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エレンの秘策

エレンが鞄から取り出したのは

 

透明なスライム状の物体

 

としか説明ができない物だった。

 

「‥‥何ですこれ?」

 

思わずカイゼルは質問した。使用方法が全く不明な謎の物体。カイゼルの中で嫌な予感が大きくなっていく。

 

「これは『モーフィングジェル』という変装用魔道具です。冒険者ギルドの開発部が作った自信作ですよ」

「なるほど。それでそのモーフィングジェルで何をするんですか?」

 

カイゼルの問いにエレンは微笑んだ。

 

「これでカイゼルさんに『胸』を作るんです」

「お断りします!」

 

エレンの言葉が終わるか終わらないかの内にカイゼルは即答していた。

 

「何なんですか胸を作るって!詰め物をすれば済む話でしょう!?」

「詰め物は途中で位置がずれたり、落ちてしまう危険性がありますから却下です。その点このモーフィングジェルは、カイゼルさんの肌と一体化するのでずれたり落ちたりする心配がありません」

「しかしですね」

「女学院に女装して潜入していたなんて、もしばれたら完全に変態扱いされますよ?」

「‥‥」

 

エレンの言葉に、カイゼルは何も反論できなかった。

 

「モーフィングジェルなら万が一裸の胸を見られてしまっても男だとばれません。これはカイゼルさんのためなんです」

「本当に私のためですか?」

「ええ」

 

カイゼルがそう言うと、エレンは力強く頷いた。

 

「私がそのモーフィングジェルをつけて胸ができたら楽しそう、なんて邪な気持ちは欠片もないんですね」

「‥‥‥‥ええもちろん」

「‥‥今の間は何ですか全く。分かりました着けますよ。男だとばれたらまずいのも確かですし。で、これはどうやって着けるんですか?」


カイゼルが諦めてそう言うと、エレンは嬉々として説明を始めた。

 

「着けるのは簡単です!服を脱いでからカイゼルさんの胸にモーフィングジェルを当てて、『一体化(インティグレイション)』と唱えるだけです」

「‥‥また服を脱ぐんですか」

 

カイゼルは溜め息をついた。この制服は男物の服と違い、着たり脱いだりが少々ややこしい造りをしているのだ。面倒だが仕方ないと、カイゼルは頷いた。

 

「私達はまた外に出ていますので、着け終わったら呼んで下さい。ディーナさんはまたカイゼルさんの補助をお願いします」

「分かりました」

 

そう言い残し、エレン達は部屋を出ていった。

 

「はあ‥‥やるしかないか」

 

カイゼルは深い溜め息をつくと、制服を脱いで、胸にモーフィングジェルを当てた。

 

一体化(インティグレイション)

 

カイゼルがその言葉を発した瞬間、モーフィングジェルに変化が現れる。ジェルがまるで生き物のように蠢くと、カイゼルの胸にぴったりと張り付いたのだ。張り付いたジェルは瞬く間に豊かな双丘を形作ると、次にその色と質感をカイゼルの肌の色、肌質と寸分違わぬまでに変化させていく。さほど待たずにカイゼルの胸には、本物と比べても分からないほどしっかりした乳房が形成されていた。

 

「これは凄いな‥‥ジェルと自分の肌との境目が全く分からない」

 

カイゼルは驚きながら、ジェルで作られた胸を触ってみた。

 

「肌の質感まで再現できるのか。これなら確かにばれる心配はなさそうだな」

「カイゼル様、そろそろよろしいでしょうか?」

 

カイゼルがあちこち触って感触やバランスを確かめていると、ディーナから声がかけられた。

 

「ああ、すまない。ディーナから見ておかしな部分はないかな?」

「はい、違和感はありません」

 

そう答えるディーナ。

 

「良かった。じゃあ服を着ようか」

「カイゼル様、お待ち下さい」

 

再び制服を着ようとするカイゼルを、ディーナが止めた。

 

「制服を着る前にこちらを着けていただきます」

 

ディーナの手にある物を見て、カイゼルは硬直した。

 

「‥‥着けなくても良いんじゃないか?それは」

「いえ、とても大切な物です」

 

ディーナの手にしていた物、それは女性特有の下着。所謂ブラであった。

 

 

 

 

 

 

「これで完璧です」

「‥‥男として大切な何かを失った気分だ」

 

あの後頑強に抵抗したカイゼルだったが、結局ディーナの説得に負ける形でブラを着ける事になった。

 

「カイゼルさん、入りますよ‥‥あらまあ」

 

ディーナに呼ばれて部屋に入って来たエレン達は、揃って目を丸くした。

 

「これで完璧に女性ですね、カイゼルさん」

「言わないで下さい‥‥」

 

モーフィングジェルの胸がついたカイゼルは、どこから見ても完璧に女性だった。

 

「胸元もこれなら違和感がありませんね」


エレンの言うように、ジェルで作られた胸のおかげでカイゼルの胸元にあった違和感はすっかりなくなっていた。

 

「それでは今日はこれで終わりにしましょう。外見はこれで完璧ですから、明日からは内面、女性らしい仕草や特有の決まりなどを、ここにいる全員で教えていきますからね」

 

これから先の苦難の道のりを想像してげんなりするカイゼルをよそに張り切る女性陣であった。

実際には冒険者をしているような男性が女装しても体格などですぐばれるとは思いますが、そこはご都合主義と言うことで。

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