百三十一話 魔砂漠の決戦-10
見目麗しい水妖の集団が、入口を死守していた。ウムブラの群れに仲間を蹂躙しようされようとも、決して手を緩めない。
渦巻く水流が、黒い壁に小さな穴をあけている。小さいといっても、それは相対的なだけで、ガブも問題なく通行できる。
おそらく、メルクリウスは命じたのだ扉を開けと。アワイに感情があるのだから彼女たちにだって……。
「彼女たちにとっては、主に全てを捧げることこそが誉なのでございます――」
アワイの横顔はどこか寂しそうだ。
水流れのトンネルに突入。水の回廊を一歩、一歩進んで行く。
距離感が掴めない。現界と神域には大きな隔たりがあるようだ。
ガブは、水流に接触しないようにしているのでとても窮屈そうにみえる。
いつもなら、『ギィ~』って文句の一つでも言ってくる局面だが黙々と歩みを進めている。
俺の見立てでは、黒いドームに風穴を開けられた。それこそ、俺とガブが力を合わせれば短時間でことを為せただろう。
でも、突入した途端、暴殺されたのでは意味がない。そもそも、バハムート・アペプは、防御をしているわけではない。
ただ、自分が生きやすいように神域を展開しているに過ぎないのだ。
ここは奴のテリトリー、自身と反するヒジリの波動には敏感に反応するだろう。規模が違い過ぎて、無反応という愚鈍なお頭が弱い系モンスターだったら楽だったのにな。
「ヒラール姫、大丈夫か?」
「ああっ」
ヒラール姫の口数は少ない。
「きつくなったらすぐに教えほしい」
「心配はいらない」
ヒラール姫の胸元が、仄かに光っている。凛に感謝だな。全く自慢の妹だ――。
優秀な妹の力は、防御においても遺憾無く力を発揮しているようだ。
でも、本来の用途からは逸脱していることに変わりはない。急いだほうがいいな。
「アワイ、この回廊はまだ続きそうか?」
「さすがは、栄太様。よくお気づきになりましたね」
口調がどこか堅い。
「さすがにこれだけ迂回させられれば誰でも気づくさ」
安全なルートを手探りで構築しているのだろう。巨悪竜の動きなんかも考慮して、俺達が少しでも有利にことを進められるように出口を設定しようとしている。
あの水妖達の力量は、凄まじいな。だけど……。
「アワイ、すぐにでも内部に到達したい」
「はい」
アワイが水流に手を伸ばす。
「ヒジリ、最大強度の防壁を展開。ガブ――」
指示を出し終わる前に、ガブが体制を低くする。
「足りない覚悟は度胸でおぎなえ!」
誰に言った言葉ではない。自分を鼓舞させるために。
あとは、出たとこ勝負だ。頭をフル回転させて燃え上がる極大の剣をイメージする。
さっそくの山場。失敗=全滅だ。




