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ツクヨミ奇譚 ~天岩戸異聞~  作者: LED
第一章 陽が翳るとき
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七.アマテラスの危機

 砕けた天井。逆剥ぎにされた馬の死体。

 女陰ほとに突き立てられ絶命している女神。

 アマテラスは機屋はたやの惨状と、けがれに満ちた侵入者を見て、恐怖に青ざめつつも声を上げた。


「あなた達は何者!? ここを神聖なる高天原タカマガハラ機屋はたやと知っての狼藉かッ!」


 禍々しい雷神たちに囲まれながらも、アマテラスの詰問は凛として響いた。

 その問いに応じ、雷神の中でも一際強大な力を持つ一柱が進み出て、彼女の前にて一礼した。


「偉大なる三貴子が一柱、天照アマテラス大御神オオミカミであらせられますな?

 我らは八雷神ヤツイカヅチノカミ。貴女様の母君、イザナミ様にお仕えする者です。

 八柱が筆頭、この火雷ホノイカヅチめが、皆に成り代わってご挨拶申し上げる」


「母上の……!? 黄泉の穢れた神が、天上に一体何の用よ!」

「イザナミ様は、貴女様の魂魄こんぱくを、黄泉の国にお連れせよとおっしゃられました。

 ささ、悪い事は申しませぬ。我らと共に来ていただきましょうか」

「無礼者共ッ! 今すぐここを立ち去りなさい!」

「フム。では致し方ない……腕ずくでも連れ去るとしましょう」


 火雷ホノイカヅチの号令一下、六柱の雷神が一斉にアマテラスに襲いかかった!

 アマテラスは咄嗟に身をかわし、あるいは切り払おうとするものの、状況は彼女にとって圧倒的に不利だ。

 急ぎ駆けつけたため武装もしていなかったし、今までの心労や、機屋はたやに渦巻く濃い穢れの影響で、アマテラスの神力は著しく疲弊してしまっていたのである。


「くッ……こんな時でなければ、あなた達……なんかにッ……!」

 アマテラスはどうにか倒れずに踏みとどまったが、雷神たちの猛攻を完全には防ぎ切れない。

 その美しい御衣は焼き裂かれ、玉のような肌にも傷と穢れが目立ち、彼女の気力と体力は急速に奪われつつあった。


「今の一斉攻撃で昏倒しませぬか。思ったよりも粘られる」

「さすがは三貴子、と言いたいところですが……おいたわしや、アマテラス様」

「本来であれば、我ら全員が束になってかかったところで、貴女様の足元にも及ばぬ筈、ですが……」

「穢れた暗雲。スサノオの狼藉による神力の弱体化。度重なる精神の消耗」

「あらゆる状況がアナタの力を削いでいる」

「無駄な抵抗はおやめ下さい。余り貴女を傷つけた状態で、イザナミ様の下に送りたくはない」


 アマテラスの息は荒く、肩にも力が入らず、今にも膝をつかんばかりだ。

 ただその目だけが、雷神たちを鋭く睨み据え、疲労困憊であっても屈しないという意思表示をしていた。


「なかなかに強情なお方だ。芯の強さは母譲りといった所ですかな?

 ですが……これで終わりですよッ!」


 再び雷神たちがアマテラスに殺到する! もはや彼女の動きに精彩はなく、成すがままにされるかに見えた。

 その時であった。


「どぉぉぉりゃあああああッッッッ!!!!」


 男の野太い大音声が鳴り響いた。

 と同時に、今まさにアマテラスに襲いかからんとする雷神たちに、壊れた織機が勢いよく横殴りで飛び込んできたのだ!


「なッ…………!?」六柱が吹き飛ばされ、思わず狼狽する火雷ホノイカヅチ


 機屋はたやに、偉丈夫の男神が新たに乗り込んできていた。

 燃えるような赤銅色の肌に、がっしりとした体格。周囲に渦巻く穢れをものともせず、活力に満ち溢れた神であった。


「オイオイてめーら。俺が出遅れちまってる間に、大事なか弱いヒメサマ相手に、よってたかって随分な事してくれてるじゃあねーか。

 俺の怒りの拳で、信濃国しなののくにあたりまでブッ飛ぶ覚悟があってやってんだろーなァ? おいィ!!」


 この神の名は、タヂカラオ。

 その名の示す通り、腕力・筋力を象徴する力強き神である。

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