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とある歌姫の受難  作者: 葉二
オープニングステージ
1/11

「出会い、そして…」


私が彼女たちに初めて出会ったのは、今から半年ほど前になる。

私は家に帰る途中だった。


いつものように歩いて駅まで行く。

「寄り道していたら、少し遅くなってしまいました。早く帰らないと。」

いつも以上の早足で歩く。 

 

それはいつも通り何事もない日常。

私にとっての平穏(日常)が破られたのはその時である。


それは一曲の歌、いやそんな簡単に表現してよいものじゃない。

それは音楽(ミュージック)だった。


 私はそれに聴き惚れた。

曲には特に光る点はない。

この程度のレベルの路上ミュージシャンなどいつも掃いて捨てるほどいるだろう。

けれども私が聴き惚れてしまったのはなぜだろうか。


後に彼女たちが私達の仲間となったとき、機会があったので聞いてみた。

彼女は嬉しそうに、 

「先輩、それは私の相方が『歌を歌う』のではなく、『人に聞いてもらう』ために歌っているからですよ。」

と熱弁し、

それを聞いた相方が、

「そんなことないですよ。僕と普通の路上ミュージシャンとの違いなんて、少し年が若かったぐらいですよ。それに先輩がたまたま僕らの音楽が気に入っただけです。」

と言った。


 二人の意見のうち、どちらが当時の私を突き動かしたのかは分からない。

その音楽に聞き惚れている自分に私自信が気がついた後、すぐに私がその演奏者たちを探そうとしたのは当然の行動だろう。

私は急いで帰ろうとしていたことなどすっかりと忘れて、その音楽の大本を探し始めた。






 私が探し始めてから、30分が経過した。

もう帰ることなどすっかり頭の中になかった。

まだ曲は変わったものの音楽は続いているが、路上演奏ではいつ終わりになるのかは分からない。

「やっぱり、聴覚の情報だけで演奏場所を特定するのはなかなか難しいですか。」

ほっ、と一つため息をつき、再び真剣に探し続ける。

それから数分後、

ぱらぱらぱら、というまばらな拍手の音が聞こえた。

思っていたよりも近い。


私は珍しいことに少し焦っていた。

拍手があったいうことは曲が終わった、ということである。

そして曲が終わってから少し時間がたつのに次の曲が演奏される様子がない。

ということは演奏者たちが演奏道具を片づけていると考えるのが妥当だろう。

「急がないと帰ってしまう。」

私にしては珍しく大慌てで、周囲を見渡す。

すると、路地の途中に人影が見えたので急いでその場に向かう。


そうして、人が集まっているのに遭遇した。

けれど、演奏者の姿はもうない。


「こっ、ここで演奏してた方たちはどこにいったか分かりますか?」

すぐ近くにいた男性に聞いてみる。

「ああ、向こう側へ行ったよ。」

すると男性は走ってきたために息も絶え絶えになってでも喋る私を不思議そうな眼で見ながら教えてくれた。


 「ありがとう」の言葉もそこそこに、

その方向をみるとギターとアンプを持った二人組が路地を歩いているのを見つけた


慌てて、私は二人組を追いかける。

二人組は気がつかずに(かど)を曲がる。


私は追いかける。

二人は角を曲がる。

追いかける。

角を曲がる。

追いかける。

角を曲がる。

   ・ 

   ・

   ・

 (以下略)


わたしはふたりぐみをみうしなってしまった。



二人組を探そうと勇み立っていたのが嘘のように脱力。

電柱に寄りかかり、私らしくもなく大きなため息をつく。

「はぁー。少し探して帰ろうと思っただけなのにとんだ無駄足になってしまった…。」



仕方がないので、帰ろうと反対側を向いた。

(ほお)一滴(ひとしずく)の冷たい汗が流れ落ちる。



 「ここ…どこだ…。」




2013/11/14 サブタイトル全編変更しました。

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