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潜入準備

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翌日、ギルドの一室にカイゼルはいた。

 

「何故こんな事に‥‥」

 

カイゼルはがっくりと肩を落としながら、そう呟いた。女装して潜入と聞いてすぐに依頼を辞退しようとしたカイゼルだったが、ナヴァルとコナーに半ば押し切られるような形で依頼を受ける羽目になってしまったのだ。そして今、カイゼルの目の前にはアテナ女学院の制服が置かれている。部屋にはカイゼルの他にディーナ、フェリシア、ブレイガード、エレンがいた。

 

「カイゼル様、受けてしまった以上は仕方がないかと」

「分かってるよディーナ‥‥」

 

冷静な発言をするディーナに、カイゼルは力無く言葉を返す。

 

「それでは今からカイゼルさんには、化粧の仕方を覚えてもらいます」

 

どこか楽しげにエレンがそう言うと、カイゼルを鏡台の前に座らせた。

 

「一応お聞きしますがカイゼルさん、化粧の経験は?」

「あるわけないでしょう‥‥」

 

エレンの質問に、カイゼルはげんなりしながら答えた。

 

「まあそうですよね‥‥」

 

そう言いながら、エレンはカイゼルの顔をしげしげと見つめている。

 

「しかし見れば見るほどきめ細かくて白い肌ですね。これなら化粧は薄くても問題ないでしょう」

 

そう言うとエレンは傍らの小物入れから様々な道具を取り出した。どれもカイゼルが見たこともない品だ。

 

「こちらが化粧道具です。カイゼルさんのために買った物ですので、アテナ女学院にはこちらを忘れずに持って行ってくださいね」

 

その間にも小物入れからは次々と化粧道具が取り出され、鏡台の前に並んでいく。

 

「エレンさん‥‥これ全部使うんですか?」

「当然です。これでも少ない方ですよ?」

「そうですか‥‥」

 

その余りの道具の多さにカイゼルは憂鬱になった。

 

「さて、準備もできたことですから早速始めましょう。しっかりやり方を覚えてくださいね」

 

道具を手に目を輝かせるエレン。カイゼルは観念して目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「よし、完成です!」

 

カイゼルにとって永遠にも感じられる時間がついに終わった。カイゼルに化粧を施しながら説明をしていくエレンの言葉を聞き、時にメモを取りながらの苦行とも思える時間。だが、その時間は無駄ではなかったようだ。

 

「お綺麗ですよ、カイゼル様」

「これは凄いな‥‥」

「これならアテナ女学院でも絶対男性だとバレませんね」

 

ディーナ、ブレイガード、フェリシアの言葉に、エレンは満足げに何度も頷いた。

 

「やはり元々の素材が良いですから、薄い化粧でも充分ですね。どうですかカイゼルさん?なかなかのものでしょう?」

「不本意ですが、確かに凄いですね」 

 

鏡の向こうのカイゼルの顔は、化粧によって完全に女性のそれに変わっていた。さほど濃い化粧ではないため派手な印象はないが、それが逆に上品な美しさを引き出している。今のカイゼルを見て、男だと見抜ける者はそういないだろう。それほどまでに完璧なエレンの仕事だった。

 

「それでは次に制服を着てみましょうか」

「‥‥着なければいけませんか?」

 

エレンの言葉に、カイゼルは制服に目をやった。黒を基調とした落ち着きのあるデザイン。それは良い。だが、カイゼルを躊躇させているのは制服の下の部分。そう、スカートである。生まれてこの方、当然ながらスカートなど身に着けた事のないカイゼルは、スカートを着用することにかなりの抵抗があった。

 

「今着てもらいます。実際に着てみてサイズ調整をしなければいけませんし、制服の着方も覚えてもらわなければいけませんので」

「しかしスカートは‥‥」

 

その言葉でカイゼルが躊躇う理由を察したのか、エレンはにっこりと笑った。

 

「大丈夫です。かなり丈の長いスカートですから脚はほとんど露出しませんし、何回か身に着ければすぐに馴れますよ」

「‥‥分かりました」

「それでは私達は部屋の外で待っていますから、着終わったら呼んで下さい。ディーナさん、カイゼルさんに着方を教えて上げて下さいね」

「はい」

 

そう言うと、ディーナ以外の女性陣は部屋の外へ出て行った。

 

「ではカイゼル様、始めましょうか」

「ああ、ぐずっていても仕方ない。始めよう」

 

ディーナに促されるまま、カイゼルは制服に着替えだした。

 

 

 

 

 

 

制服を着るのにはかなり苦戦したが、ディーナの手助けもあって何とか着る事ができた。

 

「カイゼルさん、着られましたか?」

 

扉の向こうから、ノックと共にエレンの声が聞こえてくる。

 

「ええ、何とか。入って来ても大丈夫ですよ」

「はい、失礼しますね」

 

そう言いつつ部屋へと入ってきたエレンは、カイゼルの姿を見るなり目を丸くした。続いて入ってきたフェリシア、ブレイガードも同様の反応だった。そのまま沈黙が続く。

 

「あの‥‥どこかおかしいですか?」

 

沈黙に先に耐えられなくなったのはカイゼルだった。自分の姿にどこかおかしな部分があるのか心配になり、思わずそう訊ねる。

 

「いえ、余りに似合い過ぎていて驚きました。」

「制服を着ると、本当に女性にしか見えませんわね」

「全くです。カイゼル殿が男性だと分かっている我々でさえ、一瞬女性に見えますから」

「‥‥一応褒め言葉として受け取っておきます」

エレン、フェリシア、ブレイガードの何とも反応に困る感想を聞きながら、カイゼルは複雑な表情を浮かべた。

 

「見たところサイズも問題なさそうですね」

「ええ、ただどうしても胸の部分が‥‥」

 

そう言うとカイゼルは制服の胸部を押さえた。この制服は女性らしいラインが綺麗に見えるようにデザインされているようなのだが、カイゼルには女性のような胸がない。そのためどうしても胸周辺に僅かな違和感が出てしまっていた。極僅かな違和感。だが、何がきっかけで正体がばれるか分からないのだ。リスクは減らしておきたかった。

 

「その点に関しては心配ありません。これを使います」

 

カイゼルの心配に対して何か秘策があるのか、エレンは胸を張ってそう答えると、部屋に入ってくる時に持ち込んでいた鞄を開けた。

 

(何故だろう、嫌な予感しかしない)

 

自信たっぷりのエレンの顔を見ながら、カイゼルはそう思うのだった。

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