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余話・ウズメ、お多福になる

時系列的には第三章七・八の間のお話。

 闇の神ウケモチがオオカムズミから桃の木を分けて貰い、弓を作っていた最中。

 実はウズメもまた、彼女に対して木を分けて貰うよう頼んでいた。


「……という訳なのよ。お願いできる?」

「フム。そなたの申し出もなかなか興が乗るのぅ。よかろう。

 良きモノを作ってくれよ?」


 幼き顔の獣人めいた女神オオカムズミの承諾を受け、ウズメもウケモチと同様、その晩の間は木彫りの作業に没頭したのだった。


**********


 翌朝、ウケモチが作った桃弓と葦矢の双子神のお披露目が済んだ直後。


「実はッ……あたしも昨日、徹夜してコレを作ったのでぇす!」


 ウズメはおもむろに宣言し、皆に見せたのは……木彫りのお面だった。


『ぶふゥッ!?』


 お面の形の異様さに、スサノオとタヂカラオは思わず吹き出してしまった。

 丸顔で、鼻が低く、額は広く、頬が丸く豊かに張り出した特徴を持つ女性の仮面で、滑稽ユーモラスな雰囲気を醸し出している。


「ウズメちゃん……何ソレ?」

 スサノオは笑いを堪えながら聞いた。


「予想通りの反応で嬉しいわ。

 あたしはこのお面を『お多福タフク』と名付ける事にしました!」

 ウズメは面をつけたまま、誇らしげに胸を張った。

「どーよこれスサノオくん! こうして近づかれても安心できるでしょ?」


 ずいっと顔を近づかれる。ウズメのいつもの癖で、話をする時に必要以上に相手との距離を詰めてしまう。

 彼女は元々、健康的な肌を持つ魅惑的な女神なのだが、「お多福」の面をつけていると、その辺の官能的セクシーな部分は全てすっ飛ばして、笑いだけがこみ上げてしまうのだった。


「もしかしてウズメ……お前、近づかれた時の俺たちの反応を気にしてたのか?」

 ひとしきり笑い終えたタヂカラオが、ウズメの言葉を聞いて訝しげに訊いた。


「うん。みんながあたしの事、嫌ってないのは分かってるけど……なんかこう!

 あたしと話してる時のみんなって、落ち着かない様子なのよね。

 特にスサノオくんとか」

「あー……スサノオはな……まだまだ男として、慣れてないっつーか……」

「どうもあたしの顔って、みんなを安心させる力がないみたいなのよね。

 だから考えたのよ。どうしたらみんなに、笑いと安心を振りまけるような女神になれるかって」


(スサノオが落ち着かないのは、どう考えてもウズメの顔のせいじゃねーよな……

 あいつウズメと話をしてる時、いつも胸の谷間に視線釘づけだし。思春期の男神としちゃ正常な反応なんだから、気にしなくていいと思うがなぁ……)


 とタヂカラオは内心思ったが……元々感性が微妙にズレているウズメにその辺りを説明し、納得させるのは自分には荷が重すぎると感じて沈黙するのだった。


「そこであたし、ウズメは考えました!

 オオゲツちゃんみたいになればいいって!」

「…………えっ」

「オオゲツちゃんの落ち着いた笑顔を見た時、あたし思ったの。

 みんなに安心を与えてくれて素敵だなぁって。

 でもあたしにはオオゲツちゃんの笑顔は到底真似できないから、せめてお面を作って、形から入ろうかなって!」


「ウズメちゃん。その『お多福』……オオゲツヒメの顔を参考にしたのか?」

「そういう事。二柱ふたりの反応を見る限りじゃ大成功ね!」


 その言葉を聞いて、スサノオはとても嫌な予感がしたが……予想通りというか何というか。

 ウズメに食って掛かるウケモチが不本意そうに喚いていた。


「それはどういう意味だウズメ! オオゲツの顔はそんな下膨れじゃねえぞ!」

「えー。これでもオオゲツちゃんの魅力を最大限に引き出した造形デザインにしたのに!」

「ふざけんなッ! オイラは抗議すっぞ! オオゲツ! お前だって嫌だろう?」


 ウケモチは興奮気味に言ったが、当のオオゲツヒメは……


「あらあら、ウズメ様。これはまた可笑しい……素敵なお面を作られましたのね」

「お前まで笑っててどーすんだよ!?

 あのウズメの面、お前の顔が見本モデルなんだぞ!?」

「今のウズメ様の話を聞いたでしょう、ウケモチ?

 『笑顔を素敵』と言われて喜ばない女神はいませんよ」

「…………~~~~ッッッッ!?」


 暢気に微笑むオオゲツヒメは、全く意に介していないようであった。

 天然なのか度量が大きいのか。あるいは、今まで迫害されてきた苦い経験から、自分の顔が親しまれている様子が純粋に嬉しいのかもしれない。

 幸せそうな彼女を前にして、これ以上ウケモチからは何も言えなかった。


**********


 おかめ、あるいはお多福タフクと称されるこの滑稽なお面の起源は、アメノウズメだとされている。

 現代でこそ、この奇妙で可笑しな造形は美しさの象徴ではないが、「お多福」という名称からも福を呼ぶ面として古来より親しまれてきた。

 また「笑う門には福来る」という諺の語源でもあると言われている。


 余談だがこの下膨れの造形は、平安時代の若い貴族たちにとって美男美女の象徴であり、おたふく風邪の事を「福来病ふくらいびょう」と称したほどである。



(余話・了)

ウズメさんが美女というよりお笑いタレントめいて描かれる理由が「お多福」なんですよね。

実際当時の絵とか見ても、明らかにお多福顔で描かれてたりしますし。

まあ本作ではセクシーで異国風エキゾチックな美女として描いているので、密かに自分の外見にコンプレックスを抱いていた……という風に考えています。

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