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閑話 銀の鎚

閑話のクセに本編より長くなってしまいました(*_*;良かったら呼んでやって下さい。

「ここが銀の鎚か‥‥」

 

グレイセルの郊外にある一軒の店の前で、俺は立ち止まった。俺の名はモーヴ・カナード。冒険者の端くれだ。ここ最近冒険者の間で良く話題に挙がる店がある。それがここ、銀の鎚だ。駆け出しの冒険者達は

 

「良質の武具が良心的な値で売られている」

 

と口を揃え、また知り合いの鍛冶師は

 

「近頃見ないほど丁寧な仕事で鍛えられた武器が売られている。最近の若い鍛冶師達も見習うべきだ」

 

と、興奮した口調で話していた。更には女好きで有名な冒険者は

 

「絶世の美女が二人で店を切り盛りしている。彼女達を見に行くだけでも価値がある」

 

と、だらしなく鼻の下を伸ばしながら話していた。そんな今話題の店、俺も一度は足を運んでみなければと思い、今日実際に来てみたというわけだ。

 

「さて、それでは入ってみますか」

 

俺は一人そう呟くと店の扉を開け中へと入った。

 

「いらっしゃいませ」

 

店の奥、カウンターの向こうから声がかかる。見るとそこには、滅多にお目にかかれない程の美しい女性が微笑んでいた。蜂蜜色の長い髪に、大きな翠玉の瞳。俺は彼女の美しさに見とれてしまっていた。

 

「本日は何をお探しですか?」

「あ、ああ、剣を見せてもらおうか」

 

かけられた声で我に返った俺はそう答えた。

 

「そうですか。剣ならばそちらの棚にございます。ご自由に手に取ってご覧ください」

 

笑顔で彼女が指した棚には大小様々な剣が陳列されていた。俺はその中の一振り、両刃の片手剣を手に取ってみる。

 

「実にしっかりした造りだ。仕上げも素晴らしい」

 

剣を手に取った俺は思わずそんな感想を口にしていた。シンプルで質実剛健を絵に描いたような頑丈な造りの片手剣。しかしながら随所に施された装飾は、過美にならない程度に上品な美しさを見せている。実用性と美麗さを見事なバランスで取り入れた剣だった。

 

「少し振ってみても良いだろうか?」

「構いませんよ」

 

俺がそう言うと、彼女はにこやかにそう答えてくれた。許可が下りたので、俺は軽く構えて剣を振る。

 

「重量配分も申し分ない。これは良い剣だな」

 

思わず笑みがこぼれた。重量配分がおかしな剣は、振り辛い上に使用者の疲れも早くなる。だがこの剣は自分の思った通りに振ることができる。その扱いやすさに驚き暫く構えたり振ったりを繰り返していると、視線を感じて俺は手を止めた。視線の主はカウンターの向こうの彼女だ。いつの間にか顔から笑顔が消え、真剣な表情でこちらを見ている。

 

「お客様。失礼ですが、お客様は普段両手剣をお使いなのでは?」

「なぜそれを!?」

何を言われるのかと思っていた俺は、彼女の言葉に驚きを隠せなかった。確かに俺は普段、片手剣ではなく両手剣を愛用していたからだ。

 

「構え方や剣の振り方からの推測です」

 

事も無げに彼女はそう答えたが、構えや剣の振り方だけで普段使っている武器を見破るなどなかなかできることではない。もしかしたら彼女自身なかなかの使い手なのかもしれないと、俺は感じた。

 

「確かに普段は両手の大剣を使っているが、最近行き詰まりを感じていてね‥‥他の武器も試してみようかと思って今日は寄らせてもらったんだ」

「そうでしたか。ところでお客様、両手剣以外に何か得意な武器はございますか?」

「そうだな‥‥一時期ハルバードを使ってはいたが‥‥」

「なるほど、少々お待ちください」

 

俺の答えを聞くと彼女は奥の扉を開け、その向こうに消えた。そして待つことしばし、彼女が戻って来た。もう一人、途轍もない美女を連れてだ。紫水晶の色をした長い髪に褐色の肌。額に小さな角があるのは、彼女が魔族だからだろう。先程の彼女とはまた違う美しさの女性だった。

 

(確かにこの二人を見に来るだけでも価値がある‥‥)

 

二人の美しさに魅入られながら、俺は呆然とそんな事を考えていた。

 

