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RED2  作者: ロッカ
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レッド・ゼルドギアと大いなる誤解4

俺が詰め所に引っ越してきて最初に行った事、それは清掃です。

詰め所周りの区域は勿論、公園や集会所、娯楽施設のみならず薄暗そうな路地や夜のお店周辺までおよそ人が集まりそうな所は全部。当然パトロールも兼ねているんだけどぶっちゃけて言うとイメージアップだな。誰だって自分の周りをきれいに掃除されるのは悪い気にはならないと思うんだけど。・・・軍にウロウロされて困るのは犯罪者だけだしね?

思ったより大変だったけど俺達にも利点はあった。


「こんなところにこんな道があったなんて・・盲点でした」

「届出とは違う店がゾロゾロ出てきました」

「この地区は空き家が多いようです。あと倒壊しそうな建築物があって住民に危険です」


知っているつもりでも実はこうだったという街の様子が手に取るようにわかったんだ。いわゆる足を使ってという事だな。地図を改編したり、改めて届け出を出してもらったり(違法なものは処分)担当部署に連絡入れたりと結構忙しかった。あと挨拶は欠かさずするようにとも言っておいた。最初は無視かもしれないけど続けていれば返してくれる人が必ずいる。誰かが返すのを見れば続く人も現れる。俺は各詰め所に出向し(トップがわざわざ来て直接指示をするというのも大事)皆に言い聞かせた。フッ・・・ちょっと皆目が泳いでいたけどな。


当番制でパトロール&清掃係、悪の方々をペンペンする係と精力的に頑張った三カ月。

頑張った甲斐あって漸く街の皆さんに挨拶返されるようになってきた。それだけでなく通報や相談件数も増えて少しばかり治安も回復してきた、と思う。おっ!前から来るのは魚屋のオジサンじゃないか挨拶をせねば!何時も新鮮で美味しい魚ありがとうございます!


「お早うございます」

「・・・・おっ!おはぁようごっごぜえますっ」


一応言っとくけど脅してないから。朝の挨拶です。オジサン最初ビックリして声が出ないのを(俺が)怖すぎて無理矢理返したらしいなんて誰にも言わせん。一言も言わせん。

おっかしいなぁ顔見知りのはずなんだけどな・・・もしかして顔見知りだと思ってたのは俺だけ?ガーン。俺はぼっち感に堪えながらも屈んでいた体勢を伸ばした。手にはゴミ袋とホウキ。視界には同じような格好をした部下達が頑張っている。しかし俺よりも自然と挨拶を返されているのを見るとちょっと捻くれたくなるが。ケッどうせ俺の顔は怖いですよ。


「ちょっと」


十分捻くれた言葉を心中で吐いてる時、俺の心のオアシスから声を掛けられた。


「エメ、お早う」

「人の店先でボケッとしないでくれる?お客さんが入れないじゃない。営業妨害よ」


お向かいのパン屋さんの娘さん、エメ・ベルジュ。初対面で俺に水ぶっ掛けた子ですね。

ふわっふわの栗色の髪、ちょっとつり上がり気味の緑の目、俺の胸下ぐらいの身長。16~17ぐらいかな、とてもしっかりした働き者の娘さんだ。そして鉄の心臓を持つ娘さんでもある。

なんとこの子、俺を真っ正面から見て話しかける事のできる人間だ。しかも目を逸らさない。度胸試しをしている風でもなく、魂の修行をしているふうでもない、ごく自然に会話してくれるのだ。しばらく気づかなかったぐらいの自然さだった。・・・これがどんなに嬉しい事か!世界で唯一俺と目をあわせて会話できるのが可愛い女の子なんて!生きてて良かった!ワーイワーイ!あ、世界で唯一ってのはちょっと大袈裟だな。陛下も5分間だけなら俺と目を合わせて会話できるお人だった。00:05:01の領域にはまだ到達出来ていないけど。そういえば最近陛下とお話し出来る機会が少ないな。そうだ今度城に戻ったとき時間を作ってもらおうかな。この時代コミュニケーションてすごく大事だからな。けして嫌がらせじゃないぞ。

初対面で水ぶっ掛けるくらいだからさー、エメ勿論最初からとてもきつかった。

顔を合わせるたんびに


「誰もあんた達に期待なんてしてないんだから」

「街を掃除なんかして機嫌でも取ってるつもり?」

「そんな事している暇があったら犯罪者の一人や二人捕まえてきたらどうなの」


とこれでもかと文句言われました。

そしてそれに対する俺の返答が


「そうか」

「そうだ」

「そうしている」


です。

・・・・・・・・・わかってる。まずいのはわかってる。十分わかってる。だから何も言うな。

あ、で、でも!でもな!それから一カ月がたち、二か月がたちと少しずつ街や治安が良くなってくるとエメの態度も!


