宿屋『紅龍の翼亭』にて(カレラSide)
思ったよりも長くなりました。勢いで書いたので、おかしなところがあれば御指摘下さい。
「父さん、宿の前の掃除してくるね」
宿の奥にいる父親に声をかけると、私は箒を手にする。私の名前はカレラ・スカーレット。グレイセルの町にある宿屋『紅龍の翼亭』の一人娘だ。基本は宿屋だけれど、一階で食堂兼酒場もやっているので結構繁盛している。
「あれ?ディーナさんだ」
宿を出てすぐに、私はお客様のディーナさんを見つけた。彼女は連れのカイゼルさんの見送りに外へ出てきたみたいだ。
「おはようございます、ディーナさん」
「おはようございます、カレラさん」
私が挨拶すると、ディーナさんは振り返って挨拶を返してくれた。
(それにしても、本当に美人だなぁ‥‥)
私はディーナさんを見ながら、そんな事を思っていた。肩で切り揃えられたサラサラの黒髪に真っ白な肌。町を歩いたら、すれ違う男性が皆振り返るに違いない。
「カイゼルさんは出かけたの?」
「はい。依頼者に会いに行く予定でしたので」
「そうなんだ。それにしてもカイゼルさんが冒険者だなんてまだ信じられないなぁ‥‥昨日カイゼルさん達が宿に来た時、貴族の方かと思ったくらいだもの」
そう、美人なのはディーナさんだけではなくて、連れのカイゼルさんもなのだ。昨日二人が宿に入って来た時、私も家族も二人をどこかの貴族だと思ったくらい。
「貴族ですか?」
私の言葉にディーナさんは首を傾げた。
「そう、美しい貴族のご令嬢と、それに劣らないくらい綺麗な側仕えのメイドさん。多分昨日宿にいた人は皆そう思ったんじゃないかな?まあ結局カイゼルさんはご令嬢どころか女性ですらなかったんだけどね」
私はそう言うと、昨日の光景を思い出す。
(あれは凄かったなぁ。二人が宿に入って来た瞬間、私と家族の視線も一階の食堂にいたお客様達の視線も皆二人に釘付けになっていたものね。その後食堂でお酒を飲んでた男の人が何人か二人に声をかけようとしていたけれど、とんでもない美人だから後込みして結局誰も声かけられなかったし)
私は声をかけられずにいた男の人達の、何ともいえない表情を思い出して笑ってしまった。
「それにしてもカイゼルさんもディーナさんも凄く綺麗だよね。髪もサラサラのツヤツヤだし、肌は真っ白だし。羨ましいなぁ‥‥」
私はそっとため息をつく。ディーナさんもカイゼルさんも、何度も言うようだけれどめったにお目にかかれないほどの美人なのだ。
「そうですか?確かにカイゼル様は男性とは思えないほどお美しいですが」
そう、何よりも驚きなのがカイゼルさんが男性だということなのだ。あれだけ綺麗な人が男性だなんて、正直女として自信をなくしてしまう。
「ディーナさんだって綺麗だよ。私なんか髪は癖っ毛だし、肌だってそんなに白くないし‥‥」
ディーナさんは謙遜するけれど、彼女だってカイゼルさんに負けないくらいに綺麗だと思う。それに引き替え私は肌だって日に焼けて二人ほど白くない。伸ばして頭の上の方で一つに束ねた赤い髪は私のちょっとした自慢ではあるけれど、ディーナさん達に比べたら見劣りしてしまう。
「私はカレラさんも美人だと思いますよ?綺麗な長い赤毛ですし、肌もきめ細かいではありませんか」
そんな事を考えていた私に、ディーナさんはそんな言葉をかけてくれた。
「そ、そんなことないよ!」
私は慌てて首を横に振った。顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。ちょうどその時、父さんが私を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、父さんが呼んでる。それじゃあディーナさん、失礼しますね」
私は話を切り上げると宿に戻った。多分まだ顔は赤いままだ。
(ディーナさんみたいに綺麗な人に、美人って言われちゃった)
嬉しくなった私は、軽くスキップしながら父さんのところに向かったのだった。