「いらっしゃいませ。私は当店の鍛冶師、フェリシアと申します。こちらは店員のブレイガードです。ところでお客様は新しい武器をお探しとか」

「ああ、そうだ」

 

気を取り直すと、俺はそう答えた。

 

「お客様は、両手剣とハルバードが使えるとお聞きしております。それを考慮に入れまして‥‥こちらなどはいかがでしょうか」

 

その言葉と共にフェリシアさんは、カウンターの上に布でくるまれた何かを置き、布を解いた。

 

「これは‥‥」

 

露わになったそれを目にし、俺は驚愕した。剣の柄と呼ぶには余りに長く、ポールウェポンの柄にしては少しばかり短い革巻きの柄。そしてあろうことかその両端には、両手持ちの大剣よりも少し細身の刀身が輝いている。長さだけを見れば間違いなくポールウェポンなのだが、その刃はどう見ても刀剣のそれだ。

 

『奇剣』

 

正にその呼び名が相応しい武器がそこにはあった。

 

「これは私が試作した武器で、銘を『テンペスト』といいます」

「テンペスト‥‥」

 

『嵐』という意味の銘を与えられた奇剣は、細部に至るまで施された大胆にして繊細な装飾と、その見たこともない奇妙な、しかし美しい形状で一瞬にして俺の心を捕らえていた。

 

「いかがでしょうか?よろしければ振ってみますか?」

「是非!」

 

フェリシアさんの言葉に俺は即答した。

 

「かしこまりました。ここは手狭ですので、店の裏手に移動しましょう」

 

ワクワクしながら頷くと、俺はフェリシアさん達と店の外へ向かった。

 

 

 

 

 

 

店の裏手は空き地になっており、剣を振るには十分なスペースがあった。

 

「お客様、それではこちらをどうぞ」

 

ブレイガードさんからテンペストを渡された俺は、まず重量配分が完璧なことに驚いた。柄の中心を握ると、それが良く分かる。左右の刀身の重量を、しっかりと均一にしてあるのだろう。俺はテンペストを構えると、二度、三度と振る。続けて突き、払い、切り上げる。

 

(これは凄い!)

 

俺は我を忘れてテンペストを振るい続けた。振れば振るほどこの剣の良さが見えてくる。まずはリーチの長さだ。柄が長い分、当然ながらリーチも長い。これは戦闘時に非常に有利だ。続いて威力が高い。両端の刃は十分な厚みと重量がある。加えて柄の中心を持って回転させてから打ち込めば、遠心力も加算され更に威力が増すはずだ。更にはこれだけ長く、重い武器の割には隙が少ない。一撃目を避けられても、手首を返すことですぐに反対側の刃で二撃目に移行できるからだ。その形状ゆえに扱いの難しさはあるだろうが、そんなものは些細な事である。

 

「気に入られたようですね」

 

フェリシアさんの声で、俺はやっと手を止めた。気づけばかなりの時間テンペストを振っていたようだが、疲労感はなく充実した気分だ。

 

「このテンペストが欲しい!いくらで売ってくれるんだ?」

 

俺は興奮しながらフェリシアさんに詰め寄った。

 

「そうですね‥‥試作品ですので、このくらいでいかがでしょうか?」

 

そう言ってフェリシアさんが提示した金額は意外な程安かった。

 

「こんな値段で良いのか!?」

「ええ。ただし条件があります。このテンペストはまだ試作品です。ですから定期的に来店していただいて、使い心地や改善点を報告してもらいたいのです」

「お安い御用だ!」

 

俺は二つ返事で頷いた。

 

「ありがとうございます。ではテンペストはお客様にお売りいたしますわ」

「ありがとう!」

 

その後俺は代金を支払い、テンペストを手に銀の鎚を後にした。

 

(話題通り、いや、話題以上の良い店だった。次に来る時は防具も見てみようか)

 

そんな事を考えながら。

 

 

 

 

 

 

その後、モーヴ・カナードはテンペストと共に幾多の依頼を成功させ、やがてその苛烈な戦い振りと勇敢さから自らの愛用する剣の銘と同じ『テンペスト』の二つ名で呼ばれるほどの冒険者へと成長していくのだが、それはまた別の話である。

話中に出てくるテンペストのような形状の武器は実在しません(多分)。100%作者の妄想ですので、突っ込まないでやって下さい。 笑

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