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無理矢理繋ぐ赤い糸

 人生にモテ期は三回あると言う。


 多分それは嘘だ。…嘘、ではないけどきっと人を選んでいる。

 実際オレは小学生のころからそこそこ女に持て囃され続けたし中学二年生のころには童貞とはサヨナラした(相手は教育実習生だった)。周りの男子が輪をつくり袋綴じを開ける瞬間生唾飲み込んでたときにオレは用具室の中でセンセーの卵とエンヤコラしてたわけで。

 高校に入ってからもまあそこそこ。遊びに行くときに女子が欲しい場合、電話すれば二つ返事で来てくれる女の数もある程度。サッカー部のエースだから他校の女に見初められたり、も少なくない。

 格段にモテるわけじゃないけど女に不自由したことはないからオレにモテ期なんて言葉は存在しない。

少なくともオレには。


…オレには。



「アイザワくん」

「何」

 この、いつも無駄にオレを呼ぶ瞬間がいらっとする。大抵次の言葉は何言うか忘れた、か意味不明なこと喋り出すから。そんでも笑顔がたまらなくかわいいから許しちゃうんだけど。

「この前の試合見た」

「おう。どだった」

 ちなみ完封。3-0で打ち負かしてやった。そのうちの一本オウンゴールだけど。ちなみオレ一本キメた。

カッコよかったよ、とかスゴイ、なんて聞けたらほんとはいいんだけど。期待するだけ無駄。

「グランドの脇に置いてある水ってさ、ぬるくないの?アイザワくん頭からかけてたけど。てかあれ猫除けでしょ?ボールと間違えたら困るから」

 毎度ながらどうして路線がズレるんだ。質問に答えろよ、アホ。猫除けって、なんだよ。猫蹴るか。

「ぬりい時もあっけど…つうか、あー…かわいくねえー…」

そう言いながらゆっくり腰に手ぇ回してベッドに沈めてくのはいつものことで。

無抵抗にされるがままなコイツはきっと今日もマグロ。



「アイザワくん…」

 コトが終わり半裸でベッドの脇に座って携帯をいじってるとさっきまでオレの下にいた奴が呻いた。

「どうしたよーチャン」

 振り向いた勢いでちゅーしてやるけど表情は変わらない。

 こんなんだけどオレたちはセフレじゃない。恋人だ。無理矢理を含めてほんと全部オレが進めてきたんだけど。

 やってる時に意地悪しても全然。全く恥ずかしがらない、痛いんだけどって淡々と返される。返ってくるのはオレ。打っても響かない、それがよーチャン。

 打ったオレだけ響いてる。

「今日ガッコで告られた」

 現に今も。なにもかもが唐突すぎる。天然属性、かわいくない悪い方で。

「は?」

「二組の安田さん。女のほうの」

 女以外ねえだろ…、とは言えない。安田?あー…まあ普通の女。可もなく不可もなくって程度の。オレにはちょいもの足りないかんじ。

 よりによって何故よーチャン?

 一言で言えば「だらしない」男、なのに。中肉中背、制服皺だらけ、どこかがよれてる。ぼーっとしてる、何とは断定できないけど。“吉澤くんて、なんかだらしないよね”これが女子からの総合評価。

「断っただろ」

「うん。ちょっと泣かれた。すげー罪悪感だ」

「それでいいんだよ」

 コイツんことだからオッケーしちゃった、とかほざきそうだった。

もっかいチュウして第二ラウンド開始。




「アイザワくん…腰痛い」

「わり」

「てか穴痛いんだけど」

「ごめん、軟膏塗ってやるから許して」

「いらない」

「な、どんくらい痛いの?」

「経験しないとわかんないよ」

「するか。なあマジオレが薬塗るって」

「やだよ、指突っ込まれたくねーもん」

「いっつも指も他のモンも突っ込まれてんだろ」

 昨日無理させすぎたみたいだ。つうかいつもだけど。

 オレの陣地。クラスの窓際の席でえげつない会話をしてると上から声が降ってきた。よーチャンが「上手いこと言うなよー」なんて、意味わかんねえこと喋ってるときにだ。照れろよ、アホ。

「ねえ」

 見上げると、そこには赤井。柔らかそうな茶髪が揺れるそこそこなレベルのクラスメート。緑のカラコンの入った揺れる視線を見つけて何の用事かすぐにわかった。

…あー。そっすか。

 この場合オレ?勿論断るけど。

「…吉澤くん、いい?」

「おれ?」

「うん」

 いいよ、なんて頷いて。よーチャンはオレを気遣う様子もなく席を立って行ってしまった。

 なに、あいつ。

 …つうかなに、告られんの?あいつ。連日で?オレじゃなくて?ハアアア?