「まだ居座るつもり?とっとと城にでも帰りなさいよ。言っとくけど私は騙されないから」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・ハ?全然変わってないだろうって?フッこれだから素人は。よく見てみろよ。行間の隙間に見えるじゃないか!あれが!何全然見えねぇだと確かに何かはわからないけど何かあるじゃん!希望とか!深読みとか!柔らかそ


「何見てんのよ」


・・・・・少なくとも柔らかくはなっていないな。うんゴメン。

そんな感じで心のオアシスをゲットした(してないという意見は俺の耳には通らないから)俺は「陛下と5分間突破させよう交流」を行ったり、白縄戒軍の司令官に嫌味 (たぶんね)言われようとして笑顔で対応したために瞬時に「あっえっあっうっえっええっ」と異次元な言語 (ナゼそうなったかは知らないし考えたくない)を吐かれた上に卒倒されたりなんて事があったりして過ごした。(すいません機嫌よかったんです)


* * *


そんなある日の事。

驚愕の事実を俺は知ることとなったのです。


それは昼下がりの事だった。俺は朝のパトを終えて書類仕事をしていた。なにぃバイゼンの野郎また備品を壊したってぇあいつもう一度教育し直さないとな教育という名のキックで。てな事を考えていた。

と、その時入口の方でざわめきが起こった。なんだぁ?と思って顔を上げるとエメが立っていた。少し顔を赤くしてキョロキョロしている。その手には大きなかごがしっかりと握られていた。エメは俺ばかりか黒縄全体が嫌いなようで、その相手を選ばない悪態で部下さん達の間では結構な話題の女の子。なので部下さん達が騒ぐのはわかる。わかるが・・・


「エメ」


俺はエメが詰め所を訪れたのに驚きながら立ち上がった。今まで悪の巣窟のように嫌われてて詰め所に一度たりとも寄った事なんかなかったのに。なんかあったのかな。立ち上がった俺とエメの目が合った。エメは口を引き結ぶと真っ直ぐこっちに向かってきた。

・・・エメ、俺が言うのもなんだが顔が怖いよ。そんな眉間にしわ寄せたら取れなくなるぞこれ経験談だぞここに強烈な見本があるぞ。あ、でもちょっと安心。エメの目には災難にあった人特有の暗い色がない。

エメは俺のデスク前まで近寄ると少し躊躇してかごをデン!と置いた。俺はエメとかごを交互に見る。エメの眉間にはまだしわがきゅっと寄っている。顔も赤いままだ。・・・もしかして熱でもあるんじゃないか?そして部下達は仕事もしないで俺とエメに注目している。なので上官は彼らを睨みつけます。

お前達給料減らすぞ?ってね。殺すぞって解釈されてると思うけどね。そこんとこはもう諦めてるけどね。


「どうした」


俺は何も喋らないエメになるべく優しく聞こえるように話しかけた。そして部下達は急に張り切って仕事を再開した。よしよしいい子たち。


「こ、これ」


エメは俺から視線を逸らすとかごを指差した。落ち着かないのか体を左右にゆらゆら揺らしている。


「・・開けてもいいか?」


かごには赤い刺しゅう糸で縁取られたクロスが掛かっていた。かわええのう女の子っぽいなぁと若干ヤニ下がりがら一応聞く。エメが頷いたので俺はクロスを捲くった。なかには焼き立てほやほやの見るからに美味しそうなパンがぎっしり詰まっていた。

なんだろう。

アレかな「いいだろーこれーお前達にはやんないからーギャハハハー」的なアレかな。・・・くっ!だったら羨ましさ感は半端ねぇぜ!やるなエメ!そうきたか!


