を呟く。少しだけ違和感を感じる。まあ、自分の名前を名乗る機会なんてあまりないのだから致し方ない。

 姉ちゃんに凛、アワイ、ヒジリそしてガブ。順に家族の顔を思い返す。大丈夫だ。しっかりと、覚えている。



 ガブに目を向ける。灼熱に耐えきれなくなった鱗が剥がれ落ちる。その様は線香花火の終わり際を連想させる。

 ガブの上昇は、止まらない。俺が力を循環させなくても、自前の力で微弱ではあるが変化し続けている。


 一定のラインを越えてしまったのだ。早く、何とかしないと手遅れになる。



 ――オニキスのような瞳が俺を見据えている。


 さっさと、終わらせよう。今なら、一撃で楽にしてやれる。

 ……? よく考えろ、巨悪竜は害悪だろう。こいつのせいで、ガブやソールが変質しようとしている。

 オレリアやヒラール姫の暮らすバリークが危険に晒された。


 家族や仲間が被害を被った。それに、こいつは黒神とやらが残した負の遺産で……。世界の平穏を食い破る化物なんだ。

 そもそも、こいつは俺のことが嫌いで、一度だって……。


 藪蛇だ。完全に毒されてしまった。垣間見たのは、ほんの一場面だ。そこに至る経緯や、その後の結末を俺は知らない。

 それなのに、勝手にイメージしてしまう。見知らぬ世界に思いを馳せてしまう。


 どれだけ、理論整然と理由を連ねても、心が否定してしまう。堂々巡りだ。



 地面に横たわる黄金の物体。バラバラになって、もう判読できない。

 胸が締め付けられる。罪悪感がこみあげる。


 他人ごとなのに、俺には関係ないのに……。


「チビ助、お前はどうしたい?」

 無意識に言葉が漏れた。誰かに押し付けられた役目――約束。それでも、果さなければと心がざわめく。

 

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