 ダメ。むかつく。最初にいいって思ったのオレだろ、パクリじゃねえか。なんでよーチャンよ、だめんずが流行りなのか?オレしか魅力わかんねえはずなのに。

 よーチャンのピンポイントな良さっつうか雰囲気が“アリ”なのはオレだけに決まってる。

 あいつは可愛さ余って憎さ百倍なんだ…と、褒めてるつもりで事実けなしてたらいつの間にか。

「アイザワー、何いまの」

「あ?」

 サッカー部連中が赤井とよーチャンのやり取りを見ていたのかわらわらと寄ってきた。

「赤井と吉澤。雰囲気…なあ?」

「おう、これからってかんじ。アイザワなんか聞いてねえの?」

「うーわ俺赤井タイプだったんだけどお!」

「なんで吉澤なわけ?まじイミフ」

「だよなあ、ぶっちゃけ俺のがイイ顔してね?」

「してるしてるー」

「バーカそれ言ったら俺らみんなじゃん」

 ギャハハ、と笑ってオレの机をバチバチ叩き始める馬鹿たち。勝手に陣地入るんじゃねえ。

「るせえよ」

「ぎぁっ」

 一人に弁慶の泣き所蹴りつけてやったらそいつ庇ってやるわけでもなく青ざめながら全員してオレに謝ってくる。うぜえー。超うぜー。

シカト決め込んで頬づえついて窓の向こう眺めれば、今頃告られてんだろうなってまたむしゃくしゃして(そんでもう一人ケツ蹴った)。




「…遅えよ」

 それからよーチャンが帰ってきたのは放課後になってから。何考えてんだ。

 人もまばらな教室でオレはよーチャンを睨み据えてた。

「赤井さんと話してた」

「ハア?」

「赤井さんおれのこと気になってたんだって、話してみたいってそれで」

「告られてんじゃねえか」

「違うよ」

「違くねえだろ」

 くっそ、鈍いにもほどがあんだろ。妬かせるために、なら可愛いげがあるけどなにしろこいつはよーチャン。そんな思考あるわきゃねえ。

「いい。部活サボる、オレんち来いや」

 くっそ。唯一勝てんのは力だけな気がする。何言ってもズレてるからどこか噛み合わないし、好き度がたけえのオレばっか。この前の雨ん中で待っててくれたのはかなりやばかったけどよ。

「エースがさぼっちゃダメだよ」

「いいんだって」

 早く家行ってよーチャン抱こう。昨日無理させたけど、優しくすっからさ。

 オレだっせ。独占欲、つか。よーチャンが松本とじゃれてんの気にくわねえしたまーに女子と仲良くしてんのも。一人でぼんやりしてるよーチャンにオレだけが話しかける、そういうのがいい。

…キャパの無さがまるわかりだけど。

「…オレのこと嫌いか?」

「ううん」

 黙ってしまったよーチャンに卑怯な文句。どっかの伊達男か。ヒモか。

 体目的みたいな台詞によーチャンは首を振る。変なとこでぐっとくるんだからわけわかんねー。

 腕掴んで家着くまでひたすら煩悩の波にさらわれてた。



「や…」

「わりい」


 ソッコーベッドに押し倒してまずは服を剥く。無いチチいじりながら首吸い上げてたらなんかもー限界。やばいっす、とまんね。

「アイザワくん、ちょ…明日キツいからやめ」

「優しくすっから」

「そじゃなくて、おれもいれたい」

…いれたい?何をだよ。

「は?」

「おれだってアイザワくんみたく女の子と話したいし、おっぱい揉みたいし揉まれんのやだし…だから、そういうのだめならたまにアイザワくん交替して?おれ、アイザワくんいるから告白全部断ったんだし」

「して?」って軽々しく言うな。

 つまりは何だ、推測するところ。女と接することが少なかったから浮かれてそのまんま昼も帰って来なかったってか?モテ中なのにオレ一途で女とやんねーのが偉いってか。それで、オレに女代わりになれと?

 …ああ、誇らしげな顔が腹たつ。

「吉澤」

「ん?」

 少し不安になったのをオレは見逃さなかった。呼び方一つなのに、そこにある意味は違うと知っているからだろう。そしてよーチャンの余裕を崩さなきゃオレは気持ちを確かめられない。

「モテ期って何回あるか知ってるか?」

「三回だろ」

「今何回目?」

「ん…初めてかな」

「よーチャン」


 とてつもなく苦手なつくり笑い。アホなよーチャンはいつもの呼び名にホッとしたのか気付かない。ベッドインしてるのを忘れてる無防備な体を沈めて言ってやる。

 ばかたれ。


「残り二回、全部潰す」


 おまえはオレにだけモテてればいいんだよ。


 直後によーチャンの目を見開いた顔にすっきり。

 ざまあみやがれ。

 久々にオレが優位だ。そう、悦に浸っていたら。

 悔しがるどころか。


「次の二回、来るまでオレとずっと一緒にいるの?」


 なんて、不思議そうに聞かれたら。宣言したからには言わなきゃなんなくて。

 完全墓穴。…オレだけまた夢中なのかよクソッタレ。バカ野郎。


「いるよ…わりいかよ」

 こんなに恥ずかしいのに。オレだけ。

「べつに」

 素っ気ねえ。照れろよ、ずっととか言ってんだぞ。

「…かわいくねえー」



 その、かわいくない天然にオレは一生勝てないんだ。




おわり


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