「エメ?」

「や、やるわ」


おろ?

驚いた・・たぶん無表情にしか見えてないと思うけどこれでも驚いてるんです。目が若干開き気味なのがマジになった時との区別です。


「エメ?」

「ちっ違うから!あ、余ったからよ!捨てるのも勿体ないから!あんた達には残りもので十分だし!だっだから・・かっ勘違いしないでよね!」


・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キタ。


コレキタコレ ツンドラ ジャナクテ ツンデル デモナイ オチツケオレ ツンデルバアイジャナイ コレハ・・・




ツンデレ。



キタ―――――――(゜∀゜)――――――!!!!!



うぉおおおおおおお!!!すげぇ!生ツンデレだ!初めて見た!マジいるんだ!やべぇめっちゃ興奮する!あっそうだ写メ!写メに収めとかねぇと!この際変態扱いされてもいい!激レア!ここに貴重な生態が!博士!大発見です!やりましたね!何言ってんだ俺!てかスマホねぇよ!アホかっ!

ふーふー先ずは深呼吸だ。

あまりの興奮バーサク状態にエメや部下の皆さんがただならぬ様子で俺を窺っている。

ごめん大丈夫だからコレ大丈夫だから空に向かって拳突き出してるけど昇竜拳しないから。

俺はゆっくり拳を下ろすとコホンと咳払いをして続けた。


「エメ・・ありがとう」

「・・ふっふん!別に!礼なんていいわよ!つ、作りすぎて捨てるとこだったし!特別に焼いたわけじゃなんだからね!」


だからやめてよエメ!今度はガッツポーズしちまったじゃねぇか!


エメは最後顔を真っ赤にしてプリプリしながら帰って行った。入口まで見送った部下によると小さくガッツポーズしていたそうだ。可愛いなぁもう。

明らかに焼き立てのパンを部下さん達皆で頬張った。美味しかったです。疲れも吹っ飛びやる気漲りました。エメ、パン屋の方々ありがとう。


エメにどういう心境変化があったのか知らないがそれからもツンデレを炸裂させ、俺を悶絶させている。


「あんたちょっと働き過ぎじゃない?少しは休んだ方がいいわよ」

「心配してくれるのか」

「っ!ちっ違うわよっ!あんたが働き過ぎて倒れでもしたら・・また逆戻りになっちゃうじゃない!あたしはそこを言ってるんであって!どうして心配なんて話になるのよ!わけわかんないし!」


クゥゥウウウ――――ヽ(∀゜ )人(゜∀゜)人( ゜∀)ノ――――!!!!!


癒される。めっちゃ癒される。顔を赤くしてこれでもかとツンデレするエメに。

前世の世界に残してきた弟達の顔が浮かぶ。


詠司えいじ譲司じょうじ元気でやってるか?フッ・・兄ちゃんこの世界に生まれて、初めて心癒されてるよ。ちょっと人としてどうかと思われる部下さん達に囲まれ続けたけどやっとまともな知り合いできそうだよ。宿題ちゃんとやってるかお前達。兄ちゃんの次なる目標はエメの知り合いから友達に昇格する事だ


丸っと。・・・・・・・って違うよ俺!街の治安回復、信用回復が最優先だったろ!

・・・・・浮かれ過ぎだ。アホか。痛ぇ俺。

反省した俺はエメと距離を置くため(この時点でヤバい)一週間ほど城に戻った。時折窓の外に目をやりエメはどうしてるかなと思う。今日は金曜だからクリームパンの日だな。明日はパン屋に寄ってみようかな。

そんな全然反省してない俺の元に息せききって兵馬が駈け込んで来た。


「隊長!大変でござる!エメちゃんが拐かしに!血祭り!」


・・・ベタ展開キタなーていうかなんでエメの事知ってんの兵馬。血祭りって・・・何?

エメという名前はですね、古典「モンテ・クリスト伯」が好きな人ならピンと来たと思います。好きなんですよエメと伯爵。めっちゃ可愛いの。


*間違い注記


大変申し訳ありません。

古典「モンテ・クリスト伯」作中に出てくる少女は「エメ」ではなく「エデ」でした。

ここに訂正をして深く謝罪します。申し訳ありませんでした。

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