百四十七話 魔砂漠の決戦-23
私は、どうすれば良い。 こんな状況で、一体何ができるというのだ。
「ヒラール様、私は……」」
オレリアが歯痒そうに戦場に目を向ける。
アワイが展開する水の防壁越しに見る世界は、まるで異世界だ。
眩い光を纏うソールと炎をまき散らす神代栄太。
あの二人ならば、巨悪竜を打ち滅ぼせるのではと考えてしまう。
「ヒジリ、一瞬たりとも気を緩めることは許されないのでございますよ」
アワイが翼人種の少女――たしかヒジリといったか――を鼓舞している。
「アウッ」
ヒジリは、辛そうな表情をしている。二人は、神代栄太を繋ぎ止める命綱だ。
あれだけの力を体現していながら何らの代償がないわけがない……。
――それははソールにも当てはまる。人が神に至れば、戻れない。
初代の太陽神がそうであったように……。一度、砕かれた人間性は二度と戻らない。
ソールを助けるために、ここまでやってきたのに私は……。
「ヒラール姫、前を向きなさい。我が主――栄太様が危険を冒している、その意味がわからないアナタではないでしょう」
神代栄太は、ソールを助けるために身を削っていることは明白だ。薄紅色の宝玉をぎゅっと握りしめる。
託された宝玉。これがあればソールを救えるのだろうか。脈打つような力の波動を感じるが使い方は不明だ。
簡易的に強力な防壁を張るただけの代物ではあるまい。
「しかし、あれだね。この状況下では下手に動けない。勝手に動けば紙一重の均衡を崩しかねない」
ノックスが弱音を吐くところなど初めて目にした。転生者ですら及ばない戦場など、もはや神代の戦いだろう。
それにしても……。巨悪竜の動きが変化している。標的をソールから、神代栄太に完全に移している。
より脅威度が高いほうを攻撃する。一応の筋は通るが……巨悪竜と太陽神はある意味で対の存在だ。
叙事詩や伝承、古い記録文献を紐解けば、それは如実に確認できる。もしかすれば、神代栄太は……。
チャリン。
ん? 聞き間違いだろうか。
『――様』
「姫様ーーーー!!!」
いや、聞き間違いではない。
チャリン、チャリンチャリン。
後方の水壁を突き抜けて、金貨が舞い込んできた。
金貨だけではない。銀貨に銅貨。他国の硬貨や貴金属品が次々に飛び込んでくる。
そうして、出来上がった即席の宝山に舞い降り立ったのは――。




