冒険者の町へ
誤字脱字、辻褄が合わない等ご指摘がありましたらお願いします
「カイゼル様、町が見えてきましたよ」
森を抜けしばらく歩いた頃、ディーナの指差す先に堅牢な城壁が見えてきた。
「思っていたよりも大きな町だな。城壁があるということは、城があるのか」
「はい。グレイセルの町は、グレイセル王の治めるグレイセル王国の中でも最大級の城下町ですから」
「グレイセル王‥‥冒険者から一国の王に駆け上がった英傑だな。ではここはグレイセル王国の領内ということかな?」
ネメフェアから授かったこの世界に関する情報のおかげで、カイゼルはすぐにその名に思い当たった。グレイセル・ブレンドン。平民出身の冒険者ながらその活躍によって貴族の位を授かり、遂には国を建て王になった人物だ。
「そうです。冒険者出身の王が治めるこのグレイセル王国は、冒険者と交易の国として栄えています。中でもこのグレイセルの町は冒険者ギルドの本部がありますから、世界中から冒険者達が訪れる町として有名です」
「冒険者か‥‥」
カイゼルはそれきり黙ったまま考え事をしているようだった。
「よし決めた。冒険者になろう」
ずっと黙り込んだまま歩いていたカイゼルがそう言ったのは、城壁の入り口がはっきりと見えるほど町に近づいた頃だった。
「冒険者なら私の剣の腕も活かせるし、何より他の仕事より縛られるものも少ない。自由に生きてみたいと思っていた私にはぴったりだ」
「でしたらまずは冒険者ギルドへ向かいましょう。そこで登録すれば依頼を受けられるようになりますよ」
「分かった」
そんな話をしながら二人は城壁の入り口である、大きな門に辿り着いた。門の前には甲冑に身を包んだ衛兵が二人、それに町へ入る人物を記録している軽装の兵士が一人立っている。町へ入る人達は、皆そこで銀色に光る金属板を兵士に見せていた。
「カイゼル様、これをあの兵士に見せてください」
そう言いながら、ディーナはカイゼルに、皆と同様の小振りな金属板を手渡した。
「これが身分証なんだね」
金属板にはカイゼルの名前等の情報が彫り込まれている。大きな町や国境を越える際には、これを持っていないと通行ができないようになっているのだ。
「しかし、ネメフェア様にこの世界の知識を授かっていなかったらと思うとゾッとするよ」
身分証の事もそうだが、もしなんの知識も持たずに転生していたら、気づかない内に様々な問題を引き起こしていただろう。カイゼルは改めてネメフェアに感謝した。
「次の方、どうぞ‥‥」
順番が回ってきたらしく、兵士に呼ばれ前に進み出たカイゼル達。だが兵士の様子がおかしい。身分証の提示を求めることもせず、目を見開いたまま固まっている。
「どうかされましたか?」
カイゼルが声をかけると、兵士は我に返った。
「し、失礼。身分証の提示をお願いします」
ギクシャクとした動作でカイゼル達から身分証を受け取る兵士。その動きが、カイゼルの身分証を見た途端再び固まった。
「?何か不審な点でも?」
「い、いえ!身分証をお返しします。通って結構です」
「ありがとうございます」
カイゼルは微笑みながら身分証を受け取り、門をくぐった。
「さっきの兵士、様子が変だったけど何だったんだろうな」
歩きながらカイゼルが呟く。
「カイゼル様はもう少しご自分の容姿というものを理解された方が良いかと思います」
ディーナの言葉を理解できなかったカイゼルは、不思議そうに首を傾げるのだった。