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ツクヨミ奇譚 ~天岩戸異聞~  作者: LED
第四章 激闘の果て
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五.タヂカラオ&オオゲツヒメvs火髑髏・前編

 迫りくる巨大で禍々しき姿の八百合神ヤオアワセガミ火髑髏ホノドクロ

 不安げな視線を送るオオゲツヒメに、タヂカラオは振り返りもせず言った。


「あんな性格悪ィ腐れ神の言う事、真に受けんじゃあねーぞ。オオゲツヒメ」

「タヂカラオ様……」

「もともと俺たちの仲間は、アンタをはじめとして……好んで戦いに来た奴なんていやしねえ。

 ウズメも。アンタを慕ってるウケモチも。乱暴に見えるスサノオでさえも。

 出来る事なら平和に解決したいと思ってるだろう」


 タヂカラオの全身に神力が満ち溢れる。地面から突き出ていた巨岩を掴んだ。


「今、アンタは自分の事を足手まといだとか思ってるか?

 とんでもねえ話さ。奴の言ってる事は出任せもいいところだ!

 俺たちがここまで来れたのも、オオゲツヒメや皆のお陰だ。

 アンタがいなきゃ、俺たちは今頃ヨモツヘグリを食って、黄泉の住民の仲間入りだったさ」


 タヂカラオは雄叫びを上げ、巨岩を力任せに引き抜き……己の身長の二倍ほどもあるそれを両手で担ぎ上げた!


「戦いに限った事じゃあねえ! 物事には何でも、役割分担ってモンがあるのさ!

 お互いのやれる事を精一杯やるべきだと、俺は思うぜ!

 どおおおおおりゃああああああッッッッ!!!!」


 怪力神は気合いを込めて、巨岩を髑髏百足の化け物に向かって投げつけた!


 バゴァアアアンッ!!


 凄まじい勢いと質量を持った投擲を受け、火髑髏の動きが止まる。

 しかし、巨岩が命中し、破片となって砕け散った後……現れたのは、傷一つない黒光りする髑髏しゃれこうべであった。


「何ィッ……!?」

「フフフクク。流石は高天原の『力』の象徴タヂカラオ……

 我が突進の勢いを止めるほどの怪力をお持ちとは恐れ入りました。ですがァ……

 我が身体を覆うこの黒き骨は、単なる亡者の残骸などではありません!」


 雷光と爆炎を纏う黒光りする骨。

 凄まじいけがれを宿しているが、それだけではなかった。


「この火雷ホノイカヅチも……カグツチ様には及びませんが、炎を操る力に長けております。

 血の池地獄の水は、多分に鉄を含んでおりましてねェ……

 我が炎と、取り込んだ獄卒共のけがれによって鍛え、硬き鉄の鎧として身に纏う事に成功しているのですよォ!」


「ならこいつはどうだァッ!」


 タヂカラオは突進しつつ跳躍し、持てる神力を右拳に込めて、火髑髏の左頬骨に当たる部分をしたたかに打ち据えた。

 太くしなやかな筋肉が躍動し、その一発一発が重い拳撃の連打!

 並の悪神であればそれだけで塵ひとつ残らぬ威力である。


 だが……巨大な髑髏百足は、その頭部を僅かに傾けただけで、やはり黒光りする外殻はヒビひとつ入っていない。

 それどころか攻撃していたタヂカラオの拳に、血が滲んでいる始末であった。


「ぐッ……確かにちったぁ硬ェみてぇだな……」

「負け惜しみも程々にせねば、見苦しいですよォッ!」


 火髑髏は巨体に似合わず俊敏な動きで、尾部に当たる骨をしならせ、鞭のように持ち上げてタヂカラオを弾き飛ばした!


