レッド・ゼルドギアと大いなる誤解2
いやあの長い前フリはね、もしまっさらな俺だったらバイゼンの首なんてきゅっとするのに躊躇なんてしないだろうなって話だったのよ。つうか俺に暴言吐いた時点で次の来世にたたっ込んでると思う。
俺の事を「男色」などと執務室どころか階全体に響き渡る大声で叫んだヤツをね。
つうかおいいい!ドア開いたままじゃんかよぉおお!!!
それでも常識も良心もちゃんとある(強調)俺は慈愛の精神を持ってバイゼンを許してやった。ちょっと白目剥いてるけど。首に手の痕とかあるけど。・・・・大丈夫。バイゼン丈夫だから。あとドアも閉めた。
俺は正座しているバイゼンの前に腕を組んで立ち、何とか誤解を解く。多分「あたァ!」の世紀末の人みたいなユラユラしてるもん出してると思うけどこっちも必死だからさ。
「バイゼン」
「はっはひ」
「俺は男色家ではない」
「へ、へぇ」
元来無口だけどこれだけは言っとかないとな!俺の人生が多分掛かってるからな!
「俺は普通に女性が好きだ。確かに女性とは全く縁がないがそれでも男などに走るわけがない。お前のそれは完全なる間違いだ今度口にしたら殺す」
よーしえらいぞ俺!頑張った俺!若干黒いモンも出たが言いたい事は伝わったはずだ!すでに一日の消費量を消化してしまったが仕方ないぜ俺!疲れた!
しかぁし。バイゼン悪党面はまだ疑いの眼差しで俺を見てやがる。なんだよお前。俺から真実という名のパンチでももらいたいのか。溢れんばかりの真実を。
「―――わかったな、バイゼン」
「わわわわかりました!!」
うむいい返事だ。ところで。
「お前はどこからそんな馬鹿げた話を仕入れたのだ」
根源を絶っとかないとね。
「・・・俺が聞いたのは『黒縄封軍は皆隊長のお手付き』だって噂でした」
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・グスッ。
・・・俺、泣いていいよね。今は泣いていいよね。
子供の頃「ゼルドギアの男子たるもの、泣いていいのは小指をぶつけた時と財布を落とした時のみだ。いいなレッド」と家ン中の角に小指をぶつけて悶絶していた親父殿に言われた事あるけどこれはいいよね。
もう家訓に連ねてもいいよね。なので俺は泣きます。
「隊長、大丈夫ですか」
額を覆って俯いてしまった俺に黙って成り行きを見ていた(コイツちらっとも止めなかったな。てかお前は本当にバカな子だねって目で見てたな)副司令官のディーンが声をかける。
大丈夫じゃねぇよどうしようディーン。俺の将来の可愛い奥様がますます遠くなる。なんとかしてくれ!軽く涙目の俺にディーンは
「ま、まぁ何とかしますからこの国を滅ぼすのだけはやめてください」
おまっ!見なさいこの俺を!この半べそかいてるお目目を!そういうのじゃないだろ!それになんでいきなり力技なんだよ!「滅ばした理由?ホモって言われたからさ」ってどんな覇王!?
「・・・滅ぼすわけないだろう」
「そうですか?殺気出まくってますよ」
出てなんかいないですぅ!気のせいですぅ!俺は将来を心配してんの!温かい家庭が!ささやかな夢が!フラグが!
「ではロウコを呼んで下さい。まずは情報集収からです」
「そうだな。すまんがバイゼン、ロウコを呼んできてくれないか」
「すでにおります」
うわぁあ!ロ、ロウコお前・・・何処にいたんだ!全然気がつかなかったぞ!今のお前なら俺を暗殺できるかもだぞ!
「いたのか」
「殺気を出していないので。前の稼業はどんなに消していてもその瞬間は隠しきれませんから」
はーなるほど。いやでもおかしいだろ。お前の反応の良さは如何なものかと隊長は思うよ。
「ロウコ、隊長が男色家という噂は何時からだったかな」
「一週間前だ」
え
「そうだったな・・俺が聞いたのもそれくらいだ」
あれ
「確か・・最初は歩兵達が」
「俺は弓隊で」
「俺は騎馬隊から」
おいおいディーンさん?ロウコさん?あ、もしかしなくても知ってたとか。つうか範囲ひろいな!いやじゃ!
