百四十四話 魔砂漠の決戦-20
『どうしてコルヌを選ばない?』
銀色の大狼は、三つの尻尾を揺らしてながら問うた。隣に立つ黒毛の狼が力を誇示するように吠えた。
まさに、一触触発。返答次第では、噛み殺されてもおかしくはない。
『俺は、フェンリルを選ぶ。だって、フェンは俺の――』
緋色髪の少年は、震えながら。それでも、一点の曇りもなく言い放つ。
『どうして、ソールなんだ。一番優秀なのはノックスだろうが。一つおかしい。二つ理解できない。……三つどうして俺達は選ばれない?』
取り囲むように群がる子供たち。誰かが小石を投げつけた。それを皮切りに、子供たちが暴力に転じる。
無抵抗でサンドバッグ状態の子犬を救ったのは、黒髪の少年だ。
そして、少年は問う――。
『僕が逃がしてあげるよ。ソールじゃ、君を守れないだろう?』
短い尻尾をピンと立てながら、子犬はそそくさと距離を取って少年を見つめる。
『ア…リガ…ト、デモ、ボクハ、チカク…ニイル。ソールハ――』
垂れ耳の子犬は、迷うことなく告げる。
『『家族だから』』
「純血種でもない駄犬が惨めにあがくな。俺は太陽神だからな、もっと優秀な……」
ソールが言葉に詰まった。劣化神眼なんて使わなくてもわかる。
「ソール!!!」
フェンリルが突進する。
ドンっと鈍い音がした。
今までよりも遠くに飛ばされたフェンリルは、身体を動かそうとしない。
いや、ピクリとも動かない。
「…………フェン?」
ソールの呼びかけにも全く反応しない。
「おい、フェン……嘘だろう」
ソールがフェンリルの元に駆け寄る。
「おい、フェン起きろよ。ああっ、クソ、何が太陽神だ。結局、俺は何も――」
がばっと、フェンリルが起き上がり
「イツモソールダ」などどといいながら、飛びかかる。
さすがはオビーグル。短い旅路の間に、俺が伝授した狸寝入りを実戦したようだ。
あれから大し経過していないに、ひどく遠く感じる。
今は遠いあの旅路に思いを馳せる。いつか、またという幻想を塗りつぶして
「足りないか覚悟は、度胸で補え!」と自分を鼓舞する。
ガタッと天秤が傾いた。
「フェン、離れろ。時間がないんだ――」
ああでもないこうでもないとフェンリルを宥めるソール。
たしかに、時間はないようだ。今までの、轟音や爆風がこちらまで届きはじめた。
アワイが、展開していた防壁が解除されたようだ。
余力を避けない程、戦況は逼迫しているようだ。




