百二十話 友軍-5
「ギリギリ合格だな。可能性は零ではない。それだけで挑む価値はあるもんだ」
「どうしてこのタイミングで……」
殺気どころか威圧感すら感じさせない。姿は無防備な子供だ。内包する風格は全く損なわれていない。
今のままでは万が一にも勝ち目はないだろう。プルートーからは不安定な印象を受けたが――。が、佇むメルクリウスには隙がない。
「そんな警戒しなさんな。俺っちはただの人畜無害な管理者だ。故に、終焉に抗うとはしないがね」
メルクリウスが笑った。どこか自嘲気味なニュアンスを感じさせる。
あちらさんには、敵意がないのだとしても、俺には確認しなければいけない事項がある。
返答次第では戦闘もやむなしだ。
「ほう、神に挑むかよ。俺っちも内心ではお前を壊したくてウズウズしているんだぜ。余所者のお前を殺したところで、戒律には抵触するわけではないしな」
身体が押しつぶされそうな錯覚。
ガブが姿勢を低くして、メルクリウスをねめつけている。ガブの前足が地面にめり込む。どうやら火を吐くつもりらしい。
ガブを手で制しながら、
「姉ちゃんは、どこにいる?」
「はあっ~。似た者姉弟だよなお前ら――」
メルクリウスがため息をもらした。
「姉ちゃんはどこにいる?」
「目付きが鋭いぞ。そんな様だから社会に馴染めないじゃないか。お前も中々に特殊な生い立ちみたいだが……家族愛を拗らせて、闇落ち。精神が壊れる寸前で、年下の少女に癒され、再起。そして無職――」
「ちょっと待て、どうしてそんなパーソナルな情報を知っているんだ!」
空気が激変する。ひりついた感じはしなくなったが、これはこれで精神が摩耗する。客観的な自分の立ち位置なんて知っても火傷するだけだ。
「一応、俺っちは神様だからと言いたいところだが――」
姉ちゃんから色々と聞かされたらしい。どうやらメルクリウスは姉ちゃんに好意を持っているようだ。
「姉ちゃんも近くにいるのか?」
「いや、あいつは俺っちの神殿にいる。無論、お前に会いたがっていたがな――」
「姉ちゃんは無事なのか」
無意識に声をあらげてしまった。
「愚問だな」
やれやれとでも言うかのよに空を仰いだ。厚く垂れこめた雲の隙間から、陽光が射している。
その光景が未来を暗示しているようで心がざわつく。




