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ツクヨミ奇譚 ~天岩戸異聞~  作者: LED
第二章 ツクヨミとオオゲツヒメ
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四.八百万の神々集いて

 高天原タカマガハラより下りし所にある、天安川アメノヤスノカワ(註:宮崎県高千穂町にある川)の河原。

 ここはかつて、スサノオとアマテラスの誓約うけいが行われた場所。

 重要な会議を行う際、神々の会合の場としてたびたび利用される霊験あらたかなる川だ。


 河原に佇むは、高天原タカマガハラの『智』の象徴たる神、オモイカネ。

 今回のアマテラスの「岩戸隠れ」の対策会議の議長を務め、八百万やおよろずの神々に召集をかけた張本人である。


 だがちょっと待って欲しい。

 八百万である。いかな天安川の河原が広かったとしても、それだけの数の神々が集う事が果たして可能なのか?

 余談だが「日本書紀」においては「八十萬神やそよろずのかみ」と記されている。つまり八十万だ。実際に八百万もいた訳ではなさそうだ。

 そもそも八百万とは「ものすごく沢山の」という意味合いであり、具体的な数を現している訳ではない。


 しかし仮に十分の一である八十万だったとしても、凄まじい数である事に変わりはない。

 これだけの数の神々を一堂に会し、その知恵を出し合うとなると、普通にやったのではまず収拾がつかないだろう。

 だが彼らは神々である。人間には及びもつかない力を持っているのだ。


 この会議において、オモイカネの持つ神力は遺憾なく発揮される事になる。


「八百万の神々のお歴々。これより皆様のお知恵を拝借願います──」


 誰もいないはずの河原にてオモイカネは高らかに宣言し……その両手を川の水に浸した。

 すると……高天原タカマガハラから、葦原アシハラノ中国ナカツクニから、凄まじい数の小さな光がオモイカネの下に集まってくるではないか!

 光の正体は神々のこん……すなわち精神の一部。もっと言えば彼ら神々の持つ、記憶や知識の断片である。


 オモイカネの持つ能力。それは『集合知』と呼ばれるもの。

 敢えて現代風の表現をすれば、通信電網インターネットによる情報検索を地で行く力だ。


 しかしながら、ただ膨大な情報を集めるだけでは、正しい取捨選択や精査ができず、かえって混乱するだけであろう。

 オモイカネが知識を司る神として名を馳せている、真の理由はここにある。

 彼には膨大な情報量を瞬時に演算し、分析し、処理し、最適解を導き出す力がある。しかもこれは神力によるものではない。オモイカネ自身の持つ、明晰なる頭脳の賜物なのだ!


 八百万の神々の膨大な記憶・知識の迷宮を、オモイカネの思考は凄まじい速さで駆け抜けていく。

 その際に見出した、アマテラスを救うための断片的な素材は余さず、彼の脳内に回収され、加工され、形を成し、さらに強化されていく。

 現状を打破するための最強の武器が、オモイカネの頭脳の力で構築された。この間、わずか1秒足らず。


 導き出された最適解とは。

 常世とこよ長鳴鳥ながなきどり。彼らの目覚めの鳴き声にて、アマテラスの意識を覚醒させる。

 天の香山かぐやまに茂るさかきの木。神の依代として名高い霊木を集めて彫刻し、女神に似せた像を作る。

 八尺瓊勾玉やさかにのまがたま八咫鏡やたのかがみ。それぞれ陰陽の気を宿す神器として、女神像を装飾する。

 これらを用いる事で、目覚めしアマテラスに新たなる太陽神が降臨したと錯覚させ、外へと誘き出す撒き餌とするのである。


 更には八百万の神々の協力も必要だ。アマテラスを目覚めさせ、天岩戸あまのいわとより外に出すためには、膨大なる陽の気を用いたみそぎ──宴を催さなければならない。

 宴によりけがれを祓い、膨れ上がった陽の気こそ……アマテラスの篭りし岩屋戸を開く力となる。


「皆様、ありがとうございました」

 オモイカネは恭しく、八百万の神々の魂に礼を述べた。

「それぞれの手段については、然るべき神々に依頼し、全うしていただきたく存じます──」


 オモイカネの言葉に、神々の魂は満足げに去っていった。天安川の河原の会議は終わった。

 ……だが、オモイカネの表情は未だ硬い。神々には表立って話していない、別の問題があったからだ。


(アマテラス様を目覚めさせるために必要なもの……その多くは皆の協力があれば用意できるでしょう。

 ですが、八咫鏡やたのかがみ。これだけはただ、鍛冶の神に命じて作らせるだけでは、恐らく足りない。

 タヂカラオの証言が正しければ、『鏡』の意味するところは……黄泉の国に連れ去られた、アマテラス様の『魂』そのものなのだから)


 そう。誰かが行かねばならない。

 穢れに満ちた、恐るべき黄泉の国へ。

 奪われたアマテラスの「魂」を取り戻すための、危険極まりない旅に。

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