九十話 一時の再会-7
「本当に変わったわね。その変化が私の影響だとすれば、それ程に誇らしいことはないわ」
心を殺して自分を強者だと偽った。感情なんて邪魔になるだけど自分に言い聞かせた。善悪の判断なんて道具の俺が考えることではない。
そのまま進んだところで、望む結果を得られる確証もない。不安に抗うように力を求めた。いつの間にか、手段が結果を凌駕していた。
害魔を倒した後に訪れる短い平穏、それを求めるように戦いに明け暮れた。今にして思えば、あれは快感の類だったのかもしれない。
壊れかけの機械に行き場所はない。厄介払いに近い形で、天歌家にやってきた。
サクラが、そっと俺から離れた。いつの間にか手の力を緩めていたらしい。やるべきことは明白だ。現実世界のゴタゴタを片付ける。
それからどうする? 戻ったらここでの記憶どころかサクラのこと自体忘れてしまうかもしれない。もし、覚えていても、行着く先には、残酷な真実しかないのかもしれない。
「前を向いて歩いて行けば、きっとまた会えるわ」
「…………」
「お嬢様は嘘をつけない生き物なのよ」
「本当かよ」
「第一ヒロイン不在の間は、間に合わせのヒロインで我慢なさい」
「そうだな。でも、俺に好意を寄せる狂人ってサクラくらいだろう?」
「ロザリーさんと凛ちゃんは除外するとしても、あそこに映っている着物美人とか犬耳少女なんかは完全にヒロイン候補じゃない」
「二人は俺のことなんて眼中にないよ」
二人は俺にシュルーク王子の面影を重ねている。そう考えるのは邪推だろうか。
「だったら見捨てるの?」
「いや、助ける。二人は仲間だ」
サクラが嬉しそうに笑った。張り巡らせた策略が身を結んだときにみせるビジネスモードの微笑じゃない。
「今の栄太君、すごく素敵よ」
「そうか」
「最後に一つだけ言わせて。普通になりたいとか、そんな風に考える必要なんてない。自分の成すべきことを為して。栄太君がどこに堕ちたって私は味方でいる」
サクラには敵わないな。全部見透かされている。
「どんなに遠くても、どんなに困難でも、必ず迎えにいく」
「……無理はしないで」
一瞬、サクラの表情が曇った。その意味を知りたくて、口を開こうとした瞬間、サクラが遮るように俺の手を取った。
「行きましょう」
サクラがグイグイと俺を引っ張る。
開け離れた―一壊れた扉の向こう側へ。
「忘れないで私は――」
最後の言葉は聞き取れなかった。だけど、不思議と怖くない。俺はサクラと約束したんだ。それだけあれば俺は前に進める。




