間奏「看護師が歩くと医師も歩く」
前回の続きで医者サイドの話。
性転換者がもう一人出てきます。
コツコツコツと静かな廊下に足音が響く。
「彼女、あのまま置いてきてよかったんですか?」
一人の看護師が前を歩く医師に対して声をかける。
「大丈夫だよ。」
医師から帰ってきたのは一言の簡単な返事。
その簡潔すぎる返答にため息を吐いて看護師は話を続ける。
「少なくとも彼女が完全に自分に起こったことを理解するまでは残っていたほうがよかったのではないですか?」
「………。」
「はぁー。
百歩譲ってそれはいいとしても先生が彼女、いえ俊君と同じように性別転換をしたということは伝えてもよかったんじゃないですか。」
医師、いや小澤真砂司はやっと答える。
「いや、言わないほうがいい。」
「どうしてですか?」
「俊君もまだしっかりと自分自身のことを理解しきれていないのに、同類である私が出てきても彼女を混乱させてしまうに違いないよ。」
「そうですかねぇ。
あたしは出てきてくれたほうがよいと思いますけど。」
「これは私達、性転換した人間にしか分からないと思うよ。」
いまだに納得しきれていないような看護師に、苦笑しつつ小澤は言う。
「彼女には早くこの苦難を乗り越えて幸せになってほしいと思うけどね。」
しみじみと呟いた声はしっかり看護師にも聞こえる。
「それは、新婚の先生に言われても…。」
今度は反対に看護師が苦笑をしつつ、小澤の左手の薬指に輝く銀の指輪を見ながら返答する。
「早く君もいい人見つけなよ。」
看護師の肩に手を置き、しみじみと言った後、看護師を置いてそのまま先に進んでゆく。
「こっちだって頑張ってるんですよぉ。」
声を荒げて反論をしながら看護師は医師を慌てて追いかける。
そして、再び廊下には静寂が残った。
まさかの医者が性転換者。
後、二話程度で第一章が終わる予定。
「パンプキンパイには砂糖たっぷりの紅茶がよく似合う。」という中編を書きました。
こちらはTS要素はありませんがもしよかったら読んでみて下さい。