その刃の名は
だいぶ間を置いてしまいました
「本当に貴方は無欲ですね‥‥分かりました。では準備を始めましょう」
そう言いながら、ネメフェアはカイゼルの頭に手を置いた。その手が青白い光を帯びる。
「!?これは‥‥」
ネメフェアの手が輝き出すと同時に、カイゼルの頭の中に膨大な情報が入り込んできたのだ。
「今頭の中に入って来ているのは、貴方がこれから転生する世界で必要な言語、通貨、習慣などの情報です。赤子からの転生ならば成長するにつれて学習できるのですが、今回はそういうわけにはいきませんから。ところでカイゼル、魔法は知っていますね?」
「はい。私が居た世界にも魔法はありました。私は魔力を持っていなかったので使えませんでしたが」
「では、魔力も付加しておきましょう」
情報の流入が終わると同時に、カイゼルの体の中に今まで感じたことがない感覚の力が入ってくる。
「これが‥‥魔力‥‥」
「そうです。常人より少し強い魔力を与えておきます。これで貴方も魔法が使えるようになりますよ」
全ての作業が終わり、ネメフェアがカイゼルの頭から手を離した。
「さて、次が最後の準備です」
ネメフェアが指を鳴らすと、彼女の背後に銀色の扉が揺らめきながら現れた。
「さあ、入りなさい」
ネメフェアに促され、カイゼルはその扉を開けた。
「これは!?」
扉を開けた先は広い部屋になっていた。そして部屋一杯に整然と並べられているのは剣や槍、鎧などの武具の数々。
「この中から貴方が気に入った武具を一つ選びなさい。それを貴方に授けましょう」
「!?ですがそれは‥‥」
断ろうとするカイゼルを、ネメフェアはゆっくり手で制した。
「断らないでくださいね。貴方の要望は欲がなさ過ぎてこちらが心苦しくなってしまいます。このくらいの事はさせてください」
「分かりました。遠慮なく受け取らせていただきます」
そう言うとカイゼルは手近にあった剣を手に取ってみた。非常に凝った造りの柄、鋭い輝きを放つ刀身、価値を知らない者が見ても一目で良いものだと分かる。見回してみれば、並べられた武具はどれもがなかなかの逸品ぞろいだということが見て取れた。その一つ一つを手に取り、または眺めながら見て回るカイゼル。そして、その中の一振りがカイゼルの目に留まった。
「これは‥‥」
カイゼルの目に留まったのは、両刃の長剣だった。緻密な彫刻が施された柄頭や鍔、刀身は特殊な金属を使っているらしく、漆黒の輝きを放っている。だがカイゼルの目を引いたのはその刀身の表面、稲妻のように無数に走る亀裂だった。ただの亀裂ではないようで、うっすらと青白い魔力を纏わせている。
「変わった剣に目を付けましたね。その剣は魔剣、世界蛇。ある魔族の鍛冶師が打った剣です。使い方を教えましょう。剣を持ってみてください」
言われるままに剣を手にしたカイゼルは、その余りの軽さに驚いた。
「剣を持ったまま、開封と唱えてみてください。頭の中で思うだけでも良いのですが、最初は口に出した方が良いでしょう」
カイゼルは頷くと、言われたとおりの言葉を口にしてみる。
「開封」
カイゼルがそう口にした瞬間、刀身に劇的な変化が現れた。