「吊るし上げてみるか」
「任せろ」
もう手遅れな気がしないでもないが、まぁ、いっか!俺が出張ればもっと被害が拡大するかもしれんし。(悲しい事に事実だ)すまんね、私事で動いてもらって。後で酒でも奢るから。
俺は一抹の不安を感じつつ今日の業務を確認した。
フムフム。今日は担当区でもある街の巡回の日か・・・戦地から帰ってきて一週間、漸く街の様子が見られるな。かなり荒れてるって報告書が上がってきてたから気にはしてたんだよ。でも中途半端に偉くなると雑事やデスクワークが半端なくってさぁ。あーでも言い訳だなこれ。みっともねぇからやめやめ。本当はまだまだ書類その他が積まれてるけど今日こそは行かないと!その後で残業でもしよう!社会人は辛いぜ!
馬に乗って城の大門を潜り抜ける。今日の供は兵馬とアレクシアだ。
別についてこんでもいいんだが。「暇ですから」って何よそれ。残業が待ってる俺に対する嫌味ですか?それとも気遣い?どっちでも隊長泣いちゃうぞ。
まず最初に貴族街を通り抜ける。ここは白縄戒軍の担当区だ。白縄の奴らは全員が貴族出身だから勝手がわかるというか、ま、いいんだけど。俺達黒縄封軍は平民街と貧民 (やな言い方だ)街が担当区。俺らもアレクシアを除いて全員がどっちかの出身だ。ディーンは王族だが隣の隣の国だし、第一身分を隠してるから数には入らない。そんでさ、面倒くさい事に白縄の奴らが俺らをライバル視してるっていうか。絡んでくるんだよね。その理由というのは何を隠そう俺にあります。
前~にだけど俺が司令官に就任してすぐのことだったかな、貴族を狙った誘拐事件が立て続けに起こった。でもなかなか白縄では解決できなくて管轄外の黒縄に回ってきてね・・・俺、ちょっと張り切っちゃて白縄が一カ月以上かかってたのを2日で解決してしまったんだ・・・いやあのもっとね空気読めばよかったなと反省しました。白縄の司令官のめちゃ引き攣った顔を見てね。ほんとあの時はすいません。初の大事件にだったもので。
それからだよ、自棄にウチに対抗し始めたのは。マジやめてほしい。あと話す時目逸らすな、震えるな。怖いんなら突っかかってくんな。妙な性癖でもあんのか。俺で精神の鍛錬はやめなさい。絶対あんた等の方が先に潰れるぞ。
貴族達に一様に目を逸らされながら貴族街を抜け、平民街へと入った。誰もが目を逸らす俺の強面だが平民と貧民の皆にはそんなに怖がられていない。俺の希望的観測も交じってるけど。目こそ合わないでも普通に挨拶してくれるし、話しかけてくれるし、頼りにしてくれる。いやぁ頑張って街の治安良くした甲斐があったなぁ。地道に意思疎通をして(最初のぎこちなさといった絶望レベルだった)貴族の圧力にも負けず(睨んだ)昼夜を問わず悪な方々と戦い(睨んだ)裁判にも積極的に参加して(睨んだ)信頼を得たのだよ。あいーむびくとりー!
だけどあの戦争があって俺達の信頼はどこかへと行ってしまったようだ。街の皆さんの目は疑心と怯えが見える。街も以前の活気がなくどことなく薄暗さが目立った。
俺は馬から降りると手綱を牽きながらゆっくり歩いた。兵馬とアレクシアもならう。
くそう。
やっぱり戦争なんか行かなきゃよかった。何とか止めていれば・・・・
戦争ってさ、ただ戦えばいいってもんじゃない。
兵士の給料に食料、武器や防具の調達にその支出、移動の手段でもある馬の餌や馬車なんかのメンテ。野営のためのテント、薪代その他諸々。マジ眩暈がするほどの金が使われる。これ全部税金なんだぜ。勿論王族も金出してるけどほとんどは国民からだ。そんな戦争を一年。しかも俺達がいなくなったお陰で治安も悪化。被害者の数も・・・ため息しか出ない。
なんとかしなくちゃ。
まずはそれぞれの町長達を集めて直に話を聞くか。被害状況や皆さんの要望とか。
反省しきりの俺がある店先に差し掛かった時だった。
バッシャーン!
ポタポタポタ・・・
盛大に浴びた水のせいで髪や服から滴が滴り落ちる。
び、びっくりしたー。前を見ると女の子が肩を怒らせて俺を睨んでいた。