転校生
今回少し短めです。
「皆さん、席についてください」
毎回この担任の一声から学園の一日が始まる。その後出欠席を取り、簡単な連絡事項を伝えてから最初の授業が始まるのだ。だが、この日は少し違っていた。
「今日は皆さんに転校生を紹介します」
連絡事項を伝え終わった後、担任の発した言葉に教室がざわついた。
「急な話ですが、ご家族の仕事の都合でこちらへ引っ越してきたそうです。お入りなさい」
担任に促され、一人の少女が教室に入ってくる。小柄だがしなやかな体躯。短く切られた黒髪に、髪と同じ漆黒の瞳。凛とした空気をまとう少女は、教室を見渡すと静かに一礼した。
「レイチェル・ウォルフレッドです。どうぞよろしく」
簡潔にそれだけ言うと、彼女は頭を上げた。
「レイチェルさんの席は‥‥一番後ろが空いているわね」
担任が指示したのはちょうどカイゼルの真後ろの席だ。
「皆さん、レイチェルさんと仲良くして下さいね。ではこれで」
レイチェルが席に着いたのを確認し、担任は教室から出て行った。
「レイチェルさんでしたね。私はイゼルです。これからよろしくお願いします」
「私はセシル。よろしくね」
カイゼルとセシルが声をかけると、レイチェルは優しい笑顔を浮かべた。
「こちらこそよろしく」
その後最初の授業が始まるまで、レイチェルは周りの生徒達の質問に答えたり雑談に花を咲かせた。見た目と雰囲気から冷たい印象のレイチェルだったが、話してみるとそんなことはなく、あっと言う間にクラスに溶け込んでいった。しかし──
人知れず邪悪な笑みを浮かべたレイチェルに気づいた者は誰もいなかった。