「がはッ……!?」

 両腕による防御ガードは間に合ったが、衝撃に耐えられず大きく吹っ飛ぶタヂカラオ。

 近くにあった血の池に落ち、赤い水飛沫が飛び散った。


「フン、口ほどにもないですねェ……」


 火髑髏は沈んだタヂカラオの方に蔑んだ一瞥を送った後、オオゲツヒメに目を向けた。


「さて……オオゲツヒメ。覚悟はよろしいか?」

「ち、近寄らないでくださいましッ」

「実のところ、貴女さえ殺す事ができれば、我々の勝ちなのですよ。

 貴女の生み出す食糧が途絶えれば、他の神々は飢えるかヨモツヘグリを食すしかなくなる。

 タヂカラオが言っていたようにね」


 火雷ホノイカヅチは得意満面の様子で語った。


「タヂカラオの力は脅威ではありました。

 が、貴女を庇いながら戦わせる事で、行動を制限させる。

 分断した皆様にも、我々の仲間が向かっていますが……勝てなくても構わない。

 オオゲツヒメ。貴女さえ手中に収めれば、あなた方は詰みます。そのための時間稼ぎが出来れば十分なのです」


「わたくしを……殺すのですか?」オオゲツヒメは恐る恐る訊いた。


「我の望む望まざるに関わらず、貴女を殺す以外の選択肢は存在しません。

 というのも我々の目的が達成されれば、いずれあなた方は死を迎え、黄泉の住民となる以外にないからです。

 話し合う余地があるならば、我としてもやぶさかではありませんがねェ……」


 悲しげにかぶりを振る火雷ホノイカヅチ

 話をしている間にも、合神は抜け目なく巨体を這わせ、オオゲツヒメとの距離を詰めていた。


「所詮、我々は死者。生者であるあなた方とは相容れない運命なのです。

 オオゲツヒメ。生者として死に抗う気持ちがあるなら……戦いなさい。

 たとえ貴女に戦う術、身を守る術がなくとも……死は訪れる。強き者、弱き者の区別なく。平等にね」


 火雷ホノイカヅチの言葉に、オオゲツヒメはフウと息を吐いた。


「ちょっと、驚きましたわ……火雷ホノイカヅチさま、でしたわよね?

 貴方、黄泉の国の雷神にしては……随分と心優しい方ですのね。

 敵であるわたくしを励まして下さるなんて」


「励ましに聞こえましたか?

 それは貴女の買い被りというものですよ、オオゲツヒメ」

 火雷ホノイカヅチは不快そうに言った。

「我はただ、事実を述べたに過ぎません。そして、お喋りの時間は終わりです」


「いいえ……まさか、敵に覚悟を決めさせられるとは。

 思ってもみませんでしたわ」


 オオゲツヒメの瞳から、いつの間にか絶望の色が消えていた。

 恐怖の影は色濃く残っているが、少なくとも立ち向かう意思は死んでいない。


「わたくしも抗います。ここで死んでしまっては、わたくしを守り、励まして下さったタヂカラオ様に申し訳が立ちませんもの。

 それに……わたくしにだって、身を守る術ぐらい、ありますわ……!」


「ほう! 大きく出ましたねェ!

 では見せて貰いましょうか。貴女の身を守る術とやらを!」


 火髑髏の巨体が、食物の女神を焼き尽くすべく動いた。

 オオゲツヒメは合神の頭部を十分に引きつけてから、懐に密かに生み出し、隠し持っていた大豆を投げつける!


 バシャアッ!!

 穀霊の宿った豆が髑髏しゃれこうべの眼窩に潜り込む。こうなると硬度など関係ない。

 火髑髏は思わず怯み絶叫した。


 ギャアアアアアッッッ!!


 燃え盛る外殻のため多少は燃え尽きたが、けがれを持つ神にとってそれは、焼けた栗が目に飛び込んできたに等しい激痛を伴った。

 苦しみ悶える火髑髏は、のたうち回って周囲に炎を撒き散らした!


「おのれ、小賢しい……! どこに消えましたかねェ……!」


 目を潰され悶えている間に、火髑髏はオオゲツヒメの気配を見失ってしまった。

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