接触
遅くなりました(*_*;
教室に入った瞬間に視線がこちらに集中するのを感じたが、視線に慣れてきたカイゼルはそれをスルーし、今回の護衛対象であるセシルを探した。
(ギルド長が学院長にクラスを一緒にしてもらうように頼んだと言っていたのだが‥‥)
事前に貰った資料でセシルの容姿を把握していたカイゼルが教室を見渡す。
(いた。彼女だ)
栗色の緩く波打つ髪に、快活そうな輝きを宿した褐色の瞳。資料に記載された容姿と添付されていた肖像画とも一致する。教室の窓側、やや後方の席に今回の護衛対象、セシル・フラムレイルは座っていた。
「それではイゼル様、私はここで」
「ええ。ありがとうディーナ」
ディーナは優雅に一礼すると、教室から出て行った。メイドは授業に出るわけではないので、朝と休み時間、放課後以外は別室で待機となるのが、この学院の決まりだった。
「席順は決まっているのね」
教室の机の上、その全てに名前が書かれているプレートが置かれているのを見て、カイゼルはそう呟いた。席をぐるりと見渡し自分の席を探すと、席はセシルの右隣にあった。恐らく偶然ではないだろう。学院長がそうなるように取り計らってくれたのだ。カイゼルはまっすぐに自分の席に向かうと椅子に腰掛けた。
(さて、まずは挨拶でもしておこうか)
そう思ったカイゼルがセシルの方へ顔を向けると、ちょうど彼女と目が合った。そちらを向くとは思っていなかったのか、少し驚いたような表情を浮かべるセシルに、カイゼルは微笑みながら話しかける。
「初めまして。私、イゼル・セグナムと申します。隣同士、仲良くして下さいね」
「わ、私はセシル・フラムレイル。こちらこそよろしく」
緊張しているのか、少しつっかえながらセシルが言葉を返す。
(さて、後は相続手続きが済むまで護衛をするだけだな)
カイゼルがそんなことを考えながら今後の予定に思いを巡らせていたその時
「イゼルさん、でしたわね」
そんな言葉と共にカイゼルの周りを女生徒達が取り囲んだ。
「はい、そうですが‥‥?」
突然の出来事に驚くカイゼル。
「先程から見ていたのですけれど、あなた‥‥」
女生徒の言葉に、カイゼルは正体がばれたのでは、と身構えた。しかし続けて女生徒の口から紡がれたのは、想定外の一言だった。
「とっても綺麗ね!」
「えっ!?」
理解が追いつかず呆然とするカイゼルに、周囲の女生徒達は畳み掛けるように話しかけてきた。
「本当にお綺麗です!イゼルさんが教室に入ってきた途端に皆目が釘付けになりましたもの!」
「ええ!瞳も美しい銀色ですし、その黒髪もとっても艶やかで‥‥」
「あ、ありがとうございます‥‥」
圧倒されたカイゼルは、そう答えるだけで精一杯だった。しかし、周囲からの賞賛と質問の嵐は止むことがない。
(何故こんな騒ぎに‥‥早く終わってくれ!)
表面上は笑顔で女生徒達に対応しているがパニック状態のカイゼルは胸中でそう叫ぶ。しかし、この騒ぎは1ーAを受け持つ教師が教室に入ってくるまで続いたのだった。