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魔の手(???Side)

「へえ‥‥なかなかやるじゃない」

 

そう言いながらその人物は、目深にかぶったフードから僅かに覗く口元をニヤリ、と歪めた。顔は隠れていて分からないが体格や声からして女性、それもまだ少女のようだ。

 

「これだけ離れた場所からの殺気に反応して即行動に移せる。良い腕だわ」

 

自分の言葉に納得したかのように彼女は一つ頷くと、踵を返した。

 

「今日は様子見。またお会いしましょう、可憐な姫君を守る勇敢な騎士様」

 

楽しげにそう言い残し、彼女はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

淑女(レディ)を待たせるなんて、とんだ紳士様ね」

 

夜の帳が下りた町外れの廃屋。先刻の少女はその一室に置かれた古いテーブルに頬杖をつきながら、退屈そうに呟いた。室内でもフードは取らず、その顔を伺うことはできない。

 

「ふん!貴様が淑女(レディ)?笑わせるな暗殺者風情が!」

 

忌々しげに吐き捨てたのは、彼女の向かいに腰掛ける男。でっぷりと肥え太り、悪趣味なまでに着飾っている。

 

「‥‥で?こんなところに私を呼んだ理由を聞かせてもらえるかしら」

 

男の罵倒をさらりと受け流すと、少女はそう切り出した。途端に男はテーブルに拳を叩きつける。

 

「理由!?そんなものは依頼した件に決まっているだろう!」

 

男の怒声と、テーブルに叩きつけた拳の音が廃屋に響き渡った。

 

「依頼がどうかしたの?」

 

男の怒声にも全く怯むことなく、少女は頬杖をついたままそう言った。その態度が更に男の怒りを誘う。

 

「どうかしたの、だと!?貴様が依頼を受けてからどれだけ経ったと思っている!その間貴様は何もせずに‥‥!いつになったらセシルを亡き者にできるのだ!」

 

再び男はテーブルを殴りつけた。

 

「怒りっぽい男は嫌われるわよ」

 

呆れたような少女の物言いに、叩きつけた男の拳が激しい怒りに震える。

 

「あなたに指図されなくても標的は消すわ。グダグダ言ってないでただ待ってればいいのよ」

 

憤慨する男の様子をフードの奥からつまらなさそうに見やりながら、少女はそう言った。

 

「ふん!偉そうに‥‥この調子では音に聞こえた影狼の名も大したことはなさそうだな!」

 

少女への怒りを堪えながら男が吐いた言葉。それは彼女の態度に対するちょっとした意趣返しのつもりだったのだろう。しかし男の言葉を聞いた次の瞬間、少女の顔から表情が消えた。

 

「お前の二つ名、影狼の噂は聞いている。今までに受けた依頼は全て成功させてきているとな。だが所詮は噂、とんだ期待外れだったようだな!」

 

少女の顔から表情が消えたことに気づかず、男は更に言葉を続ける。

 

「しかも女、それもまだガキときてる!こんな事なら他の暗殺者にっ‥‥!」

「そこまでよ」

 

──ひたり──

 

男の言葉を遮ったのは、いつの間にか背後に回った少女が男の首筋に当てたナイフだった。

 

「良く喋る男ね‥‥二度とその口開けなくしてやろうかしら」

 

抑揚のない声で少女は男に囁いた。

 

「ひっ!?」

「もう一度言うわ。あなたはグダグダ言わずにただ待ってればいいのよ」

「わ、分かった!」

 

先程よりも強く首筋に押し当てられたナイフに、男の顔が恐怖に歪む。

 

「次に会う時には良い報せを聞かせてあげるわ」

 

それだけ言い残すと、少女は夜の闇に溶けるように立ち去った。残された男は命が助かったという安堵のあまり、その場にへたり込む。

 

「忘れていた‥‥影狼‥‥腕は確かだが気まぐれな性格‥‥そして何よりも‥‥」

 

──名を汚されるのを嫌っている──

 

恐怖で未だに早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように深呼吸しながら、男は少女が立ち去った暗闇の先をただ見つめるのだった。

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