レッド・ゼルドギアと大いなる誤解
俺には忘れられない過去がある。
「・・・・・ええ!記憶がある!・・・タマァァアアアア!!」
これは俺がこの世界に生まれて自我が芽生えた頃、思わず叫んでしまった言葉だ。
そうあれは木之元征司改め、レッド・ゼルドギア4歳。
俺が初めて転生者だと自覚した歳だ。確か夏だった。
そして。
子供のころから無口だった俺から出た意味不明な言葉にテンパった親父殿が病院に駆け込み、
「コイツ頭が!急に!煮えちまっ!ヤベぇって!この顔 (オイイイィイイイ)でこれって!マジ!マジヤベェって!」
と叫び、医者から鎮静剤らしきものを打たれた(親父殿がね)事も俺は一生忘れないだろう。
あのさー普通さーこういうのってさー記憶消しとくもんなんじゃないの。
違う世界に全く違う(強調)人間になるんだよ?こんな記憶あってもね。悩むし、ややこしいし、かなり迷惑だろ。なのになんでそのまま。え?タマ。は?タマ。おい?タマ。
アレかタマ、実はまだ酔っ払ってたのかタマ。素面そうに見えてそうじゃなかったのかタマ。また失敗したのかタマ。でもタマがふわふわの前足を頭にコツンとやって「メンゴ☆」ってやったら全力で許しちゃうかもしれんタマ。いかん語尾がタマになってしまってるタマ。
でもねー俺がこの顔で前の記憶がなかったらどういう奴になってたかなって考えるとあった方がよかったのかなって思う事も、ある。
前の記憶がない、まっさらな俺は多分、
――人なんて平気で殺せるような奴になってた。
お袋殿が亡くなった後、親父殿は彼なりに必死に育ててくれたけど、物凄く孤独だったんだよ、俺。
同年代の子供はいた。でもその親が遊ばせてくれない。学校には通っていたが誰からも、教師からも遠巻きに見られてた。なんか近づいただけで怯えられたり顔強張らせたりすんもんだから可哀そうだし、申し訳なくなっちゃって。そんなんだから友達どころか知り合いレベルもいなかった。空気にはならなかったけどな。そう既に無視できないほどの存在かーんを醸し出していたのですよ。
前の人生じゃこんな事なかった。俺は普通の子供で普通の高校生だったしさ。幸いにもイジメにもあってなかったしシカトされた事もあんまなかった。正直孤独ってもんがこんなに辛いもんだと思ってもいなかったんだ。
一人ってね、大変な深刻な精神的ダメージ。
こういう風になってみるとどんどん自分だけの思考にはまっていく。
他人の痛みを知らない、考えないようになったり、拒絶され続けると人そのものに憎しみがわいてくるようになったり。実際の話、記憶があったって自覚のある俺でも気がつくとめちゃ暗い気分に落ちてる時期があってさ。そん時同級生が嵐の後の増水した川に落ちた事故が目の前で起きたんだけど。
・・・何の感情もわかなかったんだよ、俺。
「あ、流されてる。死ぬかもなあいつ」って考えてた。
周りが騒いでパニック状態になってんのになんとも思ってない自分。一瞬後にハッってなって、慌てて飛び込んだんだけどさ。んでもって助けたんだけど。親共々ガクブルでお礼言われたけども。
そんな事よりもあの時の自分にゾッとした。ほんとにさ、何にも思わなかったわけ。人が死ぬかもしれない場面に、これっぽっちも。冷たくて底がない何かに捕われそうになった気分だった。
俺さ、これはいかんなって危機感もった。この顔、この体躯でこんな薄い感覚で大人になったらいかん。
今は一人かもしんないけど世界は広いはずだ。こんな俺でも友達になってくれる奴やもしかして彼女なんて存在も現れるかもしれん。いや絶対作って見せる!そしてそしていずれ奥さんもらって「笑いの絶えない家庭にしたいです」って結婚披露宴でスピーチすんだ!けしてフラグではない!
よぉおおおおし頑張るぞ!ってだからフラグじゃないもん!
とまぁこれが8歳ぐらいの事なんだけど。
あれから親父殿相手に会話の練習や鏡で笑顔の練習したり(思ってたより破壊的で自分でびっくり)親父殿の蔵書を片っ端から読みまくったり、園芸の助手をしたり。暇なときは裏山に行ってクマっぽい奴と死闘を繰り広げたりとおよそ世間一般に交じっても何とかやっていけるように頑張ったと思う。
そんな人生の目標を掲げてはや22年。
俺は今、自分の執務室でバイゼンの首を締め上げていた。
気分です。それ以外の何物でもありません。多分4話ぐらいで終わります。