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鍛冶師の決意

本当にお待たせしてすみません。再開いたします。感想、意見、何でもお寄せ下さい。

「どういう事かご説明いただけますか?」

「開口一番がそれか‥‥」

 

紅龍の翼亭。部屋に戻ったカイゼル達を見るなりそう口にするディーナに、カイゼルは苦笑を浮かべた。

 

「それはそうでしょう。遺跡の調査に行ったはずのカイゼル様が、見知らぬ女性を二人も連れて帰って来たのです」

「そうだな。当然の反応だ。これから順を追って説明するよ」

 

そう言うとカイゼルは、今回の出来事について説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

「そんな事があったのですか‥‥」

 

一通りの説明を聞いたディーナは神妙な顔でそう呟いた。

 

「ああ。それでディーナ、この二人が私達と一緒に暮らす事に同意してくれるかい?」

「カイゼル様の決められた事ですから、私はそれに従うまでです」

 

ディーナが同意すると、フェリシアとブレイガードの顔に安堵の笑みが浮かんだ。

 

「ありがとうございますディーナさん。これからよろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくお願いします」 

 

フェリシア達とディーナが微笑み合う。

 

「さあ、話もまとまった。早速だがこれから私達が住むことになる家を見に行ってみないか?下で今回の依頼者のタリムさんが待っていてくれているんだ」

 

カイゼルがそう提案する。そして階下で待っていたタリムと合流したカイゼル達は、報酬の家を確認するため紅龍の翼亭を後にした。

 

 

 

 

 

 

「こちらが報酬の物件になります」

 

タリムの案内で到着したのは簡素だが、しっかりした造りの一軒家だった。

 

「これは‥‥なかなか大きな家ですね」

 

エレンから「小さいながらも‥‥」と説明を受けていたカイゼルは、自分の予想よりも遥かに大きな家を見て少々驚いていた。これならばカイゼル達四人が暮らしても窮屈に感じる事はないだろう。


「さあカイゼルさん、家の中も確認してください」

 

タリムに促され、カイゼルはナヴァルから受け取った鍵で玄関の扉を開け中へ入った。

 

「‥‥少し変わった造りですね」

 

家に入ってすぐ、ディーナがそう呟いた。確かに少々変わった造りだ。一階は仕切りがない広い空間になっていて、奥にはカウンターがある。家というより何かの店舗に近い間取りだ。

 

「実はこの家、元は私の叔父の家なんです。叔父はちょっとした道具屋を営んでいたので、一階は店舗として使っていました。その叔父も数年前に亡くなり、今は私が管理しているというわけです」

 

タリムがそう説明する。カイゼル達はタリムの説明を受けながら一階、そして二階と見て回った。

 

「さて、これで家の中を一通り見て回ったわけですが、どうでしたか?」

 

家中の見学を終え、タリムがカイゼル達に訊ねる。

 

「素晴らしい家です。ですが、このように立派な家を本当に無償でお借りしてしまっても良いのでしょうか」

「ええ、構いませんよ。今回の調査結果を考えれば安いものです。それに叔父が亡くなってからはずっと空き家でしたから、誰かが使ってくれれば叔父も喜ぶでしょう」

 

カイゼルの質問にタリムはそう答えた。

 

「ではぶしつけながらもう一つ質問を。この家、最終的には私が買い取りたいと考えているのですが‥‥タリムさんは手放す気がおありですか?」

「買い取りですか‥‥」

「一年間も無償でお借りするのに図々しいお願いだということは承知しています。しかし、ここにいる四人は事情はそれぞれですが持ち家‥‥拠り所となる場所がありません。私はこの家をその拠り所にしたいのです」

 

カイゼルの言葉にタリムは暫く考え込む。それは短い時間だったが、カイゼルには途轍もなく長い時間に感じられた。そして暫くの後、タリムは一つ頷いた。

 

「分かりました。カイゼルさん達にお売りしましょう」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

カイゼルの顔に安堵の笑みが浮かんだ。

 

「買い取りの詳細についてはまた後日話し合いましょう。何はともあれこの家は今日からカイゼルさん達の家です。自由に使って下さい。では、私はこれで」

 

そう言って立ち去ろうとしたタリム。しかし

 

「すみません。一つお聞きしたいことが‥‥」

 

その背中に声をかけた人物がいた。フェリシアだ。

 

「何でしょうか?」

「タリムさんさえ良かったら、この一階で鍛冶屋を開きたいのですが‥‥許していただけますか?」

「!?‥‥良いのですか?」

 

タリムの問いかけは、フェリシアの過去の出来事に対してだった。あれほど辛い経験をしてきたのだ。もし再びフェリシアの鍛えた武具が悪用されでもしたら、彼女は心に深い傷を負うのでは──そう懸念したのだ。

 

「大丈夫です。武具はそれを持つ人の在り方を映す鏡。持つ人によって大切なものを守る力にもなれば、災いを呼ぶ凶器にもなる物です。だからこそ私は今を生きる人達を、もう一度信じてみたい」

 

そう話すフェリシアの瞳には固い決意がありありと見て取れた。

 

「それに居候の身で何もしないというのも心苦しいですしね。ですからタリムさん、許可をいただけませんか?タリムさんには迷惑をかけないとお約束します」

 

そう言うとフェリシアは深々と頭を下げた。それに続くように、ブレイガードもタリムに頭を下げる。

 

「タリム殿、私からもお願いいたします」

 

「‥‥分かりました。許可します。一階はフェリシアさんが鍛冶屋として使って下さい。カイゼルさんもそれでよろしいですか?」

「はい。フェリシアさんがそこまでの決意で決めたことですから、反対はしません」

 

「タリムさん、カイゼルさん‥‥ありがとうございます!」

 

そう言って頭を上げたフェリシアの瞳には、一筋の涙が光っていたのだった。

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