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ある鍛冶師の過去

私生活多忙のため長らくお待たせしましたが、更新再開します。またお付き合い下さい。

「この剣を‥‥あなたが!?」

 

カイゼルは驚きを隠せなかった。世界蛇をネメフェアから授かった時確かに魔族が鍛えた剣だと聞いてはいたが、その本人に出会えるとは思っていなかったのだ。

 

「はい。それは確かに私の作品です。驚いているようですね?」

「ええ。この剣はある方から授かった物なのですが、まさかその作者に会えるとは思っていませんでしたので‥‥」

 

そう言いながら世界蛇を見ているカイゼルに

 

「少し、昔話をしましょうか」

 

フェリシアは微笑みかけながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から二百年前、この世界は戦乱のただ中にありました。領土拡大のため、宗教種族の違いから‥‥理由は様々でしたが、当時はいつもどこかで争いが起きているような時代でした」

 

そう言うとフェリシアは、どこか遠い目をして言葉を切った。その当時の事を思い出しているのだろう。

 

「そんな争いの絶えない時代でしたから、鍛冶師達の所には頻繁に武具の作成依頼が舞い込みました。勿論私の所にもです。私は自分の武具が少しでも早く争いを終わらせ、平和な世界を作る手助けになれば良い‥‥そんな願いを込めながら剣を、槍を、盾を、鎧を作りました。他の鍛冶師達も同じ様な気持ちで仕事をしていたと思います」

 

そこまで話したフェリシアの表情に陰りが差した。場を沈黙が支配していく。そして、長い沈黙の後フェリシアは再び口を開いた。

 

「ですが我々の願いとは裏腹に、争いは終わりませんでした。一つの戦争が終わればすぐにまた別の地で戦争が始まり、それが終わればまた次が‥‥その繰り返しだったのです。そして戦乱が長引くにつれて、鍛冶師に対する要求も変わってきました。もっと強い武器を、もっと殺傷力の高い剣を、もっと効率良く人を殺せる武器を、人は求めるようになっていきました。それは平和を求める我々鍛冶師の願いとは正反対の要求でしたが、それでも私は依頼を受け続けました。いつか私達の願いが実を結ぶ、そう信じながら‥‥ですがある日、その願いを打ち砕く知らせが入って来たのです」

「その‥‥知らせというのは?」

 

タリムが恐る恐る尋ねる。

 

「‥‥ある傭兵部隊が小さな村で虐殺を行ったという知らせでした。彼等は何の罪もない村人達を殺し、食料や金品を略奪し、最後には村に火をかけて焼き払ったそうです。その部隊は‥‥」

 

そこまで話したフェリシアの双瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。

 

「その部隊は私が依頼を受けて、武具を提供した部隊でした」

 

誰も言葉を発しなかった──否、発することができなかった。平和な世界が来ることを願いながら作った武具が、それとはかけ離れた邪悪な欲望のために使われる。それを知った時のフェリシアの気持ちは想像すらできない。故に誰も、何も言えずにいた。

 

「知らせを聞いた私は全てに絶望しました。戦争の終わらないこの世界にも、欲望のままに争いを続ける人々にも、そんな人々に武具を提供した私自身にも‥‥私はそれから依頼を受けることを辞め、当時から廃墟になっていたこの場所の地下に鍛冶場を移しました。そして決めたのです‥‥私自身を封印してしまおう、と」

「自らを封印したのですか!?」

「そうです」

 

驚愕から思わず口をついて出たカイゼルの言葉を、フェリシアはあっさりと肯定した。

 

「自分自身を封印すると決めた私は持てる技と魔術の全てを使って、この鍛冶場を守るためにブレイガードを作り、鍛冶場の扉を開く鍵としてその世界蛇を作りました。そして世界蛇を私の最後の作として世に送り出した後、眠りにつきました」

「誰かが再び扉を開く時まで‥‥ですか」

 

カイゼルの言葉に、フェリシアは寂しげに笑った。

 

「いえ、世界蛇が鍵の役割として使える事は誰にも話していません。そもそも鍛冶場をここに移したことも誰一人知らないはずです」

「それでは誰もあなたを目覚めさせられないではありませんか!どうするつもりだったのですか!?」

 

困惑するカイゼルの問いかけにフェリシアはしばしうつむいた後、

 

「私は目覚めるつもりはありませんでした。封印されたまま誰からも忘れられ、ここで朽ち果てていくつもりだったのです。」

 

そう答えたのだった。

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